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2 再会した親友と意外なお願い


 ルークと出会ったのは九年前。

 私が六年制の魔術学院に入学した、その入学式でのことだった。


「僕たちは歴史と伝統あるこの学院に入学を許された者として――」


 首席合格者。そして入学生代表として、壇上に立ったルークはしっかりしていて大人みたいに見えた。


 ヴァルトシュタイン公爵家の長男で、非の打ち所のない完璧な優等生。


 平民出身の私とはまず交わることがない人だろう。


 だけど、入学して最初の定期試験後、そんな私の予想は意外な形で裏切られることになる。


「とんでもないことをしてくれたな、お前。平民風情が、この僕に勝つなんて……!」


 私を校舎裏に呼びだした彼は、いつもとはまったくの別人だった。


 負けず嫌いで性格最悪。

 プライドの高い仮面優等生。


 それが本当の彼だったのだ。


 対して、当時の私は致命的なまでに世間知らずだった。


「誰が平民風情よ! 私はお母さんが女手一つで一生懸命働いてくれてこの学校に通えているの! そのことに誇りを持っているし、公爵家だろうがなんだろうが知ったことじゃない! あんたなんか百回でも千回でもボコボコにしてやるわ!」


 私は彼をボコボコにするために全力で勉強に励んだ。

 元々魔法は大好きで、そうでなくても一日中勉強ばかりしていたのだけど、もっと気合いを入れて勉強するようになった。


 ルーク・ヴァルトシュタインは強敵だった。

 テストのたびに続く一進一退の攻防。


 ほんと、えらぶった貴族の大嫌いな男子……!


 そんな私たちの関係が変わり始めたのは、三年生になった辺りの頃だ。


「ごめん、あんたにだけは絶対に聞きたくないと思ってたけどどうしてもわからないところがあって」


 私の質問にルークは面倒そうにしながらも丁寧に教えてくれた。


「一度で理解しろって言っただろ。これで五回目だぞ」


 そのとき、気づいたのは彼も魔法が大好きであること。


 そして、頼られると断れない世話焼きでお人好しな部分があること。


 なんだ、意外と悪いやつじゃないじゃん。


 魔法という共通の好きなものがあったこともあって、私たちはそれからあっという間に仲良くなった。


 図書館で一緒に毎日勉強して、テストのたびに本気で全力をぶつけ合って。


 今思えばきっと、あれが青春だったのだろう。


 卒業して、私は体調を崩したお母さんの看病をするため地元に帰って。


 彼は難しい試験を首席で突破して、王宮魔術師になったと聞いている。


 約三年ぶりに会う彼は、なんだか随分と立派になったように見えた。


「大人になったねえ、ルーク。昔はあんな性格悪いクソガキだったのに」

「何目線だよ」


 あきれたみたいな目で言うその仕草がなつかしい。


「まあ、僕もたくさん負けて大人になったってことかな」

「そっかぁ。ルークも苦労してるんだね。そりゃそうだよね、王宮魔術師なんてすごい人ばかりだし」

「いや、卒業してからは一度も負けてないけど」

「負けず嫌いは相変わらず?」

「嘘じゃない。事実」


 不服そうに言うルーク。

 そういうとこ変わんないなぁ、とうれしくなる私に、ルークは真剣な顔で言った。


「それで、お母さんの具合は?」

「あー、お母さんは……」


 私は目を伏せる。


「まさか」


 ルークの言葉に、私は「いや、そうじゃなくて」と首を振ってから言った。


「逆に、ひくくらい元気だよ。一度死にかけたことでスーパー孫見たいモードになってて毎日のようにお見合い話を持ってきて困ってるけど」


 結婚とか恋愛よりも今は魔法をがんばりたい私だけど、お母さんの望みはそれとは違う様子。


「仕事うまくいってないんでしょ。結婚しなさい、結婚」って毎日のように言ってきて、家の中でも気が休まらない私だった。


 田舎ではみんな十五歳とかで結婚してるから、完全に行き遅れの部類なんだよね、私……。


 もっとも、魔法に触れてられるだけでしあわせなので、そのことに不満があるわけでもないのだけど。


「……実現可能な最速のタイミングで来て本当によかった」

「ん? なんか言った?」

「なんでもない」


 首を振ってから言うルーク。


「ところで、歴代最年少で聖金アダマンタイト級魔術師まで昇格した天才がいるって話知ってる?」

「あー、忙しすぎて他のことできてなかったからうっすらとだけど。すごい人がいるって王都で話題になってるという噂は」

「よかった。それなら話は早い」


 ルークはうなずいてから続ける。


「その天才、僕なんだけどさ」

「ルーク。見栄を張りたい気持ちはわかるけど後々苦しくなるからやめた方が良いと思うよ」

「…………」


 ルークは冷たい目で私を見た。

 懐から小さな懐中時計を取り出してテーブルに置く。


「なにこれ?」

「王宮魔術師に身分証として渡される金時計。聖金アダマンタイトがあしらわれてるでしょ。裏に彫られた名前読んで」

「ルーク・ヴァルトシュタイン――ってまさか」

「そんなくだらない嘘、つかないから」


 簡単に言うルークに、私は言葉を失う。


「……そっか。そうなんだ」


 王都で話題の王宮魔術師が、かつての親友だった。

 多分おめでとうってお祝いしないといけない状況で。


 だけど、うまく笑えない私がいる。


「すごいね。おめでとう」

「何かあった?」

「え?」

「そういう顔してる。ノエルはわかりやすいから」


 ルークは真剣な目で私を見て言った。


「聞かせて」


 そんなことないよって取り繕おうとして。

 だけど、付き合いの長いルークに私の下手な嘘が通じないのが先にわかってしまって。


 観念して、私は全部話すことにした。


「実は仕事がうまくいってなくて」


 雑用や誰にでもできる仕事ばかり毎日休みなくさせられていたこと。


 役立たず扱いされてその仕事もクビになってしまったこと。


 魔法を扱える仕事がしたくて、だけど町で働かせてもらえるところはどこにもないこと。


「つい比べちゃって、心からお祝いできなくて。ごめんね、私ダメなやつだ」

「いいよ。その状況ならそれが普通だって。ていうか、ノエル相手にその扱いってあまりの見る目のなさに驚きを通り越して殺意すらわくんだけど」

「ありがと。かばってくれて」

「かばってない。心から思った本音を言ってる」


 ルークは言う。


「ただ、今回ばかりはその見る目のなさに感謝かな」

「感謝?」

聖金アダマンタイト級になると、部下を一人相棒バディとして指名できるんだ。だけど、選びたいと思える相手がいなくてさ。みんな背中を預けるにはどうも頼りない。僕は最速でこの国一番の魔法使いになろうと思ってるから」

「相変わらず自信家だね、ほんと」


 すごい相手と競ってたんだな、と今さらながら気づかされる。


「それで、どうせならこれまでの人生で僕が唯一勝てなかった相手を相棒バディとして指名したいと思って」

「そんな人いるんだ。ルークが勝てないなんて」

「うん、君」

「え」


 驚く私に、ルークは言った。


「この国で一番の魔法使いになるために、僕が勝てなかった君の力を貸してほしいと思ってる」



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