38 緑色の巨人
自分たちの姿を隠していた補助魔法が解除されたことに気づいたのだろう。
ゴブリンキングは大木を振り上げ、地鳴りのような声を発する。
それが攻撃の合図だった。
一斉に襲いかかってくるゴブリンの軍勢。
千を超える魔物の群れが、一斉に私たちへ殺到する。
対して、私が選んだのは最大火力での迎撃だった。
《多重詠唱》を使い、《魔力増幅》、《魔力強化》で自身の魔力を最大化。
《固有時間加速》、《魔力自動回復》を二重にかけ、効果範囲を最大化するため、ギリギリまでゴブリンの軍勢を引きつける。
――今だ。
《烈風砲》
放たれたのは圧縮された強烈な爆轟。
大地がめくれ上がり、疾駆するゴブリンたちを巻き上げ彼方へ消し飛ばす。
崩壊する前衛。
すかさず間合いを詰め、ゴブリンキングに向け魔法を放つ。
《風刃の桜吹雪》
炸裂する風の刃。
しかし、木々をゼリーのように切断する風の刃は、ゴブリンキングの肌に傷一つつけることはできなかった。
「うそ、なんて耐久力――」
想像をはるかに超える堅さに絶句する。
大技を放った後に発生するクールタイム。
両脇からゴブリンが石の刃を振り上げ私に迫っている。
だけど、対応する必要がないことを私は知っていた。
《轟雷閃》
炸裂した電撃に、崩れ落ちるゴブリンたち。
「ありがと」
「任せて」
魔力量が多くて一発の火力が大きい分、隙ができやすいのが私の弱点。
バランス型で隙がないルークがそこをフォローするのが二人で大型の魔物と戦う際の基本戦法だった。
『なんでそんなに大ざっぱなんだ! 少しは、撃った後のことも考えろ!』
『後のことなんて考えてたら、全力が出せないでしょ! 私は常に今を生きてるの!』
お互い性格と得意分野が違うから、初めのうちは喧嘩ばっかりで。
でも、今は何も言わなくても相手の意図がわかる。
二人、魔法に打ち込んだ日々。
積み重ねた時間。
ああ、やっぱり負けたくないなって思ってしまう。
私はあの頃みたいにルークの隣で対等に張り合える私になりたくて、
だからもっと強くならないといけない。
最年少聖金級。
親友は、はるかずっと先にいて。
地方の魔道具師ギルドで通用しなかった私が対等の存在になるなんて、笑われちゃうくらい難しいことだと思う。
わかってる。
それでも、私は信じたい。
世界中のすべての人が無理だと言っても、私だけは私を信じてあげたいんだ。
きっとできるって。
なりたい自分になれるって。
だって、そうじゃないと本当に無理になっちゃうから。
一歩ずつでいい。
前に進むために。
私はこんなところで立ち止まってなんかいられない。
悪いけど、倒させてもらうよ、ゴブリンキング。
私は緑色の巨人を見据え、前へ進む。