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14 小さな新人魔法使い


 レティシア・リゼッタストーンは三番隊で副隊長を務めている。

 女性として三人目の聖金アダマンタイト級魔術師であり、隊長を務めるガウェイン・スタークの相棒バディでもある彼女は、『鉄の女』という異名を持っていた。


 正しいと思えば誰が相手でも強い意志で主張する生真面目な性格。


 王宮魔術師団の中でもその優秀さは高く評価されている。

 ガウェインをサポートし、実務的に三番隊を支えているのが彼女だ。


 そんな彼女を困惑させているのが、三番隊第三席であるルーク・ヴァルトシュタインが連れてきた新人魔法使いだった。


 新人――ノエル・スプリングフィールド。


『素敵……! かっこいい大人の女性だ……!』


 初対面の時、きらきらした目で自分を見上げた彼女のことをレティシアは鮮明に覚えている。


 一見すると子供みたいに見える彼女は、しかし真面目で頑張り屋。

 レティシアはすぐに彼女に好感を持った。


(在野から来て、レベルの高い王宮魔術師の環境に適応するのは大変なこと。時間はかかるかもしれないけど長い目で見守っていきましょう)


 ところが、その先に待っていたのは想像さえしていない状況だった。


 仕事があまりにも速すぎるのだ。


 若手の隊員たちが協力して行う相当量の雑務を、彼女は一人で簡単に片付けてしまう。


 その仕事の速さに大きく寄与しているのが補助魔法《固有時間加速スペルブースト》であることはレティシアも理解している。


 しかし、恐るべきはその加速率と持続時間。


 彼女の速さは聖宝メイガス級魔術師であるガウェインさえもわずかに上回っているように見えた。


 速さだけなら間違いなくトップクラス。

 下手すると王国最速の可能性すらある。


 加えて、聖金アダマンタイト級魔術師であるレティシアでも連続での使用は十分が限界である《固有時間加速スペルブースト》を彼女は最大で八時間連続使用したことがあると言う。


『最初は五分が限界だったんですけど、使わないとノルマが終わらないので毎日何度も繰り返し使ってたんです。そしたら意識が七回飛んだ辺りから、だんだんと長い時間使えるようになってきて』


『八時間のときはほんと死にそうでした。普段は五時間くらい使えば大体ノルマはこなせるんですけど、現場主任さんが伝え忘れていた仕事が見つかってそれから大慌てで……最後の一時間は何やってたか全然覚えてないです』


 絶句する話だ。

 とても人間が生存できる環境とは思えない。


 最難度の補助魔法を、数時間単位で使い続けることを強制される世界。


 いったいどれだけ厳しい環境に身を置いていたのか。


(もしかすると古の大賢者の弟子……? ありうるわ。だってこの練習量はいくらなんでも壮絶すぎる)


 魔法の知識が少しでもある者なら、絶対に課すことのできない練習量と厳しさにさえ思えてしまう。


 それを本気で課す者がいて、さらにこの子は乗り越えたなんて……。


 代々魔法使いの家系に生まれ、自身も幼少期から厳しく育てられたレティシアだからこそわかる。


 いったいどれほどの苦しみを乗り越えて彼女はここにいるのか。


(やさしくしてあげないといけない。そこまで異常な環境に身を置いていたなら、きっと心も擦り切れてボロボロのはず。壊れずにここにいるのが奇跡だもの)


 少しアホの子に見える部分があるのは、おそらくその後遺症だろう。


 何より、これだけの力を持ちながら誰もやりたがらない雑用を自ら進んで行う気遣いと謙虚な性格。


 この子はただの新人ではない。


 既に一線級の魔法使いとして必要な資質と力を備えている。


(隊長にも報告しておかないと。無理をしないよう見守ってあげないといけないわ)


 レティシアは誰も見ていないところで雑用に励む新人の後ろ姿に思う。


(もしかすると、女性初の聖宝メイガス級魔術師になるのはこういう子なのかもね)



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― 新着の感想 ―
ほんといい人たちばっかだなぁ、ホワイトな職場だ
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