10 ご褒美!
「見た? 私も合格だって」
戦いを終え、自慢げに言った私に、ルークは軽く微笑んで言った。
「見てたよ。相変わらず強いね、君は」
「でしょでしょ! 意外と私できる子みたい」
最初は絶望的だと思ったけど、合格することができて目を細める。
ルークも合格だったって聞いてたからな。
やっぱりルークには負けたくないところがあるから、負けてない結果を出せたことが何よりうれしい。
「でも、僕はもっと余裕だったけどね」
「いやいや、私の方がすごかったし」
「君は見てないでしょ。僕は両方知ってるから比較できるわけ」
「見てなくてもわかりますー。絶対負けてないから」
なんだか昔に戻ったみたいなやりとり。
「へえ、お前がそんな顔するんだな」
不意に背後からガウェインさんの声。
その視線の先にいるのはルークだった。
「別に。普通ですよ」
「いや、いつもの爽やかだけど一ミリも心から笑ってない作り物の笑顔とは全然違う。まるで、学生時代ずっと片思いしてたのに関係を壊すのが怖くて何もできずに後悔していた女の子が目の前にいる社会人男子みたいな」
「今すぐ黙らないとぶち殺しますよ、隊長」
珍しく余裕ない姿で止めようとするルークと、それをからかうガウェインさん。
親友が職場で仲良くやってるみたいで、なんだか安心する。
「で、お前。ノエルだったか」
ガウェインさんが私を見て言った。
「60秒耐え抜いたご褒美になんでも奢ってやる。何が食べたい?」
な、なんでも……!?
なんでもお願いしていいのですか……!?
私は何を選ぶのが最善か全力で考えてから言う。
「お肉です!」
やっぱりこれでしょうよ!
割と貧しい部類の平民として育った私にとって、高級なお肉は憧れの対象。
ガウェインさんは聖宝級魔術師だし、収入もかなりの額をもらっているはず。
ちょっとくらい贅沢させてもらってもいいよね?
ご褒美だし。
「よし、わかった。王都で一番高い店に連れて行ってやる」
なんて太っ腹!
この人、良い上司だ……!
期待に胸を弾ませつつ、ガウェインさんの後に続く。
「で、なんでお前まで着いてきてんだ」
「ノエルは僕の相棒なので」
「便乗して奢られようとしてるだろ、お前」
「気のせいです」
そう言いながら、ルークはちゃっかり奢られコースに入っていた。
相変わらず要領良いなぁ、と感心する。
到着したそこは見るからに高そうな高級店。
普段なら近づくことさえためらわれる店構えに、ほんとにいいんだろうかとおっかなびっくり店内に入る。
扉の向こうは、超上流階級の世界。
水一杯で私の一日の食費くらいの値段がするのではなかろうか。
なんだか空気までお高い気配をまとっている気がする。
「なんでも頼んでいいぞ。好きなだけ食え」
「いいんですか!?」
声を弾ませる私。
「……やめといた方がいいですよ、隊長」
ルークが口を挟む。
「ん? なんでだ?」
「ノエルってああ見えてすごく食べるんで」
「ちっこい割にはってだけだろ。まあ、任せとけって。後輩二人に腹一杯食わせるくらいの金はあるからよ」
そう余裕綽々だったガウェインさんは、三十分後死んだ魚の目で虚空を見つめていた。
「おかわりお願いします!」
「……まだ食うのかお前」
「お肉は別腹なので」
「…………」
大きくなったお腹を叩きつつ、幸せいっぱいな気持ちでお店を出る。
ガウェインさんとルークは、支払いをしながら何やら話していた。
「は、半月分の食費が一日で……」
「元気出してください、隊長」
「その、できればお前の分は出してもらっていいか?」
「ごちそうさまでした、隊長」
内容はよく聞こえなかったけど、ルークが先輩と仲良くやってるみたいでよかった。
にしても、ごはんをお昼にゆっくり食べられるなんて……!
前の職場では仕事が多すぎて昼休憩なんて存在しない日も多かったから、余裕を持って食べられるこの時間がありがたすぎる。
ああ、なんて良いんだろう、ホワイト職場環境。
雲一つ無い青空の下、よろこびを噛みしめる新生活初日の私だった。