27 過誤(魔道具師ギルド5)
とんでもないことになってしまった。
魔道具師たちの引き留めに失敗した副ギルド長は、ギルド長の家に走った。
「開けてください! 大変なことになってしまいまして!」
「なんだ、騒々しい」
うんざりとした様子で言うギルド長。
報告を聞き、
「なん、だと……」
とワイングラスを落とす。
「職人風情が私にさからうとは……! いまいましい……!」
「いかがいたしましょう……このままでは業務に支障が……」
「他の魔道具師ギルドに、余剰人員を寄こせと伝えろ。とにかく必要なだけかき集めるんだ。手が動かせれば未経験でも構わん」
「しょ、承知しました」
伝手をたどって各所に連絡をする副ギルド長。
「身勝手な職人たちが辞めてしまいまして、少し援助をお願いしたいのです」
しかし、業績が良いことにあぐらをかき、近隣のギルドに威張り散らしていたのが災いした。
要請を受けてくれるギルドは一向に現れない。
「どうしますか……このままでは納期が……」
「他のギルドから完成品を仕入れろ。サインだけ変えて横流ししてごまかせ」
「しかし、それは問題になるのでは」
「バレないようにやればいい。たとえ取引を打ち切られてもどうにでもなる。オズワルド様と侯爵様からの仕事さえあれば」
「そうですね。水晶玉だけ我々で作れば」
「あんな役立たずでも作れたのだ。我々にできないはずがない」
作業に取りかかる二人。
しかし、思いのほか作業が進まない。
「今、何分経った」
「二時間です」
「二時間……!? それだけかけてこれだけか?」
「申し訳ありません。しかし、思った以上に製作が難しく……」
副ギルド長は頭を下げて言う。
「ギルド長はいくつ作れましたか?」
「……黙って作業を続けろ」
日が暮れ、真夜中になっても二人の仕事は終わらない。
「寝るなよ。寝たら殺すぞ。絶対に間に合わせなければならないんだ」
「わかっています。間に合わなければどんなことになるか」
懸命に作業をする二人。
しかし、慣れてきたにもかかわらずまるで仕事が進まない。
(おかしい。ひとつ作るだけでこれだけ時間がかかるんだぞ。いったいどうすれば一日であれだけの数量を……)
疑問に感じていたのはギルド長も同じだったのだろう。
「あの小娘は本当に一人であの量を毎日作っていたのか?」
問いかけに副ギルド長はうなずく。
「そのはずです。担当は彼女一人でした」
「本当に一人でか? 他の者に手伝わせてはいないんだな」
「はい。それどころか、進捗が遅れている他の者の仕事を手伝っていたという話も」
「…………」
黙り込むギルド長。
副ギルド長は、現場主任の言葉を思いだして彼に伝えた。
『遅れている仕事を率先して引き受け、納期に間に合うよう補助魔法や回復魔法まで――』
「補助魔法や回復魔法……たしかにそんなことは言っていたな」
「ええ。そんな高度な魔法が辺境の下っ端魔道具師に使えるわけがないとは思うのですが」
「だが、実際にその類いの魔法が使えなければこの数量の仕事ができるとは思えない。あの小娘はたしか、王都の名門魔術学院を出たと言っていた」
「ええ。聞く価値のない戯言です」
「だが、もしそれが真実なのだとしたら」
「まさか……」
声をふるわせて言う副ギルド長。
それはにわかには信じがたい、普段の彼ならありえるはずがないと一蹴するような可能性。
しかし、今置かれている状況がすべて、その一点に集約されていくのを彼は感じていた。
魔道具師たちが言っていたように、彼女が一人で現場を支えていたとしたら。
他のギルドに比べはるかに高かった生産効率と利益率が彼女の力によってもたらされていたのだとしたら。
自分たちはとんでもない過ちを犯してしまったのではないか。
後ずさり、へたりこむ副ギルド長。
ギルド長は机を激しく叩き、言った。
「探せ! どんな手を使ってもいい! あの小娘を連れ戻せ!」