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―連続猟奇殺人事件―

 チャンダラ市の犯罪を取り締まる警備隊の本部は、市長の豪邸の影にひっそりと建っていた。

 宮殿の如き規模で建てられた隣家が隣家なだけに、本部自体は全く目立っていなかったが、その分かり易過ぎる目印のおかげで、市に初めて訪れた人間でも立ち寄るのにはそれほど苦労しないというメリットもある。

 そういう意味では、なんらかの事件が発生した時には通報しやすく、使い勝手の良い所在地であるとも言えた。

 

 その本部の殆ど調度品も無い一室で、ザンは事件の目撃者として事情聴取を受けていた。

 あれから既に2時間ほどの時間が経過している。

 

「もう1度確認するが、悲鳴を聞いて駆け付けた時にはもう女は死んでいて、外套(がいとう)姿の男が逃げ去っていった……。

 君が見たのはそれだけなんだね?」

 

 担当の警備隊員は、テーブルを挟んで向かいの席に座っているザンに問う。

 彼の年齢は30代半ばといったところか。

 だが、生やしている口髭の所為でそう見えているだけで、実際はもっと若いのかもしれない。


 事実、ザンよりも幾分上背のある引き締まった身体は、若さに満ちあふれているように見えた。

 しかし威厳に満ちた低い声と口調だけを聞いていると、40代でも通用しそうである。

 

(たぶん警備隊の中でも、位の高い役職についているから、こんな喋り方をするんだろうな)


 と、とザンは推察する。

 その警備隊員は、「リック」と名乗っていた。

 

(おおむ)ねその通りかな……。

 他には特別何も見てないと思うけど……」

 

「しかし現場には何者かが争った形跡がある。

 犯人があの娼婦を相手に、地面がえぐれるような攻撃を繰り出したりするものだろうかね?」

 

「……確かに物凄い音は聞いたけど……。

 でも、他に人はいなかったと思うよ?」

 

 ザンは話がややこしくなるので、自身が犯人と戦ったという事実を伏せておくことにした。

 どのみち、相手の顔なんて殆ど見えていなかったのだから、これ以上の大きな手掛かりとなりそうな話はできそうにもない。

 

「ふむ……そうか……。

 犯人と争っていた人物なら、奴の顔を見ているかもしれんのにな……」


(見てません)


「まったく……どうしたものか」

  

 リックはそう呟くと、額に手を当てながら思索に(ふけ)り始めた。

 室内は沈黙に支配され、それが数分ほど続く。

 

「あの~、話はもういい? 

 まさか私に容疑がかかってるなんてことは無いんでしょ?」

 

 さすがに苛ついた様子でザンは口を開く。

 幼少期に受けた迫害の所為で、ルーフのような子供はまだしも、大人との付き合いがあまり得意ではない彼女にとって、見知らぬ男と狭い部屋に閉じこめられている状況は、酷く居心地が悪かった。

 

「あ、ああ、済まないね。

 話ならもういいよ。

 容疑が君にかかるということも、まず無いだろう。

 君は凶器になるような物を携帯していないし、現場周辺からも見つからなかったからな……。

 

 それに君達は、今日チャンダラに来たばかりなのだろう? 

 市の正門の門番にそのことを確認すれば、すぐに疑いは晴れるはずだ。

 君は目立つ容姿をしているから、たぶん門番もちゃんと憶えているだろうし、心配する必要は無いよ」

 

 ザンはリックの言葉に疑問を感じたらしく、軽く眉間に皺を刻んだ。

 

「……それって、前にも同じような事件があったから、今日ここに来たばかりの私には関係ないってことなのかな?」

 

「うむ……。

 実は今月に入って既に7人の人間が犠牲になっている。

 その現場の付近では外套姿の怪しい人物――君が見たのと同一人物だろうな……それが数度目撃されているんだ」

 

 リックは困り果てたような様子で語った。

 どうやらその一連の殺人事件に、かなり悩まされているらしい。



「7人も……!? 

 今月に入ってからって、まだ10日くらいしか経ってないじゃん」

 

 ザンは驚きの声をあげる。10日で7人といえば、1日半に1人は殺されている計算となる。

 

「事件は先月の始め頃から起きているから、被害者数の累計は11人にも登る。

 徐々に事件発生の間隔が狭まっているな……。

 そしてその遺体のどれもが、(はらわた)を喰い散らかされたかのような有様となって、発見されているんだ……。

 殺されてしまった者にこう言うのもなんだが、今日の犠牲者は喰われていないだけでも、まだ運が良かった方だと言うしかない……」

 

「喰われて……尋常じゃないなぁ……」

 

 ザンはリックの話に唸りつつも、「そんなことを一般人に話してもいいのか?」と(いぶか)しんだ。

 だが、もしかしたらザンの反応を見て、彼女が犯人かどうかを確認する為にリックはこの話をしたのかもしれない。

 だとすれば意外と切れ者である。


 無論、単に口が軽いというだけの可能性も否定できないが。

 どちらにしろ、リックのその話に、ザンは大きく興味をひかれた。

 

アレ(・・)の仕業かな……やっぱり)

 

 ザンは犯人に心当たりがあるようで、これからの行動方針を考え始めた。

 勿論、リックに怪しまれるのでそれを表情には出さない。

 

「そんな訳で、今この街はかなり危険だ。

 なんなら宿まで送っていくぞ?」

 

「容疑者の所在確認も兼ねて?」

 

 一見親切そうなリックの申し出の真意を、ザンは見透かしたのか、そう指摘した。

 

「……まあね。

 できれば明日にでも門番に確認をしておきたい。

 それが終わるまでは、完全に疑いが晴れた訳ではないのでね」

 

 リックはザンの言葉に多少面を食らいながらも、正直に自分の意図を認めた。

 

「まあ、第一発見者が疑われるのは仕方がないけど……。

 でも、生憎と宿を決める前に事件に巻き込まれちゃったんだよね。

 夜も遅いから、もう開いている宿は無いだろうし……」

 

「そうか、そういうことなら、私の家に泊めてやるぞ。

 それほど広くはないが、君と連れの男の子が寝泊まりするくらいはできるはずだ」

 

 リックはそう言うと、家に案内しようしたのか、ザンの返事も待たずに立ち上がる。

 凶悪な事件が頻繁に起こっている時に、若い女性と子供を野宿させる訳にはいかないと思ったのだろうが、結構強引な男である。

 そんな彼に、ザンは待ったをかける。

 

「ちょっと待ってよ」

 

「何だ? 私の家では不満かな。

 初対面の女性に対して情事を迫るほど、礼儀知らずではないつもりだが?」

 

「いや……寝床を提供してくれるのはありがたいんだけど、その前に1つ聞きたいことがあるんだ」

 

「私なら独身だぞ?」

 

「……そーゆーボケが、聞きたいんじゃなくてぇ……。

 この辺で竜が出たって、噂になったことはないかな?」

 

 ザンのその言葉を聞いたリックは、虚を突かれたかのように大きく表情を動かした。

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