―母方の血筋―
今回はちょっと短めです。
(…………母サマノ妹ッテコトハ……私ノ叔母サマ?)
「は、母上、本当にこのお方がベルヒルデ様の!?」
フラウヒルデはどう見ても10歳も年が離れていないように見える母に対して、慌てたように問い質した。
彼女にとっても、ザンの存在は寝耳に水な話だったらしい。
(母上……?
……私ノ叔母サマノ娘ッテコトハ…………私ノ従妹?)
「ええ、間違いないわね。
リザンという名前が一致しているのもそうだけど、姉様が幼いリザンを何度かここに連れてきたことがあるの。
面影がまだ残っているわ」
(私ノ幼イノ時ッテ……200年以上前ダヨネ?)
つまりシグルーンはその当時から生きているということだ。
当然、普通の人間としては有り得ない長寿と若い容姿である。
かといって、彼女が斬竜剣士の血を引いているというような話は、ザンも聞いていない。
一体何がどうなっているのか──ザンは更に混乱し、それは脳の再起動を阻害した。
そんな具合に半ば脳が休眠状態のザンを見て、フラウヒルデはボソリと呻く。
「信じられない……。
こんな間抜け面が、あのベルヒルデ様の娘だなんて…………!!」
その言葉を耳にした瞬間、ザンの脳はハッと、覚醒した。
「誰が間抜け面だぁっ!?」
「…………聞こえたのか」
フラウヒルデは、「しまった」とでも言うかのように、そっぽを向いた。
「あらあら、ごめんなさいね。
娘が失礼なことを……。
なにせ、女手一つで育てたものだから、少々性格に問題があるのよ、この子は。
どうも思ったことが、すぐ口に出てしまうようでねぇ……」
「……それって、私が本気で間抜け顔だと思ってしまったことを、肯定してますよ……。
大体、性格に問題があるなどとは、母上にだけは絶対に言われたくないのですが……」
フラウヒルデは、不満げにシグルーンへと抗議を表明した。
どうやら母に対して、色々と思うことがあるらしい。
「あらあら、全然フォローになってなかったわね。
ごめんなさいね、リザンちゃん」
「は、はあ…………」
ザンはシグルーンの言葉に力なく応じた。
もしもこのシグルーンが本当に母ベルヒルデの妹で、なおかつ姉に性格までもが似ているのだとしたら――いや、間違いなく似ているのだろう。
既にザンのことを「ちゃん」付けで呼んでいる辺りが、良い証拠だと言える。
このノリは、ザンにも身に覚えがあるものだった。
だからフラウヒルデの性格に問題があるという話も、ザンには分かるような気がした。
おそらく相当な親バカぶりによって、かなり甘やかされて育てられてきたのだろう。
ベルヒルデによってそのように育てられてきた自分自身と重ね合わせて、手に取るように分かる。
というか、ちょっと同情したい。
「でも……本当に母様の……?
一体あなたは……?」
「私のことは後で詳しく説明します。
200年以上前に、この地で何が起こったのかという話と共にね。
まずは姉様とベーオルフ様の身に何が起こったのかを、どうかお聞かせください」
「は、はいっ」
ザンは畏まって返事をする。
彼女が年上の人間を見るのは約100年ぶりのことだし、そんなに長生きの人間が存在しているとは思ってもいなかった。
もしもシグルーンが本当にザンよりも長い年月を生きているのだとしたら、人間としては間違いなく最高齢である。
そんな存在を目の前にして、緊張しないでいられる者などいるのだろうか。
だから普段は傍若無人なところがあるザンでも、さすがに畏れ入る。
そして、天涯孤独だと思っていた自身に、いきなり叔母と従妹ができたのだ。
そのことに対する戸惑いも凄まじい。
(な……何なんだ一体……?)
ザンはあまりにも予想だにしなかった展開に困惑しつつも、あの悲劇の日について語り始めた。
一族が全滅し、母が命を捨てて命を救ってくれたあの日のことを──。




