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9 決着


 対象の固有時間を加速させる《固有時間加速スペルブースト

 引き延ばされた時間の中で私とガウェインさんの攻防は続いていた。


 ついていくのが精一杯。

 ほんの一瞬も気を抜くことができない。


 一歩間違えればギリギリで保たれた均衡はあっけなく崩れ、私は演習場の床を転がることになるだろう。


 だけど、自分より強い相手とギリギリで渡り合う緊張感は、学院生時代のルークとの攻防と同じだった。


 ルークのやつってば、ほんと嫌味みたいに強くて何度ボコボコにされたことか。


 ムカつくからその分たくさん練習と対策をして、その次は必ず私がボコボコにしかえしてたんだけど。


 数え切れないほど繰り返した一対一。

 その時間が私に力をくれる。


 一人じゃない。

 今の私はルークの力を借りて戦っていて、


 だけど、魔法を交わす中でひとつ明確にわかってしまう。

 気づいてしまう。


 ――勝てない。


 相手は魔法戦闘のプロフェッショナルだ。

 魔法使いとして戦った経験の量が違いすぎる。


 先についていけなくなるのは私の方。


 だったら、それを理解した上でどうするか。


 ――勝ちたい。


 心の中で負けず嫌いなあの頃の私が叫んでいる。


 そうだ。

 あの日の私はルークが天才だとかそんなの知ったことじゃなくて。

 ただ負けたくないって一心で自分より高い壁を越えてやろうと挑み続けた。


 社会では通用しなかったけど、でもまたあの頃みたいに、ルークをぎゃふんと言わせられるくらいがんばりたいって思うから。


 だから、ごめん。


 60秒耐えられないかもしれない。


 許して。



 その代わり、それよりずっと大きなものを私、取りに行くから――



 踏み込む。


 間合いを詰める。


 当たれば即致命傷の至近距離。


 だからこそ、私が放つカウンターも最高の威力を持ったものになる。



 王国魔法界の頂点。

 聖宝メイガス級魔術師を超えてやる――



 60秒耐え抜きを捨て、勝ちを取りにいった私の踏み込みに、ガウェインさんの口角が上がる。


 はるかに格上の自分を超えようと踏み込んだ無鉄砲な新人が、面白くて仕方ないというようなそんな笑み。


 交錯する。


 四方を埋め尽くすように展開する魔法陣。


 ガウェインさんの業火と私の暴風が衝突する。


 鼓膜を叩く強烈な衝撃波。


 演習場を包んだ土煙が次第に晴れていく。


 私の魔法は、ガウェインさんに届かず、


 しかしガウェインさんの魔法も私に届いてはいなかった。


「面白え」


 ガウェインさんは口角を上げる。


「ありがとよ。本気で殴っても壊れない相手とやるのは久しぶりだ」

「とんでもない。こちらこそありがとうございます。なんだか昔に戻ったみたいで、心が軽くて」

「そうか? いいことだ」


 うなずいてからガウェインさんは言った。


「よし、じゃあ第二ラウンドを――」


 不意に割り込んだのは、冷たい氷のような声だった。


「60秒、そこまでです」


 その声に、ガウェインさんは顔をしかめてから言う。


「いや、これからが楽しいところで」

聖宝メイガス級魔術師が本気で楽しんでどうするんですか。新人相手に」


 すらりと伸びた細身の長身と銀色の髪。

 美しい鳥を思わせる外見のその人のことを私は知っていた。


 氷の魔法使い、クリス・シャーロック。


 ガウェインさんと同じ、聖宝メイガス級魔術師の一人。


「いいだろ。ちょっとくらい」

「隊長が決めたルールを破っていては下の者に示しがつきません。ミカエル殿下もご覧になっているんですよ。我々魔術師団の評価を下げないよう、節度と常識を弁えた行動を――」

「わかったよ。やめればいいんだろ、やめれば」


 頭をかきながら言うガウェインさん。

 それから、私を見下ろして言った。


「お前、合格だ」


 その言葉に、ようやく自分が合格したことに気づく。


 やった……!

 私、合格できたんだ……!


 まさか60秒耐え抜くとは思ってなかったのだろう。

 観覧の人たちはみんな呆然としている。


 ふふん! 見たかルーク!


 達成感に目を細めてから、私はルークに向け『どうだ!』とどや顔してやったのだった。



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