70 驚愕
私を取り囲んだ犯罪組織の人たち。
身のこなしを見るだけで相当の凄腕揃いだということがわかった。
おそらく、組織の中でも戦闘に特化した人たちなのだろう。
戦いの経験も戦闘技能も王宮魔術師一年目の私とは住む世界が違う。
その上、彼らが持っているのは裏社会で流通している違法魔法武器――『風神の杖』。
その魔法武器の威力は、魔法使いの魔法より格段に上と謳われていると資料で読んだことがある。
数でも経験でも装備でも、そのすべてで私ははっきりと劣っていて。
「おいおい、子供じゃねえか」
バカにするみたいに笑う人もいて。
多分それが客観的に見たら自然なことで。
だけど、私は胸の奥で熱いものがたぎるのを感じている。
他の何より大好きな魔法。
私は知っている。
魔法使いが魔法にかけてきた情熱を。汗の量を。
だからこそ、気に入らないんだ。
――魔法使いの魔法より上とか、簡単に言わないで。
起動する魔法式。
幾重にも高速展開する魔法陣。
放つのは渾身の風魔法。
《烈風砲》
轟音が地下施設を揺らした。
◆ ◆ ◆
王国の陰に潜む犯罪組織『黄昏』
組織の戦闘部門である十本腕の筆頭を務めるその男は、訓練と禁止薬により人間離れした力と戦闘技能を習得していた。
三桁を超える戦闘を経験し未だ無敗。
傷を負った経験も数えるほどしかない。
「やれ」
男の指示に、十本腕の一人が魔法武器を構える。
組織が密売している違法武器の中で最も性能の高い『風神の杖』
十本腕が持つのは、それに改造を加え出力を向上させた特別製のものだった。
その絶大な力は、魔法使いが放つ魔法の威力をはるかに超えている。
杖が光を放つ。
頬を焼く閃光。
起動するのは極大の風魔法。
人間離れした力を持つ彼らでも、片腕で杖を握れない。
少しでも気を抜けば弾き飛ばされてしまう絶大な魔力量。
放たれた風の大砲は侵入者を跡形もなく消し飛ばそうと疾駆する。
しかし、その瞬間。
男が感じたのは経験したことのない魔力の気配だった。
(――――!?)
悪寒。
極限状態の戦闘の中で磨いてきた直感が彼に伝えている。
何かがいる――と。
握っていた魔法杖を振ったのは半ば反射的な行動だった。
他の十本腕も同様だったのだろう。
迫る脅威を回避すべく、本能的に自分にできる最大威力の攻撃を放つ。
常軌を逸した出力の魔法杖。
放たれる暴風は人間が制御できる域を超えた破壊力。
しかし、そこにあったのは彼が知る常識を超越した存在だった。
(速い――!?)
異常な速さで高速展開する魔法陣。
早送りのような速度で放たれる風の大砲。
小さな魔法使いは十の極大魔法を一人で相殺している。
目の前の光景が信じられない。
男は呆然と瞳を揺らす。
しかし、待っていたのはさらなる衝撃だった。
(まだ出力が上がる……!?)
魔法の連射速度が増す。
魔法杖による猛攻を押し返し始める。
(ありえない。こんなこと、あるわけが……)
ついていくことができない。
規格外の力を持つ魔法杖、その総攻撃でなんとか耐え凌ぐのが精一杯。
(なんだ……なんなんだ、これは……)
自身の想像をはるかに超えた何か。
男は背筋に冷たいものが伝うのを感じている。