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―超魔法の威力―

 人類にとっての事実上の最強攻撃魔法──烈破。

 その威力を極限まで抑えて発動させたとはいえ、さすがは竜であるファーブの魔力である。

 烈破による爆発は、チャンダラ市全域に爆音を轟かせつつ、市長邸の敷地内にあるほぼ全ての存在を完全に破壊した。


 おそらくこれは、上位竜族が相手でさえも、無傷では済まされない威力があったはずだ。

 勿論、ファーブが形成した結界によって守られたていたルーフとリックは全くの無傷だが、()の当たりにした烈破の威力の凄まじさに、ルーフは心底恐怖した。

 

「こ……怖すぎる……!」


「おう……おお?」

 

 また、竜との接点が無く、その桁違いの能力に対しての耐性を持っていなかったリックに至っては、最早何が起こっているのか理解すらできていない。

 いや――、

 

「こ、これ、本当に街に被害は無いんでしょうね……?」

 

 理解が及ばないのは、ルーフとてリックと大差ないだろう。

 結界の外は、もうもうと粉塵が立ちこめており、どのような状況になっているのか、全く把握できなかった。

 それが余計に、彼の不安感を煽る。

 

「街は知らんが、人は大丈夫だろ? 

 そりゃあ、衝撃波で近所の窓ガラスは全部割れただろうし、多少は屋敷の破片とかが街に降り注ぐだろうけど、かなり細かく砕かれているから当たっても死にはしないさ。

 ま、全市民の安眠を妨害してしまったことだけは、間違いないだろうけどさ」

 

 確かに今の爆音では、どんなに深い眠りに入っていた者でも、睡眠の継続は不可能だろう。

 それは聴覚が不自由な者であってさえも、例外ではない。

 この激しい爆発の衝撃は、全市民が全身で感じていたはずだ。

 もしもこの期に及んでまだ眠り続ける者がいるとしたら、それはショックで心臓マヒなどを起こして永眠してしまった場合しか考えられない。

 

(ほ、本当に大丈夫なのかな……?)

 

 思わず心疾患を抱えている人達の心配をしてしまうルーフであった。

 そもそも、衝撃で窓ガラスが何百枚も割れたのだとしたら、それだけでも十分大惨事だし、そのガラスによるケガ人も皆無ではないだろう。

 その被害額のことを考えると気が重くなってくるるのは、この爆発を起こした張本人と彼が全くの無関係ではないからなのかもしれない。


 というか、ルーフ自らが攻撃のGOサインを出してしまったようなものだ。

 彼の中では、罪悪感が凄いことになっていた。

 無論、責任を取れと言われても、只の子供であるはずの彼に、取れるはずもないが。

 

 それでも悪いことばかりではない。

 この市内に轟き渡った爆音も決して無駄ではなかったのだが、それが語られるのはまだ先の話である。

 まずはこの攻撃による成果を確認しなければ、状況は進展しなかった。

 

「リ……リチャード」

 

 リックは親友の……いや、親友だった者の名を、力なく呟いた。

 おそらくリチャードは、死んだであろう。

 この凄まじい大破壊を目の当たりにして、そう思わない方がどうかしている──と、彼には思える。

 

(もしも、これで生きているようなら、それはもう人間ではなく、完全な怪物だ。

 ならばいっそのこと、死んでいてくれた方がはるかにいい……!)

 

 リックはリチャードの死を切実に願った。

 非情なように見えるが、これもまた、友の人間としての幸せを想ったからこその願いである。

 しかし、その心の底からの願いは、叶いはしなかった。

 

 立ちこめる粉塵の奥から打ち出された衝撃波が、ファーブの張った結界に直撃する。

 

「うわあっ!?」

 

「……烈破を食らって、まだ生きているのか……!!」

 

 「烈風刃」の衝撃波によって粉塵は薙ぎ払われ、そこにファーブは信じられないものを見る。

 全身を血で紅く染めながらもなお、リチャードと言う名の怪物は、確かに生き延びていたのだ。

 

「駄目だ……もう手に負えん!」

 

 ファーブは呻く。

 最早彼には、リチャードを倒す手段が無い。

 今の状況下では、「烈破」以上の攻撃を使うことはできない。


 事実、(じき)に今の爆音を聞きつけて、野次馬達が集まってくるだろう。

 そうなってしまえば、大規模攻撃の使用は大勢の人間を巻き込んでしまうことを意味する。

 刻々と状況が悪くなっていくのは明白だった。

 

(奴には、上位竜並みの防御能力があると考えていい……。

 でも、一体何故だ……?)

 

 通常は竜の血に寄生された者が、その血の主である竜の能力を超えることはまず有りえない。

 しかしリチャードは、自らに血を与えた竜を倒したという。

 それが事実なのだとしたら──、

 

(考えられるのは……四天王……?)

 

 ファーブはある仮説へと至った。

 おそらくそれは、間違ってはいないだろう。

 そうでなければ説明がつかない。

 そう、通常ならば、これほどの化け物が生まれるはずがないのだ。

 

「くくくく……素晴らしい! 

 さすがに今の攻撃には死ぬかと思ったが、まさか耐え得るとはな……。

 俺は不死身の肉体を手に入れたぞ。

 最早何も恐れることはない! 

 ハーッハッハッハーっ!!」

 

 リチャードは自らの巨大な力に酔いしれ、夜空を見上げながら笑う。

 そんな彼の姿からは、あれほど尊かった「人々を救う」という理想は欠片も見出せない。

 いや、彼の理想はとっくの昔に、巨大な力を思う存分に奮う為の、都合の良い口実となっていたのかもしれない。

 

「ハハハハハハハハハ……うん?」

 

 その時、リチャードは唐突に笑いを止めた。

 彼が見上げていた夜空に浮かぶ、殆ど完全な円形を描いた月に、何かの影がよぎったのだ。

 

 影は凄まじいスピードを伴いながら、リチャード目掛けて落下してくる。

 それが何者なのか、そしてその者が剣を手にしていることに彼が気づいた時には、もう――、

 

 刃はリチャードの身体に、深く食い込んでいた。

 市長コレクションの美術品も犠牲になったのだ……。

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