表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/430

―面会の申し込み―

 ほどなくしてザンは、アースガルの領主が住まうという、城の正門前に辿り着いた。

 遠くから見ても古めかしい印象だったが、近くで見てみると更にその思いを強くする。

 どうやらアースガル神聖王国時代――つまりは200年以上前から、この城が存在するという話も嘘ではないらしい。

 

 しかし元々は王城であっただけに、かなり大きな規模の城だ。

 これはクラサハード本国の王城にも匹敵する──いや、下手をするとそれ以上の規模があると言ってもいい。

 はっきり言って、地方領主の城としては大き過ぎるだろう。

 

 これではまるで、王よりもこのアースガル領主の方が、大きな権力を持っているようにすら見えるのではなかろうか。

 居城が大きければそれでいいというものでもないが、やはり城は権威の象徴として見られることが多いのだ。

 だから本来ならば、王の権威を守る為に解体されていてもおかしくない規模の城だと言える。


 それにも関わらず、これほどの城を持つことが許されているということは、このクラサハード王国内において、アースガル領主がかなり高い地位を持っていると察することができた。

 あるいは、王家との繋がりがある「大公」の位を持っていてもおかしくはないだろう。

 

 ザンは正門横に設けられた窓から、中にいた門番へ「領主に会わせてほしい」と声をかけた。

 しかしそんな彼女の申請を、門番はすげなく却下した。

 まあ、普通は領主という身分の高い人間に、一般庶民がなんのコネもなく会えるなんてことはまず無い。


 だが、当然のようにザンは諦めず、

 

「実は私、領主様の遠い親戚なんです」

 

 などと言ってみる。

 身分詐称も(はなは)だしい。

 いや、ひょっとしたらザンの言葉は事実なのかもしれないが、証拠は皆無だ。

 それが嘘だと見破られれば、重罪に問われる可能性もあった。

 

 たとえば王族の名を語ったりすると、身分詐称の罪に加えて不敬罪にも問われることとなり、下手をすれば死罪ということも十分に有り得る。

 実際にそんな前例が無くもないのだ。

 もしもアースガル領主に、クラサハード王族との縁戚関係があった場合、非常にまずいことになるだろう。

 

 だがザンは、万が一罪人として国から追われる身になったとしても、余裕で逃げおおせる自信があるので、割と平気でこのような出任せを言ってしまう傾向にある。

 門番はそんな彼女を怪しく思いつつも、ザンの髪と瞳の色をしげしげと観察して、

 

「一応……伝えましょう」

 

 と、領主に確認を取ることにしたようで、城の奥へと入っていった。

 どうやら領主が銀髪という話も本当のようだ。

 

 それから暫くの間、ザンは門前で待たされることとなった。

 あと1~2ヶ月もすれば花も咲くだろうという季節ではあったが、まだ気温も低く、普通の人間にとっては肌寒い。

 随分と粗末な扱いである。

 せめて待合室で待たせるという、選択肢は無かったのか。

 

(私が本当にここの領主と血縁だったら、投獄もんだぞ、あの門番……)

 

 ザンは声に出さずに毒づく。

 まあ、一年中同じ服装をしている彼女にとっては、これくらいの寒さはさほど苦もないことではあったが。

 ……と言うか、そこら辺を門番に「不審な人物だ」と怪しまれたのかもしれない……。

 

 実際、革のような材質でできた薄手のスーツを着込み、その上に最小限の鎧とマントで覆っただけという、見ている方が寒くなりそうな服装をザンはしていた。

 気温が零下にまで下がれば、普通の人間ならば数時間と待たずに花畑(対岸)に逝けそうなほど、保温効果は期待できなさそうだ。

 実際彼女の肩は、完全に素肌が露出している。

 

(……ま、これですんなりと、領主に会えるとは私も思わないけどね)

 

 確かにこれで領主に会える可能性は、無いに等しい。

 可能性があるとすれば、「近々、本当に親類が訪れる予定があった」などと、領主の方に何か心当たりがあった場合、それと勘違いして面会してくれる可能性がある程度だ。

 

 大体よくよく考えてみれば、ザンは名前すら名乗っていなかった。

 聞かなかった門番もかなりのうっかり者だが、名を明かさぬような者と領主が会うとは思えない。

 まあ、名を明かしたところで、相手に心当たりがなければ、更に会える可能性は小さくなるだろうけれど。


 それに領主の親族という身分の者が、護衛も伴わずに独りで訪れるのもおかしな話だ。

 まず間違いなく怪しまれただろう。

 

(これで駄目なら、忍び込むとか別の方法を考えよっと)

 

 ──などと、ロクでもないことをザンは考えていたのだが、そんな彼女の前で固く閉ざされていた門が開いてゆき、

 

「失礼致しました……。

 御領主様がお会いになるとのことです」

 

 門番は先ほどとは態度を豹変させて、(うやうや)しくザンを城内へと招き入れた。

 

「へ?」

 

 てっきり、面会を拒絶されるものと思っていたザンは、思わず自分の耳を疑った。

 

「なにか?」

 

 そんなザンの様子を、門番は(いぶか)しむ。

 

「あ、いや……なんでもない」

 

(むぅ~、まさかこうもあっさりと会えてしまうとは……)

 

 ザンは戸惑いつつも、城の中へと歩み入った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ