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―遠すぎる目的地―

 ザンとルーフのこれまでの旅路は、基本的に徒歩(かち)を移動手段としていた。

 たまには通りかかった馬車に乗せてもらうこともあったが、善意で乗せてくれるようなお人好しは滅多にいない為、殆どの行程は歩いて進むしかなかった。

 

 それも町中の舗装された道ではなく、でこぼこや雑草、そして坂の多い山道などを、雨の日以外は毎日のように進んできたのだ。

 旅慣れぬ者にとって、これは相当に辛い。

 

 しかもここ2週間ほどの道中には町や村が存在しておらず、2人は野宿を強いられていた。

 既に季節も秋の終わりに差しかかり、さほど冬の寒さが厳しくないこの地方でも、夜の冷え込みはかなりのものとなっている。

 それがルーフの体力を、容赦なく奪っていった。

 

 そんなルーフを静養させようと、一行はこのチャンダラ市に立ち寄ったものの、行く先々の宿は全て満室であった。

 どうやら何らかの理由で、市に訪れる人間が通常よりも増加しているらしい。

 近々大きな祭りか何かが、開催されるのかもしれない。

 

 そんな訳で、ザン達はかれこれ1時間近くも宿を求めて彷徨(さまよ)い歩くはめに陥っていた。

 

「ん~、休ませてやりたいけど、あまり遅くなって宿が閉まってしまったら、また野宿だぞ? 

 ここは死力を尽くして歩いてくれ」

 

 そう言いながら、ザンはルーフの方に向けていた身体をくるりと身を(ひるがえ)して、スタスタと歩きだした。

 

「うえぇ~ん」

 

 ルーフは泣きそうな声をあげながらも、仕方なくヨロヨロとザンの後を追う。

 今の季節、凍死することはまず無いにしても、やっぱり路上で野宿するのは嫌なのである。

 ちなみに、ザンの相棒である謎の目玉・ファーブは、人目につかないように5cmくらいに縮まって、ルーフの頭の上でクークーと寝息を立てて寝ていた。

 なんだかちょっと可愛い。

 

(この人達、苦しんでいる僕を助けようと思う心は無いのか……?)

 

 と、ルーフは内心で毒づいた。

 しかし実際には、旅のペースを彼に合わせるように、ザンはかなりの配慮をしていた。


 本来のザンのペースならば、コーネリアからチャンダラまでの道程を踏破する為に、3ヶ月もの期間は必要無い。

 半月もあれば十分過ぎるほどだった。

 更にザンにとって不必要な休憩時間をとったのも、100回や200回ではきかない。


 元より邪竜を求めての、アテの無い旅だ。

 急ぐ必要は無いとはいえ、彼女なりにルーフの体調のことは考えていたのである。

 

 それでも旅の初心者で、しかも体力の無い子供にしか過ぎないルーフに、1000km近い距離を僅か3ヶ月の期間で歩ませるのは、少々無謀ではあったのかもしれない。

 結局ザンの心遣いは、ついぞ彼には届かなかった。

 

(それにしても…………)

 

 ルーフはキョロキョロと、辺りを見回した。

 周囲には廃墟らしき建物が目立ち、そこには窓ガラスが割られていたり、壁に下品な落書きがしてあったりと、柄の良くない連中がたむろしていた形跡がある。

 おそらく治安の良さは、期待できないだろう。

 

(何だかどんどん荒廃している場所へ、進んでいるような……)

 

 ルーフの顔は、不安の色が濃くなっていく。

 周囲はいかにも貧民街(スラム)といった様相を呈している。

 貧困によって犯罪率が上昇した所為で住民達が逃げ出しているのか、それとも犯罪に巻き込まれないように、息を潜めて隠れているのかは分からないが、人の気配も殆ど無い。


 たとえこんな場所に宿屋があったとしても、宿泊しようものなら眠っている間に荷物を盗まれたあげく、翌朝には簀巻(すま)きにされてドブ川に浮かぶことになりかねない。

 ルーフは実家の宿の客から、そんな盗賊まがいの悪質な宿屋の噂話を聞いたことがあった。

 

「あの……ザンさん? 

 ちゃんとアテがあって進んでいるんですか?」

 

 ついに不安が頂点に達したルーフは、ザンへと疑問をぶつけてみる。

 

「ん~……。

 私、この街は初めてだし……」

 

 しかし、ザンはボソリとそれだけ言うと黙りこくってしまい、ルーフの方をチラリとも見ようとはしなかった。

 後ろめたくて顔を合わせたくない……と、いった感じだ。

 どうやら彼女は、既に迷子になっていたらしい。

 

「ちょっとおぉぉぉぉーっ!?」

 

 思わず絶叫を上げてしまうルーフであった。

 

「ハハ……それだけ大声を出せる元気があるのなら、もう少しの間は大丈夫だよな? 

 ま、頑張れよ」

 

 ザンは自身のミスを誤魔化すかのように、無茶を言う。

 そんな彼女の頬はわずかに引きつっていた。

 

(じょ、冗談じゃないぞ~!)

 

 更なるアテの無い旅を強いられることとなったルーフは、ザンの旅に同行したことをちょとだけ後悔するのであった。

 しかし、「ちょっと」で済む辺りは、意外と根性があるのかもしれない。

 

 ――その時、

 

「キャアアアア――――――――ッ!!」

 

 路地の奥の方から、おそらくはまだ若いであろう女性の悲鳴が聞こえてきた。

 

「何だ!?」

 

 ザンはとっさに悲鳴が聞こえてきた方へ駆けだす。

 

「ちょっ!? 待ってくださいよーっ!!」

 

 ルーフもザンを見失わないように、必死で追いかける。

 しかし彼女の姿は、あっと言う間に見えなくなっていた。

 

「は……速い……」

 

 ルーフはこんな見ず知らずの街に取り残されて、茫然と立ちつくすしかなかった。

 ちなみにこの世界には、窓ガラスを作る技術も普通にあります。魔法を用いて加工したりするので、数世紀前の地球よりも技術は進んでいるかもしれません。

 ただし、全体的な文明自体は邪竜大戦などでリセットされ、進んだり戻ったりしているので、分野や地域などによってレベルにばらつきがあります。

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