―竜を屠りし英雄―
とりあえず、第2章のプロローグだけ投稿しておきます。
「こ、こんなことが……有り得るのか……?」
その男は、何か信じられない物を目撃してしまったかのような──いや、まさにその通りの面持ちで、地面に座り込んでいた。
腰を抜かしたのか、そのまま立ち上がる気配を見せようとしないその男は、全身を血で染めあげるという、凄惨な姿をしていた。
しかしその血の殆どは彼自身が流した物ではなく、今しがた浴びたばかりの返り血である。
その返り血の主は、男の目の前で既に屍と化していた。
それは全体的には蜥蜴に似た姿をしてはいたが、桁違いに巨大な生物であった。
おそらく長大な尾を含めれば、その全長はゆうに30mを超えおり、背から生えた蝙蝠のそれに酷似した二対の翼が、更にその姿を巨大に見せた。
そして頭部から突き出た幾本もの角と、まるで影の中にあるかのような暗い皮膚の色が、その生物の持つ邪悪さを物語っている。
それは紛れもなく、この世界において最強の生物と呼ばれる竜の姿であった。
その最強の生物であるはずの竜が、男の目の前で巨体を真っ二つに斬り裂かれ、事切れていたのだ。
本来はありえないことであった。
男はその竜の屍を、ただただ茫然と凝視し続ける。
その全身は恐怖からか、小刻みに震えていた。
それからどれくらいの時間が過ぎたのだろうか。
やがてポツリ、ポツリと雨が降りだし、暫くするとその雨は豪雨へと変わった。
雨は血で紅く染まっていた男の身体を、洗い清めていく。
……が、それは表面的な物に過ぎず、その身に払拭しがたい汚れが染み込んでいることには、男自身もまだ気がついてはいなかった。
そんな男は未だ目の前の現実が信じられぬ様子で、
「こいつを倒すだけの力があるなんて…………!」
と、茫然としたまま、降り注ぐ豪雨の中で延々と座り込んでいた。
大いなる存在、竜――我ら人間には決して太刀打ちできぬ、強大な力を持つ超越者達。
もしも人の身でありながら、竜を倒すという偉業を成し得ることができたのならば、その者は勇者・英雄として後の世まで伝承の中に語られる存在となるだろう。
だが、しかし──。
この金~土曜日はおそらく『斬竜剣』を投稿することはできません。元の更新ペースに戻るのは日曜日くらいからだと思います。
それまでの間、『鬼 -逸話集-』の新作エピソードを投稿するので、そちらをお楽しみください。
https://ncode.syosetu.com/n0980gh/




