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25 商談(魔道具師ギルド3)


 その日、副ギルド長はギルド長と共に侯爵様との商談に臨んでいた。


 何度も洗面所に行き、鏡で身だしなみを入念に確認する。


 絶対に失敗は許されない。


 なぜなら今日の商談には、王国貴族社会の頂点に立つ一人――アーサー・オズワルド大公まで出席されるという話なのだ。


「落ち着け。何を怯えている。この小心者が」

「申し訳ありません。しかし、侯爵様だけでなくオズワルド様というのは」


 生涯を通して関わる機会があるとは夢にも思わなかった大貴族。

 気に入られれば、一瞬で人生が変わってしまう可能性さえある。


 しかし同時に、機嫌を損ねればどれだけの不利益を被ることになるかわからない。


(絶対にこの商談は成功させなければ)


 意気込む副ギルド長。

 深呼吸し心を落ち着かせてから、気になっていたことをギルド長に言う。


「しかし、なぜオズワルド様まで出席されることになったのでしょう」


 当初、この商談にオズワルド大公が出席する予定は無かった。

 にもかかわらず、前日になって急遽出席が決まったのだ。


「さあな。だが、絶対に深追いはするなよ。関係を持っているそれだけで、王国の中でどれだけのアドバンテージになるか。たとえ商談をなかったことにしたいと言われても穏やかに微笑んで受け入れろ。最優先は関係を悪くしないことだ」

「わかっています」


 オズワルド商会は、一流の相手としか取引をしないことで知られている。

 たとえ今回取引がなくなったとしても、オズワルド商会が興味を持ったという事実。

 それだけでギルドの製品への評価は間違いなく跳ね上がる。


 興味を持っていただけた。

 その時点で成功は目の前にあるも同然なのだ。


 応接室で待っていた二人は、外から聞こえた物音に立ち上がると入ってきた人物に深々と礼をする。


「すまない。待たせてしまって」

「いえ、とんでもございません。お話しする機会を作っていただいて本当にありがとうございます」


 商談が始まる。

 和やかな世間話の後、発せられた侯爵様の言葉に、副ギルド長は心臓が飛びだしそうになった。


「お、オズワルド商会で取り扱っていただけると正式に決定したのですか……」


 声にならない声。

 オズワルド大公はうなずいてから言う。


「あなたたちが作る水晶玉は本当に素晴らしいとうちの商人たちも皆口を揃えて言っておりまして。是非前倒しで取引を始めたいと会議で決まったんです」

「ありがとうございます……! 本当にありがとうございます……!!」


 その言葉が西部辺境の魔道具師ギルドにとってどれだけ大きなものか。

 相手は王国一の大商会を所有する大貴族なのだ。


(本当に王国屈指の魔道具師ギルドになれる……! 収益が倍どころでは済まないぞ……!)


「つきましては、早速うちの商会で取り扱う製品も発注したいと思っています。数量はこの程度なのですが納期的にはいつ頃になりますか?」

「この量でしたら問題ありません。二週間あればお出しできます」


 ギルド長の言葉に、大公は瞳を揺らした。


「本当に大丈夫ですか? この量を二週間というのはなかなか簡単なことではないと思いますが」

「我々は妥協なく現場の効率化に努めております。これくらいの量はいつも作っておりますので」

「うちの商会は信用を第一にしています。高い品質と、優れたサービス。そこには期日までに必ず商品を届けることも含まれています。絶対に遅れることは許されない。そういう意識を持って動いてもらいたい。その原則を厳守していただくためにも、余裕を持った納期で職人さんたちにはお願いしたいのです。無理をさせては良い魔道具は作れないと思いますしね」


 オズワルド大公は念を押すように言う。


「それを踏まえて、何があっても必ず守れる納期を教えていただきたい。いつになりますか?」

「二週間後で問題ありません」


 ギルド長は自信に満ちた表情で言った。


「我々のギルドにおいて、その数量が間に合わないということは絶対にありえない。そう断言できます」






「うまくいったな」

「はい。望外の結果でした。まさか取引を始めていただけるとは」


 商談の帰り道、二人は声を弾ませて話をする。


「しかし、納期は大丈夫でしょうか? 魔道具師たちに無断で決めてしまいましたが」

「仕事を取ってくるのが我々の仕事だ。間に合わせるのは連中の仕事だろう。それに、あの数量なら問題ない。役立たずの女でもあの程度の量は数日でこなしていたからな」

「最初の仕事は今後関係を構築していく上でも印象に残りやすい。素早い納品ができるに越したことはないですもんね」

「そういうことだ」


 うなずくギルド長。


「現場に伝えてこい。わかったな」

「はい。承知しました」


 ギルド長と別れてから、副ギルド長は工房に向かう。


「おい、やっているかお前たち」


 魔道具師たちは、いつもに比べ疲弊しているように見えた。

 目には厚い隈ができ、動きのひとつひとつが鈍い。


 今まではいくら無理をさせても、こんなことにはならなかったはずなのだが。


(さすがに人手を減らしすぎたか?)


 一抹の不安を感じつつ、現場主任に、作業の進捗を確認する副ギルド長。


「こちらが第三工程まで完了済みのもの。向こうが出荷可能な製品です」


 報告の後、副ギルド長はひどく困惑して言った。


「これだけ……?」



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