11 炎と氷の魔法使い
「参った。とんでもねえ額奢らされたよ」
隊舎に戻って笑うガウェインに、
「そうですか」
氷の魔法使い――クリス・シャーロックは書類に目を通しながら言った。
「あの新人すげえぞ。ちっこい身体して、マジで胃袋が異空間に通じてんじゃねえかって勢いで食べやがる。王国大食い界の頂点に立てる逸材かもしれん」
「そうですか」
「俺も食べる方だし、学生時代は大食い系のチャレンジメニューで食費を節約してたがありゃ次元が違う。あいつ只者じゃねえってマジで」
「そうですか」
「反応小せえぞ。もっと驚け。興味持て。さみしいだろうが」
「興味ないので」
クリスは書類から視線を上げず冷静に答える。
それは、学院生時代からの同期である二人にとって慣れ親しんだやりとりだった。
しゃべり好きのガウェインと、生真面目で必要なことしか話さないクリス。
炎と氷の魔法使いである二人は水と油のように真反対で、しかしその実意外と仲が悪いわけでもなかった。
それぞれまったく違うものを持っている分、逆にかみ合うところもあるのだろう。
「にしても、まさかあそこまでやるとはな」
深く息を吐くガウェイン。
「そうですね。私も想定外でした」
クリスは書類から顔を上げる。
ガウェインが三番隊の隊長になってから、『血の60秒』を凌ぎきったのは歴代で二人目。
さらに、入団試験で壁を破壊したのも歴代で二人目の出来事になる。
その二つを入団一日でやってみせた新人の姿は二人の目に衝撃的な光景として焼き付いていた。
壁を破壊した最初の一人であり、聖宝級魔術師の中でもトップクラスに高いガウェインの超火力を前に、彼女は一歩も退かず迎え撃ったのだ。
それがどれほどすさまじいことか。
高みを目指し魔法を究め続けている途上の二人には、よりその姿が鮮烈なものとして映っている。
「相手を壊しかねないからずっと出してなかった俺の全力を前に、耐えるだけじゃなくリスク負って勝ちに来たからなあいつ。めぼしい新人が来るたびああやって鼻っ柱を折ってやってたが、あんなやつは初めてだ」
「在野でも人並み外れた厳しい環境に身を置き、自身の苦手分野を克服すべく生活のすべてを捧げて魔法に打ち込んでいたのでしょう。そういう魔法でした」
「よほど過酷な環境下で鍛錬してきたんだろうな、あれは」
ガウェインはにやりと口角を上げて続ける。
「どういう経緯であれ、あいつはものになるぞ」
「すぐに結果を出してもおかしくありませんね。ミカエル殿下も彼女に興味を持っておられたようですし」
「殿下が……?」
「ええ。優秀なあの方らしい。何か感じるところがあったのでしょう」
「こりゃ責任重大だな。大切に育てねえと」
「そうしてください」
うなずいてから、クリスは言った。
「実に興味深いです。彼女が、これからどうなっていくのか」