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6 聖宝級魔術師


 向かい合っただけでその人が只者じゃないのはわかった。

 大柄な体躯に、鍛え抜かれた鋼のような筋肉。


 学校で教わった先生たちよりもはるかに格上の、初めて向かい合う超一流の魔法使い。


 何より、その人の顔と名前を私は知っている。


 ガウェイン・スターク。


 王国に七人しかいない聖宝メイガス級魔術師の一人であり、王国魔法界における頂点の一角。


 有名人だ……!

 昔憧れていた大魔法使いさんが目の前に!


「あ、あの! サインもらっていいですかっ?」

「ん? 構わねえが、どこに書く?」


 しまった!

 書いてもらうのにちょうどよさそうなものを何も持っていない。

 しばしあわあわしてから私は言う。


「えっと、じゃあ、この制服に」

「やめなさい」


 ルークは私の首根っこをつかむ。


「王宮魔術師のローブにサイン書かせるとか前代未聞だよ? しかも初日に」

「止めないで。ここを逃すともう二度とこんな機会ないかもしれないし」

「ほんと魔法が大好きだよね、君」


 あきれた様子で息を吐くルーク。


「あの人は僕らの上司だから。嫌でもこれから顔合わせるようになるから」

「ま、マジですか……」


 言われてみれば当たり前のことなのだけど、全然実感が湧かないし信じられない。


 本当にすごいところに来てしまったかも、私。


「また面白そうなやつを連れてきたじゃねえか、ルーク。外から相棒バディを連れてくるって言った日にはどうしてやろうかと思ったが」

「言ったじゃないですか。僕が昔勝てなかったやつを連れてくるって」

「いや、本当にそのレベルのやつがくるとは思わねえだろ、普通。そんなやつが在野にいるっていうのもよくわからねえし」

「ちょっとアホで抜けてるところがあるやつなんです」

「誰がアホだっ!」


 断固抗議せざるを得ない。

 頭脳明晰才色兼備知的で大人の色気たっぷりな私をアホ扱いするとは。


「なるほど。仲は良いらしいな」

「そうですね。人を疑う癖のある僕が唯一気を許せる友人です」


 真面目な顔でそんなことを言う。


 ふ、ふーん。

 なんだよ、ちょっと照れるじゃん。


 恥ずかしいセリフに頬をかく私を余所に会話は進む。


「で、お前の相棒バディってことはうちの隊所属になるんだろ」

「そうですね。僕と同じで三番隊所属になります」

「なら、うちにきた新人恒例のあれをやってもいいわけだ」


 あれ?

 なんのことだろう、と首をかしげる私にルークが言った。


「あの人、見ての通りがさつで大ざっぱな体育会系でね。新人が来ると毎回やるんだよ。『地獄の洗礼』『血の60秒』と呼ばれてる恒例行事なんだけど」

「なにその全力で聞きたくないやつ」

「ガウェイン隊長と魔法戦闘をして60秒ノックアウトされずに耐えたら合格。ご褒美がもらえる。まあ、残念ながら合格者はほとんどいないんだけど」


 やりとりを聞いていた周囲の魔術師さんたちからざわめきが漏れる。


「おい、ガウェイン隊長、噂の新人に『血の60秒』やるらしいぞ」

「入って初日かよ。絶対トラウマになるぞ」

「容赦ねえ……壁を壊した化物新人とは言え、あんな小せえちびっ子に」

「子供にしか見えないもんな、あれ」


 誰が子供だ!

 ちびっ子だ!


「調子に乗らないよう完全に鼻を折りにいってるな……」

「折るどころじゃねえ、って。ガウェインさん相手じゃ跡形もなく消し飛ばされるぞ」

「隊長、おやめください! さすがに初日から新人を一方的に虐殺するというのは……」


 ……え?

 私これから殺されるんですか?

 死ぬんですか?


 呆然とする私を、先輩たちが駆け寄ってきて取り囲む。


「大丈夫、新人ちゃん。合格できなくても落ち込まないでいいの。安心して。みんなボコボコにされてるから。十秒耐えた人もほとんどいないから」

「俺なんて三秒持たなかった。それが普通だからな。自信をなくす必要ないからな」

「そうそう。壁を壊せた時点ですごいんだから。どういう結果でも傷つく必要ないよ。落ち込まないようにね」


 ……全然大丈夫に思えないんですが。


 しかも、私は地方の魔道具師ギルドでも通用しなかった身だよ。


 聖宝メイガス級の超一流魔術師であるガウェインさんと手合わせって……。


 これ、本当に死ぬんじゃないかな……。


 白目を剥いて立ち尽くす私に、ルークはくすりと笑って言った。


「がんばって。期待してる」



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