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―実力差―

「は、敗者……」

 

 リチャードは怒りからか、割れんばかりに奥歯を強く噛みしめ、更にその額には幾つもの青筋を浮かべた。

 

「この俺が……、竜殺しの英雄であるこの俺が敗者だとぉ!? 

 ふざけるなっ!!」

 

「それだよ。

 その、あんたが闇竜を倒したって話が、どうも信じられないな……。

 冗談だろ?」

 

 ザンの疑惑に満ちたの眼差しを受けて、リチャードは更に激昂した。

 

「ならば己の身をもって、竜殺しの能力(ちから)がいかほどの物かを味わうがいい!」

 

 リチャードはそう叫ぶなり、素早くザンに斬りかかった。

 しかしザンは、その斬撃を危なげなく躱す。

 だがそれでも構わずに、リチャードは連続して斬撃を繰り出した。

 

「凄い……剣が何本にも見える……」

 

「ああ……。

 リチャードの剣は、以前から凄まじい速さを誇っていたが……。

 あんなに速い斬撃は初めて見る……。

 これが竜の血の能力なのか……」

 

 ルーフの声に同意するように、リックは呻いた。

 

「まあ……あれを全部見切っているザンの方が、もっと凄いんだけどな」

 

 そう呟きつつも、ファーブの心中は穏やかではいられなかった。

 

 ザンは素早い敵と戦う際には、相手がいかなる達人であっても――いや、達人ならばなおのこと、基本的には結界を使用しない。

 それは達人同士の戦いでは、1秒にも満たない瞬間にほんのわずかな隙を見つけて、そこに攻撃できるかどうかが勝敗を分けるからだ。


 つまり、攻撃の度に結界を消したり張ったりしていては、いかに防御の面では非常に有効だとしても、絶好の勝機を得る為の邪魔になってしまうという訳だ。

 だからザンは余程のことがない限り、結界を最初から使用しない。

 

(しかし、一撃でも命中すれば、命に関わるぞ……)

 

 現時点でのザンは、自らに襲いかかる斬撃を全て見切って回避してはいるが、結界が無い以上、万が一が無いとは言い切れなかった。

 そしてさすがのザンも、首が切断されたり、脳や心臓を完全に破壊されたりすれば死ぬ。

 そうでなくても、腕の1本でも切断されると圧倒的な不利が生じるし、今後の戦士生命にも大きく関わってくるだろう。


 普通の人間は手足の末端を切断されても、すぐに適切な処置を施して接合すれば、ある程度の障害は残すものの、元に戻る見込みはある。

 しかし、ザンの場合はそうはいかない。

 少しでも時間が経過してしまえば、彼女が持つ再生能力の為に傷口が合わなくなり、無理矢理に繋いでも以前のようにはまともに機能しなくなってしまうのだ。

 

 当然、再生能力で欠損部分の全てを治癒してしまえば問題は無いが、能力の限界を超えるような傷を負った場合、その部位は永遠に失われることとなる。

 そのような理由から、強大な破壊能力を持ってはいるが、その巨体が故に比較的動きが鈍く隙も大きいが為に、結界を張りながらでも戦える竜よりも、今のリチャードの方がザンにとって数段厄介な存在だと言えた。

 

 しかしそれは、リチャードに対しても同じことが言える。

 その上にザンは、彼よりも有利な点を幾つも持っていたのである。


(さ~て、様子見はもういいか)


 ザンの動きに、変化が生じる。

 それまではリチャードの斬撃を全て見切り、余裕を持って躱していた彼女だったが、今度はその斬撃を剣でさばき始めた。

 当然、こちらの方が斬撃を防ぐ手段としては、簡単で安全だ。

 

(クククク……ついに余裕が無くなってきたか?)

 

 リチャードはその防戦の変化をそう判断し、更に追い詰めようと斬撃に力を込める。

 しかしそれは、ザンの狙い通りであった。

 剣と剣が衝突しようとした瞬間、彼女はスッと剣を引いて受け流す。

 

「なっ……!?」

 

 剣同士が衝突する反動に備え、弾かれないようにと力を込めていたリチャードは、勢い余って前のめりに大きく体勢を崩した。

 勿論それは致命的な隙となる。

 

「私とあんたじゃ、剣士としての年季が違うんだよっ!」

 

 そう、ザンの200年近い戦闘経験から比べれば、リチャードのそれは児戯にも等しい。

 そんな彼を誘導してミスを引き出すことなど、彼女にとっては戦術とすら言えない簡単な技術であった。

 

 ザンは隙だらけとなったリチャードの背を目掛けて、剣を振るった。

 だが彼は無理に姿勢を戻そうとはせず、倒れる勢いに任せて前転し、回避を試みる。

 それは賢明な判断であろう──結果的に斬撃を完全に避けることは叶わず、背を大きく斬り裂かれことにはなったが、無理に姿勢を戻そうとしていれば、こんなものでは済まなかったはずだ。

 相手が悪いだけで、彼の戦闘センスも悪い訳ではない。


 しかし──、

 

「グウウウッ!」

 

 リチャードは苦痛で顔を歪めながらも、必死で転がり起きる。

 が、彼が体勢を立て直した時には、既にその背後にザンは回り込んでいた。

 

「――――――!!」


 再び斬撃がリチャードを襲う。

 彼は辛うじてそれを躱すが、ザンの攻撃は止まらない。

 2人の立場は、先ほどまでとは完全に逆転していた。

 

 いや、それは完全に同じ状況ではない。

 ザンの連続的な攻撃を、リチャードは必死で回避しようとしていたが、完全に躱すことはできず、その身体には瞬く間に傷が増えていくのだ。

 そして傷の再生も、全く追いついていない。


 その実力差は、歴然としていた。

 

「やっぱりあんたが竜を倒したなんて話は、信じられないな。

 さっきの攻撃だって全然大したことなかったし、私がわざと作った隙には気付きすらしなかった。

 並以下の上位竜ならまだしも、闇竜を倒せるほどあんたは強くない」

 

「だ、黙れ~っ! 

 今から、俺の真の力を見せてやるっ!!」


「っ!!」

  

 ザンの剣がリチャードに直撃しようとした瞬間、その剣は大きく弾かれ、彼を切り裂くことはなかった。

 咄嗟に形成された結界に阻まれたのだ。

 その隙に彼は後方に飛び退いて、ザンとの距離を稼ぐ。

 

「あいつ、もう意識的に結界を張れるのかっ!?」

 

 ファーブは驚愕した。確かに現時点でのリチャードの実力は、ザンには遠く及んではいないようだ。

 しかし短い期間で、次々と竜の能力を会得していく彼の素質には、末恐ろしいものを感じる。

 

「食らえーっ!!」

 

 リチャードは最大限の力を込めて、横薙ぎに「烈風刃」を放つ。

 そして縦に振り下ろすようにもう一撃――いや、剣は止まらずに左斜め下から右斜め上へと跳ね上げられ、今度は左斜め上から右斜め下へと振り下ろされた。

 つまり、合計4つの衝撃波の刃が生じ、交差しながら広範囲に広がったのだ。


 それは地面に大きな溝を掘り、大量の土砂を巻き上げつつザンへと突き進んだ。

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