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―街の広場で―

 今回から第3章です。短いので本日2回目の更新をしてみました。

「……………………」

 

 たまたま立ち寄った街の広場で彼女は、その彫像を目にとめて見上げていた。

 いつもなら美術品の(たぐ)いには全く興味を示さない彼女であったが、 何故かその彫像には心惹かれるものを感じる。

 

 古い──本当に古い彫像だ。

 風雨に浸食されたその輪郭は丸みを帯びており、ひび割れも少なくはないが、それでも美しい彫像であった。

 その古さから鑑みれば、驚くほど汚れが目立たないのだ。

 おそらく何者かが、毎日のように清掃を施しているのだろう。

 

 だが、その像の美しさは、単に手入れがいき届いているからだけではなく、元よりその造形が素晴らしいからでもある。

 剣を天高く掲げ、馬に跨がる女性の姿――その躍動感のある勇ましい姿の中には、清らかさも同時に兼ね備えており、まるで戦場に降臨した戦いの女神のようであった。

 あるいはモチーフがそのものなのかもしれない……と、彼女は思ったが、どうやらそうでもないらしい。

 

「……救国の戦乙女(ワルキューレ)……?」

 

 彼女は像の台座に刻まれた言葉を読み上げた。

 その題名から察するに、この像の人物はかつて国を救った功労者なのだろう。

 しかも女性の身でありながら国を救うなんて偉業は、世界的に見ても希有な事例であり、それだけにこの像の人物が多くの人々から尊敬を集め、未だに愛され続けていることが像の状態からも察せられる。

 

「ふ~ん、偉いんだぁ」

 

 彼女は感心したように、再び像を見上げた。

 そんな彼女の顔には、自然と笑みが浮かんでくる。

 何故かこの像を見ていると、懐かしさが込み上げてくるのだ。

 

 その時──、

 

「ザンさーん。

 食堂を見つけましたよ。

 お昼にしましょうよ~!」

 

 遠くから呼びかけられて、ザンと言う奇妙な名の女性は振り返った。


「うん、今行く」

 

 ザンはもう1度だけ像を見上げてから、声をかけてきた少年の方へと小走りに駆け出した。

 

「あれぇ?」

 

 そんなザンとすれ違った、散歩の途中らしい2人連れの老人の片割れは、軽く首を傾げた。

 

「今の娘さん、あの像のお方に似ていなかったかい?」

 

 そう問われたもう1人の老人は、

 

「そうかい? 

 まあ、同じ銀髪だしなぁ……」

 

 と、去り行くザンの背を見送った。

 そして彼らが何気なく像を見上げてみると、光の加減からなのか、微笑んでいる像の表情が、心なしかいつもよりも嬉しそうに見えた。

 明日は通常通り更新します。

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