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132 激戦


 意識を取り戻した私は、会場の控え室に向けて走っていた。


 何が何だかわからないけれど、とりあえず大変な事態になっているのは間違いない。

 あのすごく強い森妖精(エルフ)の魔法使いさんたちも、全然余裕はなさそうだったし。


 観客を守りながら戦う各国の魔法使いさんたちの姿。

 その先頭に先輩たちがいるのを見て、うれしくなる。


 しかし、こちらもまったく余裕はなさそう。

 力を合わせて支えている魔術障壁もいつ破られてもおかしくないように見える。


 状況は防戦一方。

 目を覆いたくなる明らかな劣勢。


 そもそも、この数の魔獣の群れに対して戦線を維持できているのが奇跡というか。


 どう考えても戦力と人員が足りないはずなのに、と思いつつ会場を見回していた私は気づく。


(なに、あれ……)


 他の人のそれとはまったく違う異質な魔力の気配。


 美しく輝く黄金の魔法式。


 魔術障壁が破られているにもかかわらず、魔獣の群れから観衆たちを平然と守り切る規格外の力。


 あ、あの人一人で一帯の魔獣を抑え込んでるんだけど。


(に、人間やめてないかな)


 絶句せずにはいられない光景。この戦力差で均衡を保てているのは間違いなくあの人の力。

 と、とにかく部下の一人として指示を仰ぐことにしよう!


「クロノス総長! どうすればいいですか、この状況!」


 駆け寄って頭上の観客席に立つその人に声をかける。


「大丈夫? かなり消耗しているように見えるけど」

「大丈夫です! 月の残業が四百時間超えたときはもっと消耗してたので!」


 私の言葉に少し笑ってから、クロノス総長は言った。


「黒幕は捕縛したけど、状況は芳しいとは言えないかな。こちらが総力を挙げているのに対し、向こうはこの異常な魔物達を作り出した元凶である古竜種が控えている。長期戦になればまず勝機は無い」

「古竜種ってそんなに強いんですか?」

「封印が完全に解けていない今の状態であっても、倒すことはまず不可能だろうね。もし封印が解けてしまえば、その時点でこの地の人間はすべて死に絶えると考えた方が良い」

「む、無茶苦茶すぎでは……」

「正確に言えば竜というより邪神に近い存在なんだ、あれは。古の大魔法使いが数千人がかりで罠にかけて、封印するのがやっとだった相手だから」

「数千人がかりで封印がやっとって……」


 今いる魔法使いさんでは明らかに数が足りない。

 クロノスさんが言った『長期戦になればまず勝機は無い』という言葉はおそらく真実なのだろう。


「幸いここには優秀な森妖精(エルフ)の魔法使いがいる。封印の術式は精霊魔法の最も得意とする領域。封印の魔法式を修繕し再封印できればこの状況を収拾できる可能性があるんだけど」

「何か問題があるんですか?」

「大穴の奥に潜む古竜種を再封印するには、あの魔獣の群れを突破して最深部まで到達する必要がある。それ自体は私の力ならできるかもしれない。でもその間に、地上では魔獣の群れが食い止められなくなる。どれだけの被害が出るかわからない」


 素早く再封印して戻ってこないといけない。


 しかし問題は、最深部から地上に戻るまでに時間がかかってしまうことだった。


 西方大陸最大の深さを誇るグラムベルンの魔窟口。空を飛べない私たちが地上に戻ってくるにはどんなに急いでも数時間以上かかってしまう。


(何か……何か事態を解決する方法は……)


 深い魔窟口の最深部から素早く地上に戻る方法。


 ――だったら、空を飛べる相手にお願いすれば。


「少し待っててください!」


 言って、会場の施設内を走る。

 避難する人々の間を縫い、控え室で魔法薬を飲んで体力と魔力を補給。


 それから握りしめたのは、控え室に隠しておいた小さな笛。


 大会規定上、試合のフィールドには持ち込めなかったそれは、あの日助けたお礼にいただいたもの。


 外へ続く扉を開けて、銀水晶の笛を吹いた。


 ――お願い。力を貸して、ドラゴンさん!






 ◇  ◇  ◇


 激化する戦い。

 魔獣の群れを懸命に食い止める各国の魔法使いたち。


 厳しい状況にもかかわらず、彼らが逃げようとしなかったのは磨き上げた自身の魔法への誇りと義務感からだった。


 世界の広さを彼らは知っている。

 挫折と自分の小ささを知っている。


 人生のすべてを投げ打って高みを目指しても届かない相手がいて。


 それでも、歯を食いしばって続けてきたのだ。

 今よりほんの少しだけすごい自分になるための訓練を。


 あきらめず力を磨き続けたのは何のためだ。

 強くなりたかったのは何のためだ。


 彼らは知っている。

 ここで逃げてしまえば、命よりももっと大切な何かも一緒に失ってしまうことを。


 消耗。

 眼前に迫る無数の牙。


 そのとき、魔法使いたちを襲ったのは強烈な悪寒だった。


 想像を絶する強大な何かの気配。


 影。

 巨大な漆黒の体躯。

 空を覆う翼。


(そんな……)


 飛竜種。

 西方大陸最強の生物種。


 あれも、地下に封印されていた魔物の一体というのだろうか。

 誰もが呆然とする中、大穴からあふれ出す魔獣はさらにその数を増す。


(ダメだ、耐えきれない……)


 敗北を悟ったそのとき、魔獣の波を粉砕したのは大樹のように巨大な尻尾による一閃だった。


(今のは……まさか俺たちを守った?)


 信じられない光景に瞳を揺らす魔法使いたち。


(どうして……? いったい何が起きているんだ……?)





見つけてくれて、ここまで読んでくれて、本当にありがとうございます。

『ブラック魔道具師ギルドを追放された私、王宮魔術師として拾われる』3巻が7月7日本日発売になります。


加筆とブラッシュアップがんばって編集さんにたくさん褒めてもらいました!

さらに、作者渾身の書き下ろし番外編を追加しています。


『母と娘の十二年間』

「魔法使いになりたい!」と夢見るようになったノエルとお母さんの十二年間のお話。

娘のためにがんばるお母さんって最高にかっこいいなって。

(お母さん視点でのあいつもちょっと出るよ!)


今回も葉月の好きをいっぱい込めて書きました。

お楽しみいただけるものになっていたらいいなと願っています。

(でも、あとがきは読まなくていいです)


よかったら、楽しんでいただけるとうれしいです!

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エメドラを思い出した。(◔‿◔)
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