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―無限の弾丸―

 ザンは慎重に気弾の動きを目で追う。

 その動きは彼女にとって捉えられないほど速い訳でも、複雑な動きをしている訳でもなかった。

 やはりこの程度ならば、彼女は十分回避できる……はずだった。

 

 ギュンと、気弾が唐突に軌道を変え、一直線にザンへと向かってくる。

 しかしそれは真正面からの攻撃で、どうぞ避けて下さい言わんばかりの攻撃だった。

 ザンはその攻撃を、大きな動作によって十分な間隔をあけて回避することにした。 

 動作をあまり大きくすると隙が生じ安く、必要以上に体力を消耗するなどのデメリットもあるが、この方が気弾の動きに急激な変化があっても対処しやすい。

 

 気弾がザンの右側頭部から、30cmほど離れた空間を通り過ぎていく。

 彼女の回避行動は、十分な余裕を持って成功しているはずだ。

 通り過ぎた気弾には慣性が働いているから、彼女が反応できないほど急激な軌道変更も有り得ないだろう。

 

 ザンは念の為にその動きを目で追い続けた。

 するとどうだろう、確かに気弾は軌道を変えることは無かった。

 しかし気弾は、再び彼女へと一直線に向かってくるではないか。

 

「っなっ!?」


 ザンは驚愕に目を見張った。


 ザンは慌てて回避行動を取り、気弾をやり過ごす。

 だが、それで終わりではない。

 間髪入れずに、次の気弾の攻撃がくるだろう。

 それを(かわ)しても、更に次の攻撃がくる。

 躱しても躱しても、その攻撃は間断なく続き、尽きることはない。

 

 その攻撃の種は簡単だった。

 気弾の攻撃はザンに回避された直後に2つに分裂し、その片割れを彼女目掛けて撃ち出したのだ。

 これならば軌道を変更するよりも速く次の攻撃に移れるし、たとえザンがそれを回避しても、更に分裂してやればいい。

 1つの気弾が2つに、2つの気弾が4つに、4つの気弾が8つに……と、このような具合に分裂を繰り返せば、いつかは確実に彼女が対処しきれない数となる。

 

 勿論、分裂すればそれだけ威力を半減することになるが、ラハブもこの攻撃でザンを仕留めようなどとは思っていないはずだ。

 おそらくこの気弾は、本命の攻撃に繋げる為の布石にしか過ぎない。

 そしてそれは半ば成功している──と、言えるだろう。

 

「ちっ……!」

 

 ザンは小さく舌打ちする。

 彼女の周囲に飛び回っている気弾の数は、高速で飛び回っている所為もあるが、正確にその数を把握することが困難になるほどまでに増えている。

 これらが一斉に襲いかかってきたら、流石にその全てを回避することは不可能だし、回避できたところで気弾の数がこれ以上増えるとしら、更に始末に悪くなるだけだ。

 

 そもそも最早この気弾の対処に手間取っている余裕など、ザンには無かった。

 彼女の周囲の魔力の流れがおかしいのだ。

 「気」と同様に、この世界に満ち溢れている「魔力」は、気が生命力の(みなもと)とされるの対して、魔力は精神力の源とされる──それがこの世界における一般的な常識である。

 そして魔力は、魔法を発動させる為には必要不可欠な力であった。

 

 魔法──つまり術者の任意によって発火、落雷、氷雪、降雨その他諸々の自然現象を強制的に発現させる術であるが、これは多くの場合、自然現象の働きを(つかさど)る精霊やその上位に位置する神や魔などの力を借りて初めて可能となる。

 これら精霊の多くは半ば精神のみの存在で、(ゆえ)に精神活動の源とされる魔力は彼らにとって食料のようなものであり、絶対必須の要素である。

 

 それは彼らがただ存在しているだけならば、自然界に充溢(じゅういつ)している魔力を吸収するだけでも十分だが、魔法といういわば自然界の法則をねじ曲げるような現象を発現させる為には、それなりの量の魔力が必要になる。

 

 そして今、その魔力が大量にラハブへと集中している。

 その魔力量たるや、並の魔法ならば数百回は発動できるほどのレベルだ。

 これだけの魔力を使用して発動させるような魔法攻撃ならば、いかにザンとて直撃を受ければ即死は免れないかもしれない。

 

「貴様っ……!」


『今頃気付いても遅いな。

 いや、まだ術の完成までには間があるが、どの道もう手遅れだよ。

 そもそもまともに身動きもとれまい。

 無駄な足掻きをせずに大人しくしていろ』

 

「くっ……!」

 

 ラハブの言う通り、ザンは今すぐにでもその魔法の発動を阻止しなければ、手遅れとなるだろう。

 だが、彼女の周囲を飛び回る無数の気弾が、その動きを封じているも同然の状況である。

 この気弾の干渉を無視して、ラハブに攻撃を加えることはまず不可能だし、気弾の攻撃を軽く見れば隙が生まれて、ラハブの本命の攻撃を受ける前に思わぬ大ダメージを受けかねない。

 

 そうなってしまえば、結局はザンにとって勝ち目の無い絶望的な状況は、全く変わらないことになってしまう。

 つまり率先してこの気弾をどうにかしなければならないということになるが、ザンに選べる手段はそう多くはない。

 しかもかなり分の悪い賭けとなるかもしれない。


 だがザンとて、持てる力の全てをまだ使い切った訳ではないのだ。

 諦めるのはまだ早すぎた。

 ザンはラハブ目掛けて踏み出した。

 その瞬間、彼女目掛けて気弾の群れが行く手を阻むように襲いかかる。

 

「しっ!」

 

 ザンが短い気合いの吐息とともに、斬撃を放つ。

 明日は定休日、明後日は予定が合ってお休みします。

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