67 親友
開演までの時間、ルークと歌劇場近くのお店を回って食べ歩きをした。
唐揚げもポテトもイカ焼きも本当においしくて。
お腹いっぱい幸せな気分で街を歩く。
「あのお店とかどう? ちょっと入ってみない?」
ルークが言ったのは、王都で今人気の洋服店。
どんな感じなのか興味もあったけど、しかし私は路地の奥にある小さなお店に吸い寄せられていた。
「私はあっち見たいな。というか見てくる」
華やかな表通りから一路入ったところにあるその小さなお店は、古書店だった。
香ばしい本の香りに目を細める。
できればゆっくり見て回りたいところだったけど、劇の開演まで時間はあまり多くない。
魔導書の棚を急いで見て回る。
おお! これ面白そう!
この魔法使いさん、あまり評価されてないみたいでタダ同然で売られている著書も多いんだけど、私はすごく魅力的な研究してると思うんだよね。
これは買い、と!
それからこれと、あっちの本も――
手を伸ばそうとした私の視線の先で、綺麗な細い指が書棚から私の取りたかった本を抜いた。
「お求めはこれ?」
「おお、正解。気が利く友を持って私はうれしいぞ」
ルークが取ってくれた本を受け取る。
初老の店主さんに会計をしてもらった。
合計三冊。思ったより少し高かったけど、がんばった自分へのご褒美ってことで。
紙袋を抱えて頬をゆるめつつ古書店の外に出る。
お店の前でルークが女の子に声をかけられていた。
「あの、よかったらお茶でも」
かわいい子だった。
お洒落で素敵な同い年くらいの女の子。
「悪いけど大事な用があるから」
ルークはあっさり断ってから、
「行こうか」
と私の隣に並んだ。
改めて良いやつだよなぁ、と思う。
いつも友達である私のことを優先してくれるんだ、この人は。
古書店なんて興味ないだろうに、付き合ってついてきてくれて。
飛竜種騒ぎのときも、誰よりも早く駆けつけて来てくれて。
何より、地方の魔道具師ギルドを解雇されて行き場が無かった私を見つけてくれて、拾い上げてくれた。
ただの友達をここまで大切にしてくれる。
私なんかよりずっと人間ができていると思わずにいられない。
本当に、私はルークからたくさんのものをもらっていて、
だからこそ、思うんだ。
私もルークの力になりたいって。
『ノエルさん。知っているかもしれませんが実は歌劇場で魔導書の闇取引が――』
ルークが夢である聖宝級魔術師に近づけるように。
親友であり、ライバルとして、
頼りになるでしょって胸を張れる私でいるために。
それに、魔導書の闇取引を阻止するって冒険小説みたいでなんだかわくわくするしね!
この事件、私がばっちり解決してやるんだから。
ルークの隣で歌劇場へ向かう。
私は密かにそう決意している。