102 特別公開練習2
「い、いったいどうして……」
ふるえる声でなんとかそう言った私に、
「ノエルさんの活躍をよく思っていない一部の王党派貴族が仕掛けてきてるみたいなの」
レティシアさんは言う。
「あの人達にとって貴族特権と既得権益を守っていくために平民の活躍は不都合だから。『何の後ろ盾もない平民の小娘を出すなら、それだけの実力があることを証明してもらわないと』っていうのが向こうの言い分」
「……私の実力と実績が足りてないっていうのが理由ですね」
「気にすることないわ。人間は見たいものを見る生き物というそれだけのこと。貴方の実力は本物よ」
レティシアさんやさしいなぁ。
あったかいなぁ。
「ありがとうございます。厳しいかもしれないですけど、精一杯全力をぶつけてみます」
私はレティシアさんを見上げて言う。
「それで、その公開練習はいつなんですか?」
「……今日よ」
「へ?」
「ごめんなさい。気づいたときにはどうしようもない段階で」
こうして、心の準備もできないまま気づいたら王宮魔術師団の特別演習場に立っていた私である。
代表選手に選ばれた平民出身の新人魔法使いが、十対一で先輩たちと戦う。
あまりにも特異なこの公開練習は、それゆえ王宮内の衆目を集めたようで、観覧席にはたくさんの関係者と貴族さんたちが押しかけていた。
なんでこんなに大勢……。
そんなに見たいのですか、私が粉微塵にされるところ……。
突如決まった公開処刑に、戦う前からボロボロだった私だけど、次第に生への執着が生まれてくる。
元々貧しい家の生まれでその辺の草とか食べて育ってきた私だ。
この茸なんかぴりぴりしておいしいなぁ、と思っていたら毒茸だったこともあるし、生命力とたくましさなら大王宮の中でも誰にも負けない自信がある。
そう簡単に死んでたまるか!
どんな手を使っても絶対に生き残ってやる!
強い思いを胸に先輩たちを見据える。
特別公開練習が始まる。
今回の公開練習に参加したのは、別の隊と王の盾に所属する先輩たちだった。
活躍しているらしい駆け出し魔法使いがどれくらいできるのか、直接戦って確かめたいという意図もあったのかもしれない。
聖銀級の先輩三人と、黄金級の先輩七人。
私よりはるかに洗練された強い魔力の気配に息を呑む。
この人たち、強い……。
勝負になんてそもそもなるわけなくて。
まともに戦ったら瞬殺されるのは間違いない。
つまり、規定の三分間耐え抜くために最善の選択は――逃げ続けること。
《固有時間加速》
固有時間を加速させる補助魔法。
対して、先輩たちの選択は的確だった。
互いに補助魔法を掛け合い、準備を整えてから連携して攻撃を放つ。
私が素早さを活かして逃げに徹することも想定していたのだろう。
逃げづらい範囲攻撃魔法で正確にこちらの退路を制限する。
次第に減っていく選択肢。
気づいたときにはもう手遅れだった。
袋小路に追い詰められている。
――まずい。
炸裂する電撃魔法。
吹き飛ばされてフィールドを転がる。
口の中に混じる砂の味。
すごい、と改めて思った。
格下の私に対しての明らかに有利な条件での戦い。
なのに一点のゆるみもなく、連携して勝利するために最善を尽くす。
これが過酷な競争を生き抜いてきた本物のプロフェッショナル。
今までの動きの違いを見れば、誰もがこの戦いの結末を予感したはずだ。
予想通りの一方的な蹂躙。
力の差は明らかで、戦いを続ける理由なんてないとさえ思えるほど。
――でも、だからこそ挑み甲斐があるってもんだよね。
『誰が平民風情よ! 私はお母さんが女手一つで一生懸命働いてくれてこの学校に通えているの! そのことに誇りを持っているし、公爵家だろうがなんだろうが知ったことじゃない! あんたなんか百回でも千回でもボコボコにしてやるわ!』
弾む鼓動。
敵が強ければ強いほど燃えるのが私だから。
――楽しくなってきた。
いざ、挑戦開始だ。