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―戦力外通告―

 ブックマークありがとうございます。

「そんな……本気ですか?」

 

 ルーフは重い口調で、ザンへと問い返した。

 

「勿論本気だ。

 ……これは前々から考えていたことなんだ。

 ルーフ、お前はそろそろ私の旅から、別れた方がいい……ってね」

 

「で……でも……」

 

「次の相手は四天王かもしれないんだ……。

 もう命の保証はできない。

 それにこれ以上危険な旅に、お前が付き合わなければならない理由も無いだろう?」

 

 ルーフの顔には困惑の色が浮かんだ。

 まさかザンがこんなことを言いだすとは──と。

 いや、彼にもいつかはこんな日が来ることは、容易に想像できていた。

 ただ、それを考えないようにしていただけだ。

 

 しかしルーフも、ここで引き下がる訳にはいかない。

 立て前の上では、滅びた故郷の代わりとなる移住先を探す為に、ザンの旅に同行していることになっているが、本当は彼女の助けになりたくて、彼は旅を共にしているのだ。

 

 ルーフは両親の命を邪竜に奪われるという、自身と同じような境遇のザンをどうしても放ってはおけなかった。

 彼女にとってはそんな同情はいらなかったかもしれないが、彼女がこのまま憎しみに駆られて邪竜と戦い続けることが、良いことだとはどうしても思えない。


 今はどうすればザンのことを救えるのかなんて分からなかったが、一緒に旅を続けて行けば、いつかはその方法を見つけることができるとルーフは信じていた。

 だからこそ彼は、ここで彼女と別れる訳にはいかなかった。

 

「僕は嫌ですよ……!」

 

「ルーフ……!」

 

「だってそうじゃないですか。

 確かにこの先の旅は、危険がつきまとうのかもしれません。

 でも、それはザンさんだって同じなんでしょ? 


 僕が知らない所でザンさんが傷ついて、命を落としているかもしれないなんて……そんなの嫌ですよ。

 あなたが苦しんでいることを知りながら、のうのうと平和に暮らしていけるほど僕は薄情じゃありません!」

 

「ルーフ……」

 

 ザンは言葉に詰まる。

 確かにルーフの気持ちは、分からないでもなかった。

 もしもこのまま2人が別れてしまえば、お互いの安否を確かめる術は無くなる。

 それは払拭できない不安として、いつまでも心に付きまとうだろう。

 それはある意味残酷なことだ。

 

 そして自身の身の危険を心配してくれるルーフの気持ちも、ザンには嬉しかった。

 本当は彼女だって、ルーフと別れたいとは思っていない。

 それはもしかしたら、ルーフ以上にその想いは強いのかもしれない。


 しかしだからこそ、ザンは目の前で再び大切な者を失うようなことを経験したくないのだ。

 おそらく恋愛感情には至っていないが、ザンはルーフのことが好きだ。

 彼女の精神はその生きてきた年月から比べればあまりにも未熟で、その上人付き合いにも慣れてはいない。


 それが故に異性に対する特殊な感情をザンは未だに知らなかった。

 いや、そのような感情を持つことを恐れている。

 彼女が200年前に負った()は、今もなお(・・・・)彼女を苦しめ続けているのだ。

 

 だが、少なくともザンにとってのルーフは、「家族の一員」と呼べるほどの大切な存在となっていた。

 彼の存在は、両親との間にあった家族の温もりを思い出させたのだ。


 しかしそれは、その温もりを失うことが、いかに恐ろしいことであったのかを、ザンに思い出させる結果にもなっている。

 だからこそ彼女は、両親を失った時に味わった癒やしがたい絶望感――あんな想いをもう二度としたくはなかった。

 もしも再び味わうことになれば、今度は感情を失うくらいでは済まないかもしれない。


 おそらくは完全に狂ってしまうか、自ら死を選ぶか、あるいはザンに対して残酷な運命を与あたえ続ける世界そのものに憎しみを向けるか……。

 そんな最悪の結末が現実となる前に、ルーフとは別れたほうがいい──彼女はそう考えたのだ。 

 

「……とにかく、これはもう決めたことなんだ。

 そのつもりで、これからのことを考えておいてくれ……」

 

 ザンはその心とは裏腹に、ルーフへと冷たく言い放つ。

 

「で……でも……」

 

「ルーフ! 

 もしも邪竜との戦いの中で、私がお前を庇ったが為に命を落とすようなことになったらお前はどう責任を取る? 

 そして、もし私がお前を庇え切れずに死なせてしまったら、私はどう償ったらいい?」

 

「そ……それは……」

 

 ルーフは何も言い返せない。

 ザンの言うことは一々もっともだ。

 彼女と邪竜との戦いにおいて、彼はあまりにも無力だった。

 

(僕は……ザンさんの負担にしかならないの……?)

 

 そんなルーフの想いを知ってか知らずか、次にザンが口にした言葉は、彼にとって痛烈だった。

 

「お前は……足手纏いなんだよ……」


「…………!!」

 

 足手纏い──。

 そんなことは言われるまでもなく、ルーフにだって分かっている。

 だからこそ悔しくて仕方がない。

 どんなに否定しようとしたところで事実は変えようがなく、最早彼に反論する余地は残されていなかった。

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