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―アースガルの末裔―

 ザンが足を踏み入れた城内を見回すと、その広さもさることながら、施された建築技術の華麗さにも驚かされる。

 壁には様々な彫刻が彫り込まれ、この城全体で一つの芸術品といった感があった。

 この城が建築された当時は、かなりの巨費が投じられたのだろう。

 

 しかし今現在は、やはり古めかしい印象がある。

 掃除が隅々にまでいき渡っているのか、カビ臭さなどの不快な感じはしないが、目に入る殆どの物に、かなりの年季が入っていた。


 どうやら城の内装に過度な費用を費やしたりはせずに、精々維持費程度で抑えているらしい。

 ひょっとしたら200年前の、アースガル神聖王国時代から使い込まれている物もあるのかもしれない。

 そんな城の様子から、城主は割と質素で倹約的な生活を営んでいるらしいことが想像できた。

 

(少なくとも、どこぞの強欲貴族みたいに、徴収した税金で私腹を肥やすような人ではないみたいだな……)

 

 そんなことを考えて、ザンは安堵する。

 親族かもしれない人間が善人だというのなら、それはやはり嬉しかった。


 やがて彼女は、とある一室へと案内された。

 

 そこは領主の書斎なのだろう。

 壁の四方を書棚に覆われ、その書棚にはなにやら小難しそうなタイトルの書物――中にはかなり笑えるタイトルの本もあったが――が、何千冊、あるいは何万冊に達しているかもしれないほど膨大な数が所蔵されていた。

 

 そんな部屋の中央には大きく高価そうな机があり、その席には30代間近と思われる女性が座している。

 この人物が領主なのだろうか? 

 女よりも男の方が優れている──などと女性蔑視的な考えの者がまだまだ多いこの世の中で、女性で領主の任に就いている者はちょっと珍しい。

 だがそれは、それだけ彼女が有能だということの証明なのだろう。

 

 その女性のやや斜め後ろには、まだ20歳には届かないであろうと思われる年齢の女性が、腰の後ろに手を組んだ直立の姿勢で控えている。

 突然の訪問者を警戒してか、彼女は帯剣していた。


 そのことから彼女は、領主の護衛役なのだということが分かる。

 だからなのか、領主と思われる女性が質素ながらも優雅にドレスを纏っているのとは対照的に、「男装」と言ってもいいような飾り気の無い服に身を包んでいた。

 おそらく彼女は、戦闘などの荒事を常に想定しており、動き易さを重視した服装を好んで着ているのだろう。

 

 故に彼女は、騎士などの職に就いていることが想像できた。

 確かにその服装は、一般的な騎士――ただし男の私服としてはさほど珍しくはない。

 そして実際に、その眼光の鋭さと帯剣しているという事実が、彼女の勇猛さを如実に物語っていた。

 

 ただ、髪型をポニーテールにしており、その部分だけは年相応の少女らしさを感じさせる。

 その辺がなんともアンバランスで、可愛らしくもある。

 

 そしてこの2人の女性は、領主とその護衛といった間柄だけでもないようだ。

 2人とも美しい銀髪と、紅い瞳をしていたのである。

 よく見れば顔立ちもかなり似通っていた。

 おそらくは姉妹、あるいはそれに類する関係なのだということが、容易に知れた。

 

 しかも2人の顔立ちは、何処となくザンにも似ている。

 いや、年上の女性の方は、似すぎていると言ってもいい。

 しかしザンに似ているというよりは、その母ベルヒルデに似ていると言った方が正しいようにも見える。

 

「なるほど……。

 私達の遠い親族などという話も、全くのデタラメではないようですね」

 

 領主と思われる女性は、凛として透き通るような声で、得心いったように呟き漏らした。

 

(声まで母様に似ている……)

 

 その事実に、ザンは不思議な感慨を覚えた。

 そんな彼女へ領主と思われる女性は、からかうような口調で語りかけた。

 

「もしもあなたが『我らの親族を偽って、財産を(かす)め取ろうなどと考える不心得者であるのならば、我が手で叩き斬ってくれる』などと、このフラウヒルデが張り切っていたのですけどねぇ……。

 よかったわね、本物で。

 そして残念だったわね、フラウ?」

 

 彼女は微笑みながら、フラウヒルデと呼ばれた護衛に視線を送る。

 それを受けて、フラウヒルデはふて腐れたように視線を背けた。


 そのやりとりを見て、ザンは頬の辺りに冷や汗が伝うのを感じた。

 自身がこうもあっさりと、領主と会えた理由が分かったような気がする。

 

(偽者なら自らの手で処刑を実行する実力と、人を斬る覚悟があるってことか……。

 それにしても「残念だった」って何だ? まさか、「人を斬るのが趣味」とか言わんだろうな……)

 

 おそらくは、「これから会う人物が本当に親族か否か」と、2人で賭けでもしていたのだろうが、相手の意図が読み切れなかったザンは、複雑な表情を一瞬浮かべた。

 だがすぐに彼女は、傍目からも「嬉しさが込み上げてくるのが抑えられない」という様子となる。

 護衛の「フラウヒルデ」という名は、母のベルヒルデとあまりにも酷似しており、最早全くの無関係とは思えなかったからだ。

 

「……とにかく、初めまして。

 私はリザンといいます。

 あなたが領主様ですか?」

 

 ザンはここ200年で、初めて本名を名乗った。

 それが明らかに自身と同じ血を引く者への、礼儀だと思ったからだ。

 

(リザン……?)

 

 その名を聞いた領主と思われる女性は、何か心当たりがあるかのように表情を動かした。

 フラウヒルデは、私のお気に入りキャラです。

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