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15 緋薔薇の舞踏会


「それでね! レティシアさんってすごくやさしくて、普通のことをしてるだけなのに『ノエルさんは優秀ね』って褒めてくれるの」


 仕事の休憩時間。

 私はルークに憧れの先輩のことを話していた。


「もう一目見たときから、『かっこいい! こんな人になりたい!』って思ったんだけど私の目は正しかったよ。あんなに素敵でやさしい人だなんて」


 最初に憧れたのは外見だったけど、知れば中身もどんどん好きになる。


 できる大人の女性って感じ。


 地方の魔道具師ギルドでも通用しなかった私だから、やってる仕事も王宮魔術師さんの目から見ると決して褒められたものじゃないはずなのに。


 それでもやさしい言葉をかけてくれて。


 なんて素敵な人なんだろう。


 熱心に語る私に、ルークはため息をつく。


「ん? どうかした? 元気ない?」

「いや、なんで一番近くにいる僕じゃなくてそういう斜め上の方向に行くんだろうって」

「一番近く? 斜め上?」

「なんでもない」


 もう一度深く息を吐くルーク。

 その横顔を見ながら、私は昨日母に言われた言葉を思いだす。


 前に比べれば快適すぎる職場がうれしくて、


『仕事順調だよ! 魔法の練習もできてすごく楽しいんだ』


 とお母さんに言ったら、


『それはいいことだけど、もっと大事なのはあの方と結婚して玉の輿に乗ることよ! そうだ、あんた学院で魔法薬の研究してたらしいじゃない。惚れ薬作って飲ませましょう! 完璧な作戦よ!』


 と戯言が返ってきたのだ。

 惚れ薬を作るのも飲ませるのも立派な犯罪である。


 まったく、お母さんは何もわかってないんだから。


 やれやれ、と肩をすくめていると、不意にルークが言った。


「ところで、来週王宮で王室主催の舞踏会があるの知ってる? 『緋薔薇の舞踏会』って言うんだけど」

「そりゃ知ってるよ。有名だもん」


 その舞踏会を私は知っていた。

 というか、王国で生まれ育ったなら知らない人はいないんじゃないかと思う。


「もう百年以上続く歴史と伝統ある舞踏会。代々王国の王太子様はこの舞踏会で将来の王妃様と出会ってるんだよね。女の子はみんなこの舞踏会に憧れる少女時代を過ごすんだから」

「へえ、意外。ノエルがそういうのに興味あるなんて」

「失礼な。私だって昔は夢見る女の子してましたとも」

「プリンセスより大魔法使いになりたいってタイプだと思ってた」

「あ、もちろんそっちが第一希望だったよ。プリンセスは二番目かな」


 節約家のお母さんは、遊び道具を全然買ってくれなくて。

 だから友達のロマンス小説を借りては、夢中で読んでいたことを思いだす。


 あの頃はみんなが買ってもらえるものをいつも私は持ってなくて、ちょっと寂しい気持ちになったこともあったっけ。


 でも、そうやって貯めた大切なお金を、「魔術学院に行きたい」って言った私のためにお母さんは全部使ってくれて。


 そんな寂しさの何千倍、私は感謝してるんだ。


 お母さんは田舎生まれの田舎育ちだから、女子は結婚するものって昔の常識が強くあって、そこはちょっと困りものだけどね。


「でも、そっか。『緋薔薇の舞踏会』って王宮で開催されるんだもんね」


 改めて自分がすごいところにいると気づかされる。


 昔憧れた王国一の舞踏会がすぐ目の前で開かれるなんて。


 とはいえ、将来の王妃様が決まるかもしれない重要なイベントなので、出席できるのは王国の中でもほんの一握り。


 王太子殿下と結婚しても問題が起きない家柄――最上位の貴族様方や、隣国の姫君でもないと中に入ることさえ許されないのだけど。


 だからこそ、より女の子たちの憧れになってるわけで。


 まあ、庶民の私には一生縁の無いそれはもうエレガントで素敵なものなわけです。


 ほんとにあるんだ、すごいなぁって感心していた私に、ルークは言った。


「それで僕の相棒バディの君も出席が決まってるんだけど」


 言葉の意味が理解できなかった。

 約一分くらい硬直してから私は言った。


「……………………え?」



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