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84 可能性


「お前、王子殿下に大見得切ったらしいな」


 ガウェインの言葉にルークはうなずく。


「すみません。勝手なことをして」

「いいよ。お前がやりたいようにやればいい。それだけ譲れないことなんだろ」


 ガウェインは真剣な顔で言った。


「当てはあるのか」


 その言葉にルークは少し迷う。


 人に頼るのは苦手だ。

 自分でできることは自分で処理するし、自分にできないことはできるようになるまで努力する。


 ルーク・ヴァルトシュタインはそうやって生きてきた。



 一番でなければお前に生きている価値はない。



 厳格な父の教えは、呪いのように彼の中に残っている。


 だからこそ、変わらなければいけない気がした。


 誰にも頼らず一人で生きていた自分の前に現れた大切な存在。

 隣にいるためなら、どんなことでもすると決めた。

 だったら、父の残滓になんて左右されているわけにはいかない。


 少しずつでいい。

 人に頼れる自分になろう。



『ねえねえ、ルーク! ちょっと教えて欲しいんだけどさ』



 あいつがいつもやっているように。


「少し、相談に乗ってもらえますか」


 慣れない様子で言ったルークに、ガウェインはうなずいた。


 自身の策を伝えるルーク。

 現状のプランに不足があることを誰よりも自分自身が自覚している。


 不完全で欠陥のあるプラン。

 できれば心の中にとどめておきたかったもの。


 それでも、彼女の隣にいるためなのだ。

 可能性があるなら、手段を選んではいられない。


 ルークのプランを聞いて、ガウェインは言う。


「これは王宮の中でもまだ数名しか知らない機密だ。お前を信用して伝える。いいな」


 ルークはうなずく。


「御前試合の結果、あいつの存在はさらに大きなものになりつつある。革新派貴族の中には、ノエル・スプリングフィールドという魔法使いを高く評価する者もでてきた。そんな中で、国王陛下もあいつに興味を持っているらしい」

「国王陛下が……」


 驚いてから、納得する。

 剣聖相手にあれだけの戦いを見せたのだ。

 興味を持つのも自然なこと。


 それは一つの可能性として御前試合の時点で想定していたことでもある。


「王国の中でお前たち二人がさらに高く評価される存在になれば、王子殿下と言えど簡単には動かせなくなる。相棒バディとして並び立つことで単純な足し算以上の力を発揮できると証明しろ。そして、それを示せる可能性がある事柄にも一つ心当たりがある」


 ガウェインはルークに視線を向けて続ける。


「最高難度迷宮の一つ、ヴァイスローザ大迷宮。その七十九層が攻略された」


 その言葉に、ルークは息を呑む。

 ヴァイスローザ大迷宮。

 魔物が生息する未開拓地に位置するその迷宮は、近隣諸国から最高難度迷宮として指定されている。


 発見されてから千七百年。

 未だに攻略されていない未踏迷宮。

 特に七十九層の階層守護者フロアボスは常軌を逸した強さで、二十年もの間冒険者たちを阻み続けていたと聞く。


「七大未踏迷宮の八十層以降に人類が足を踏み入れたのは人類史において初の出来事だ。既に近隣諸国の精鋭たちが調査のために派遣されている。冒険者たちも世界中から集まり始めているらしい。国の上層部から候補者としてすぐに動かせる有力な魔法使いをリストアップしてほしいと言われてな」

「それに僕らを選んでくれる、と」

「いや。選ばない」

「え?」

「今回貴族連中の不手際で、初動で他国に出遅れているんだと。正式な手順なんて踏んでたら、さらに差をつけられてしまう。勝手に行って勝手に成果を上げてこい。後のフォローはこっちでなんとかする」

「いいんですか?」


 瞳を揺らすルークにガウェインは言った。


「給料上がったらなんか奢れよ」

「なんでも奢ります」


 深く頭を下げてから、ルークは早足で部屋を出る。


 幾多の精鋭が集う最高難度迷宮の未踏領域。

 隣にいることで、他の誰にも負けない成果を上げられることを示すために。


 ルーク・ヴァルトシュタインは戦場に向かう準備を開始する。



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