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17 舞踏会への準備


 謎はひとつ増えたけど、ともあれ私は『緋薔薇の舞踏会』に出席することになったらしい。


 小さい頃憧れていた王宮の舞踏会!

 まさか庶民の私が出られる日が来るなんて!


 どんなところなんだろう?

 御伽話みたいにどこかの国の王子様に一目惚れされちゃったりするかも。


 妄想して頬をゆるめていた私は、不意にひとつの問題に気づく。


「あれ? でもそんな超上流階級の舞踏会に出るってことは、マナーとかダンスとかできないといけないんじゃない?」

「もちろん。当たり前でしょ」

「でも私、マナーもダンスもまったくわからないけど」


 言った私に、ルークはにっこり笑って言った。


「練習、しよっか」






 それから、ルーク先生による舞踏会に出るための特訓が始まった。


 まず最初に行われたのは現在の力を確認するためのテスト。


 舞踏会における礼儀作法の常識テストで、壊滅的な点数を取った私にルークはため息をついた。


「まあこんなことだろうと思った」

「しょうがないじゃん! こんなの庶民の世界じゃ誰も教えてくれないし」

「この辺りは学院でも習った範囲だけど」

「……なるほど」


 目をそらす私に、ルークはくすりと笑って言う。


「ほんと興味ないことはさっぱりできないよね、ノエルって。学院でも魔法に関係ない一般教養系は教師陣が絶句するような点数取ってたし」

「私的にはがんばってたんだよ。でも、どうしても興味が湧かないしできないと言いますか」

「そのくせ、魔法になると神童扱いされてた僕と同じくらい良い点取るんだから」

「えへへ、もっと褒めて」

「褒めません。しっかり勉強しましょうね、ノエルさん」

「……はい」


 書いて読んでを繰り返して、頭に叩き込む。

 興味のないことを覚えるのは大変だったけど、やってみると学院時代よりずっとがんばれる自分がいるのに気づいた。


 多分魔道具師ギルドで嫌なことや苦手なこともがんばって取り組んでいたからだろう。


 我慢して繰り返せば、いつの間にかできるようになる。

 だからできなくても投げ出さなくていい。


 そのことを今の私は知っている。


 何が役に立つかわからないな、人生って。


 それに、ルークは教えるのがやっぱり上手だった。

 何度間違えても、嫌な顔せず付き合ってくれて。


 変わってないなぁ、となつかしくなって思わず微笑む。


 そんな感じで知識の方は最低限なんとかなったのだけど、問題はダンスの方だった。


「……なに、その陸に打ち上げられた魚みたいな動き」

「え? 私的には最高に優雅で華麗なダンスフォームだと思うんだけど」

「鏡の前でやろうか」


 やれやれ、何をおっしゃいますルークさん。

 完璧に踊れてるじゃないですかと大きな鏡の前で、自分の姿を見た私は衝撃のあまり言葉が出なかった。


「な、何これ……こんなの私じゃない……」

「残念ながらあなたです」


 ため息をつくルーク。


「うそ、昔から運動は得意な方だったんだよ。木登りと悪ガキとの喧嘩では四百戦無敗だったし」

「知ってる。すごく君らしいエピソードで何よりだよ」

「いじめっ子をボコボコにして回って、『西で一番やべえ女』って呼ばれてたんだから」

「ほんと特殊な人だよね、君って」


 ルークはやれやれ、と肩をすくめて言う。


「どちらかといえば音感と芸術センスの問題じゃない? ノエルそういうの苦手だったでしょ」

「あー」


 音楽とか絵画とか歌とかそういう芸術系統は絶望的にできない私である。


 だって、興味ないものはやろうと思わないし。

 できなくてつまんないからもっとやらないし。


「まあ、任せて。最低限踊れるレベルに仕上げられるよう準備はしてきたから」


 こうして始まった『教えるのが上手なルーク対ダンスのセンスが絶望的な私』の戦い。


 ルークはすごくがんばってくれたけど、私は自分でもあきれるくらいに下手くそで。

 結局舞踏会前日の終業時間になっても、私のワルツは目指していたレベルには到達できなかった。


「私、残って練習するよ。ルークは帰っていいから」

「ダメ、君も帰ること。本番は明日なんだから。疲れを残さない方が大切だし」

「でも、これじゃ明日ステップ間違えちゃうかもしれないから」

「間違えていいよ。僕がフォローする」

「フォローできないレベルのミスしちゃうかも。恥かかせるかもしれないよ」

「いいよ。大失敗してもノエルとなら良い思い出」


「ささ、帰った帰った。お母さんとごはん食べな」と帰らされてしまう。


 仕事の中でもルークは私のことを大切に扱ってくれていて。


 前とはまったく違う働きやすい職場環境で、そこは本当にありがたいのだけど。


 でも、同時に私は知っていた。


 ルークがいない間に、彼が持ってきたダンスの教本を見てしまったのだ。


 うろ覚えだったステップが気になってのことで、

 だけど、開いた瞬間そんなことは全部吹っ飛んでしまった。



 貼られた大量の付箋。

 びっしりと書き込まれたわかりやすく教えるためのメモ書き。



 私のために、がんばって準備してくれてたんだ。


 仕事や休憩時間にそんなことをしてるのは見ていない。


 だから多分帰ってから家で準備してくれたんだろう。


 そこまでしてもらって、私が何もしないのは違うよね。


「あんた、どこ行くの?」


 夕ご飯を食べてから、呼び止めるお母さんに私は言う。


「ちょっと外で練習してくる」


 夜の街の片隅で、私はダンスの練習をする。

 明日はたしか満月で、だから綺麗な月が見えるかもって少し期待していたけれど、空は一面雲に覆われていた。


 月のない夜、私は一人、ステップの練習をする。


 どうか明日、ルークのがんばりに応えられるワルツが踊れますように。



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