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117 立ち止まってなんていられない


 それから、どのくらい時間が経過したのかはわからない。

 私にとってはまばたきよりもさらに短い時間だけど、この人にとってはもっと長い時間が過ぎていたはずだ。


 気がつくと、私は宿舎の庭に立っていた。


「ここまで来たら安心だよ」


 目を細めて言うクロノス総長。

 しかし、私の心は一瞬前に見た景色でいっぱいになっていた。


 鮮やかに発光する奇跡のように美しい魔法式。


「今の、時間を止める魔法ですよね……」


 半信半疑で言葉にする。


「どうしてそう思ったの?」


 クロノス総長は少し意外そうに言った。


「魔法式の構造を見てたら、なんとなくそうなのかなって」

「なるほど。良い目をしている」


 観察するように私を見つめる総長。


「存在自体、極一部の魔法使いにしか知られていない秘術。時間を止める魔法は二百年研究を続けてようやくたどり着いたクロノスお兄さんの必殺技さ」

「に、にひゃく……」

「時間の流れが通常と違う環境を作って研究したから現実ではそんなに経ってないけどね」


 やっていることがあまりにも高度すぎて、言葉が出ない。

 たしかに、年齢を重ねているはずなのにガウェインさんと同い年くらいの外見してるし、絶対普通じゃないとは思ったけど。


「とはいえ、これを使っても勝てないときがあるくらい強いから、あの女王様はほんと困ったものなんだけどね」

「時間を止められても負けることがあるんですか……?」

「世界は広いってことだね」


 世界すげえ……。


 垣間見えたはるか上にある領域に、白目を剥いて呆然とする。

 だけど、その後で私が感じたのは、そんなすごい魔法使いさんたちに対する憧れの気持ちだった。


 いったいどんな魔法を使うんだろう。

 触れてみたい。

 体験してみたい。


「私、がんばります。少しでもお二人に近づけるように」

「うん、期待してる」


 総長はうなずいて言った。


「ノエルさん! 大丈夫!?」


 そのときだった。

 駆けてきたのは同行してくれている王宮魔術師団の先輩たち。


「レティシア副隊長が侵入者に気づいてくださってそれで――」


 早口で言う途中で、私の隣に立つ人を見て絶句する。


「そ、総長様!?」


 膝を折って深々と頭を下げて続けた。


「拝謁できて光栄でございます。お姿に気づけなかった無礼、お許しください」

「いいよ、頭を上げて。畏まらなくて大丈夫」


 総長はやさしく微笑んで言う。


「私はみんなのことを魔法の真理を探究する同志として家族のように大切に思ってるから。私のことは気軽にクロノスお兄さんと呼んでくれていいのだよ」

「とんでもありません! 総長様をそんな風にお呼びするなんてとても!」

「距離を感じる……ちょっと寂しい」


 残念そうに言う総長様。

 い、今更だけど本当にすごい人とお話ししてしまってるよ、私。


 今更ながら状況を理解して、白目になる私に、クロノス総長は言った。


「精霊女王と刺客には私が対応しておくから。君は気にせず試合だけに集中してくれていいよ」

「いいんですか? そんなことまで」

「前向きにがんばる若人を応援するのは、先輩としての務めだからね。王室からの仕事はサボっても、こういう仕事はしっかりやるのが私のやり方なのさ」


 素敵な人だな、と思った。

 王宮魔術師団で一番えらいすごい人なのに、新人の私にもやさしくあたたかく接してくれて。


 それから、選手団は総長様の話題で持ちきりになった。


「ノエル! お前、お話ししたってほんとか!」

「どんな人だったの? 教えて」


 いろんな人に話を聞かれて、私はなんだか得した気分で。


 だけど、何よりうれしかったのは、私が襲撃されたことを知った先輩達がすごく心配してくれたこと。


 レティシアさんに抱きしめられて、私はびっくりしてしまった。

 パーソナルスペース広めで、こういう触れあいとか好きじゃない人のはずなのに。


 期待してくれる人がいる。

 支えてくれる人がいる。

 守ってくれる人がいる。

 絶対に負けたくないやつがいる。


 邪魔する人がいたとしても、立ち止まってなんていられない。


 私は私の味方でいてくれる人のために、自分の全力をぶつけるだけ。



「国別対抗戦本戦一回戦! 勝ったのはノエル・スプリングフィールド! フィガロ法国代表、《蒼い巨星》シンクレア・ランデルロを粉砕! もしかすると、今大会の台風の目になるかも――」



 どよめきの中、私たちアーデンフェルド王国代表の快進撃が始まった。






 ◆  ◆  ◆


「どうなっている。絶対に勝てる状況を整えて潰せと言っているだろう!」


 響き渡る怒声。

 薄暗い部屋で、高貴な身なりをした二人の男が話している。


「たしかに最善は尽くしているのです。審判員の買収と対戦相手との事前交渉。一時的に魔法を使えなくする魔道具を持ち込ませて、絶対的に優位な状況を作ったはずなのですが」

「ではなぜ勝てない。何が起きている」

「それが、魔法を封じると拳と頭突きが飛んでくるらしくてですね。買収できなかった審判員に悟られないように持ち込んだ魔道具の操作をするとなるとそこへの対処がどうしてもおろそかになるようで」

「あんな子供のような小娘だぞ。どうしてそれくらい対処できない」

「それが見た目以上に威力があるようでして……対戦した者は『あんな石頭の女見たことない』と口々に……」


 魔法使いなのに、ためらいなく拳と頭突きを使う。

 その戦いぶりは、不正を仕掛けた対戦相手たちを呆然とさせた。


 これは魔法大会ではないのか。


 大会規定に反していないとは言え、魔法使いの戦い方としてそれはいいのか。


「自由すぎるだろ……」


 誰もが明確な答えを出せない中、たしかな結果として彼女は貴族主義者たちの妨害をはねのけ勝ち続けている。




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