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5 白磁の懐中時計


 ――アーデンフェルド王国。


 魔物が住む未開拓地と隣接したこの国は、西方大陸の中でも進んだ魔法技術を持つ国として知られている。


 魔法教育機関のレベルは世界でもトップクラス。

 中でも、選りすぐりの天才とエリートしかなれない王宮魔術師は世界有数の狭き門だ。


 小さい頃は、私も憧れていた。

 初等学校の文集に、『王宮魔術師になる!』って書いたことを覚えている。


 遠く遠く見える一等星。

 近づいてみたくて、触れてみたくて。


 だから、自分の名前が彫られた懐中時計に、私の頬はどうしようもなくゆるんでしまう。


「すごい! 本物! 本物だよ、ルーク!」

「当たり前でしょ。誰も偽物なんて用意しないって」

「わかってないなぁ、もう。私は感動してるの、感動!」


 身分証と渡される懐中時計は王宮魔術師の証だ。


「これ持つのずっと夢だったんだ。ほんとに持てる日が来るなんて」


 あきらめるしかないと思っていた昔の夢。


 それがまさか現実になるなんて……!


 白磁があしらわれた時計を大切に胸の中に抱える私に、ルークは言う。


「白磁くらいでそれはよろこびすぎじゃない?」

「白磁くらいって……これだから天才様は」

「才能じゃなくて意識の問題。なれたからってそこで満足しちゃダメでしょ。そこからがほんとの始まりなんだから」

「それはそうかもしれないけど」


 王宮魔術師には十の階級がある。


 第一位 聖宝メイガス

 第二位 聖金アダマンタイト

 第三位 聖銀ミスリル

 第四位 黄金ゴールド

 第五位 白銀シルバー

 第六位 青銅ブロンズ

 第七位 紅玉級

 第八位 翠玉級

 第九位 黒曜級

 第十位 白磁級


 より上位の階級になるほど報酬も組織の中での地位も上がっていく。


 一番下であることを考えると、たしかにルークの言うことは正しい。

 そういう気持ちだったからこそ、彼は誰よりも早く上まで行けたのだろう。


「最年少で聖金アダマンタイト級魔術師ってほんとすごいよね」

「一番上も取るよ。もちろん記録作るつもり」

「どこからくるの、その自信」

「自信じゃなくて自負かな。実力的にももう負けてないと思うし」

「そこまで言うんだ……」


 王国に七人しかいない聖宝メイガス級魔術師。

 なれば歴史に名が残る王国魔法界の最高位。

 彼は本気でそこにたどり着こうとしている。

 改めて、大きくなった親友の姿に恐れおののいていると、当の彼はにっこり微笑んで言った。


「君は僕の相棒バディなんだから。白磁で満足してちゃダメ。わかった?」


 そうだった。

 恐れ多くも私、聖金アダマンタイト級魔術師の相棒を務めることになってしまっているのだ。


「が、がんばります」

「まあ、君なら大丈夫だと思うけどね」

「私は全然大丈夫には思えないけど」

「君より僕の方が君のこと知ってるし」


 そんなことを言う。

 いや、何もわかってないと思うよ、ルーク。


 私は地方の魔道具師ギルドでも通用しなかった、底辺魔術師なのだ。

 そりゃ、勉強と練習だけは人一倍やってたから、それなりに通用する部分もあるとは思うけど。

 というか、そう信じたいけど。


「にしても、驚いたな。魔道具師ギルドで働いてたなんて。ノエル、魔力付与って一番苦手じゃなかった?」

「それはもう、ものすっごく苦手だったよ。あれだけは落第まで取ったことあるし……」

「魔力込めすぎてすぐ魔道具粉微塵にするから、破壊神ってあだ名で先生たちに恐れられてたよね」

「そう呼ばれるのは強そうでむしろうれしかったんだけど」

「うれしかったんだ」


 くすりと笑うルーク。


「でも、どうしてそんな苦手なところに?」

「苦手なところの方が魔術師としては成長できるかなって。一応名門魔術学院出て、意識高い系だったからね、私」


 地方でもがんばればきっと認めてもらえるはずだって燃えてたっけ。

 少しでも職場に貢献できるようにって改善提案したり、遅れてる仕事を進んで引き受けたり。


 ちょっと頭良さそうな専門用語とか使ってたのは今や黒歴史だ。


「しかも、一番苦手な下級魔道具作りしかさせてもらえなくてさ。ちょっとでも気を抜くと壊しちゃうからもう気が気じゃなくて。たくさん練習して、今は結構できるようになったと思うんだけど」


 私の言葉に、ルークは口元に手をやって小声で言う。


「なるほどね。それであの魔道具師ギルドは近頃躍進していたわけか」

「ん? ごめん、よく聞こえなかったんだけど」

「なんでもないよ。ただ、君の魔法の腕が学院生時代より上がってた理由がわかっただけ」

「ほんと? そう言ってもらえるのはうれしいな」


 地味で苦手な作業ばかりずっと繰り返していただけにその言葉はすごく勇気づけられる。


 忙しすぎて使わざるを得ない環境だったから、補助魔法と回復魔法は昔よりうまくできるようになったけどね。


 しかし、人って変わるものだよなぁ。

 出会った頃のルークは皮肉屋で人を褒めたり絶対にしなかったのに。


 今は認めすぎって感じるくらいに私のことを評価してくれていて。

 期待してくれていて。


 多分、私が社会にうちのめされて自信をなくしていたというのもあるんだろう。


 自信を持たせようと気づかってくれる。


 その気遣いが何よりもありがたい。


 私も励まされてるばかりじゃダメだよね。

 王宮魔術師なんてすごいところすぎて、通用しないかもしれないけれど。

 それでも気持ちでは負けないようにしなくちゃ。


 昔の無敵で空も飛べそうだった自分を思いだせ。


 ルークが王国一の魔法使いになるなら、私もそれに負けないくらい強くならなくちゃ。


 がんばれ、私!


 気づかれないよう小さく拳を握ったそのときだった。


「おう、探したぜルーク。ってことはそのちっこいのが噂の新人か」


 立っていたのは一人の大柄な男性だった。

 ルークと同じ制服姿の彼は、聖宝――賢者メイガスの石があしらわれた懐中時計を揺らして言った。


「まさか俺以外に入団試験であの壁を壊すやつが出てくるとはね。なぁ、話をしようぜ嬢ちゃん」



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