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23 満月とワルツ


「本当にありがとうございました。助けていただいて、なんとお礼を言っていいか」


 感謝してくださるその姿を、私は呆然と見つめることになった。


 警護の騎士を引き連れたドレス姿の女性。

 落ち着いた余裕ある振る舞いと、思わず見とれてしまう美しい所作。


 どうやら私が助けたのは隣国ノインツェラ皇国の皇妃様だったらしい。


 違う……。

 高貴すぎて魂のレベルから全然違う気がする。


 わ、私がお話ししていいような相手ではないのでは……。


「私にできることならなんでもさせてください。あなたは命の恩人です」


 あまりにありがたい言葉に卒倒しそうになる。

 と、とにかくなんとか失敗せずこの場をやり過ごさなければ!


「いいえ。アーデンフェルドの王宮魔術師として当然のことをしただけですから」


 思いついた中で、一番ちゃんとしてる風に見えそうな対応で返す。


 失礼なくこの場をやり過ごすことで必死だったけど、一応王宮魔術師として恥ずかしくない振る舞いができたんじゃないだろうか。


「おねーちゃん、かっこよかった!」


 小さな皇太子殿下もそう言ってくれたし。


 だけどルークが後から言った言葉に、私は自身の振る舞いを思いきり後悔することになった。


「何かもらっておけばよかったのに。王宮魔術師の規定としてもらってはいけないって決まりはないし」


 お礼の品、もらってよかったんだ……。

 おいしいお肉一年分とかもらっておけばよかった……。


 がっくり肩を落とす私に、ルークはくすくすと笑う。

 ムカつくので肩をパンチしてやった。

 そういうことは先に言ってほしかったよ、意地悪。


 でも、もらったものは他にもたくさんある。

 私が隣国の皇妃様を守ったことをみんなすごく褒めてくれて。


「助けられたわ。ありがとう。あなたのおかげね」


 大好きなレティシアさんにそう言ってもらえて、私はしあわせいっぱいだった。


「レティシアさん、ほんとかっこいいよねえ。素敵だよねえ」

「……なんで一緒にいろいろやった僕じゃなくてそっちなのかな、ほんと」

「ん? なんか言った?」

「なんでもない」


 相変わらずルークの言葉にはよくわからない部分もあったけど。


 でも、大好きな魔法が使える仕事に、よくしてくれる先輩たちと親友。


 こんなにたくさんのものをもらってるのだ。

 これ以上は、きっと欲張りすぎだよね。


 ただ、ひとつだけ残念だったのは結局練習したダンスを踊れなかったこと。

 あんな大事件の後で舞踏会を再開するのは無理だったようで、そのまま緋薔薇の舞踏会は中止になってしまったのだ。


 ルークに恥をかかせずに済んだのはよかったけど。

 でも、折角だしちょっとは踊ってみたかったな。


 こっそり練習してルークを驚かせる準備もしてたのに。


 少し残念に思いながら夜の庭園を歩く。


 事件の関係者ということで王立騎士団の事情聴取を受けていた私たち。

 すっかり帰るのが遅れ、今はもう真夜中。

 辺りに人の気配はなく王宮は眠りに落ちているみたいに静かだった。


 まるで世界に私たちだけしかいないみたい。


 静まりかえった大庭園に二人きり。


 不意に思いついて、私は言った。


「ねえねえ、ちょっと踊ってみない?」

「なに、いきなり」

「誰もいない真夜中の大庭園で踊るのってなんだか素敵だなって」

「…………」


 なにバカなことを言ってんの、とあきれられるかなと思った。

 だけどルークは少しの間黙ってから真面目な顔で言った。


「いいよ。君がやりたいなら」

「よし、決まり!」


 私は芝生の上に駆け出して、ルークに振り返る。


「さあ、来い!」

「ムードとかそういう概念君にはないの?」

「ムード?」

「ないよね。ごめん、知ってた」


 苦笑いするルーク。


「こればかりは期待した僕が間違ってた、か」


 ため息をついてからにっこりと微笑む。


「やろっか」


 向かい合い、手を取り合って踊る二人きりのワルツ。

 昨夜練習したステップをばっちり決めると、


「あれ、うまくなってる」


 サファイアブルーの瞳が揺れて、私は目を細める。


 ルークに手を引かれてばかりなのは悔しいからね。

 隣に立って、『負けないぞ!』って競い合える。

 少しでもそういう私でいたいんだ。


 誰も知らない夜の庭園でワルツを踊る。


 頭上では金色の月が輝いていた。



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