―大破壊―
ブックマーク、ありがとうございました。
ザンの剣と、息攻撃がぶつかり合う。
対象に接触した息攻撃は大爆発を引き起こそうとしたが、実際に爆発するまでには一瞬の間がある。
その間にザンは剣を振り抜いて、その軌道を強引に変えた。
結果、息攻撃は凄まじい速度で、村から少し離れた山に吸い込まれていく。
そして──、
「きゃあああああぁぁぁぁぁーっ!?」
閃光が周囲を染め上げ、更に一拍置いて爆風がザン達の元へも押し寄せてくる。
ハンナは為す術無く地面に投げ出され、何度も何度も転がって、ようやく止まった。
全身を強打したらしく、ハンナの身体のいたるところが痛んだ。
一体何処にどれだけの怪我をしているのかを確認するのは、かなり大変な作業になるだろう。
だが、無事な部分を探すのもまた、大変な作業になりそうだった。
下手をすると無傷のところなんて、1つも無いのかもしれない。
「うっ……くっ」
全身の痛みを堪えながらも起きあがったハンナは、目に入ってきた光景に愕然とする。
(……こ、ここは何処?)
ハンナは一瞬自分が、何処にいるのか分からなかった。
辺りを見回してみても、自宅も村の家々も見当たらない。
確かに周囲は土埃に包まれており、見通しは悪いが、全く遠くが見通せないほどではなかった。
だから建物が近くにあれば見えるはずだが、それが見えないということは、建物が周囲に無いことを示している。
(私……はそんなに遠くまで、吹き飛ばされたのかしら……?)
ハンナはそう思いかけたが、周囲のいたる所に瓦礫が散乱していることに気付いて、そんな甘い希望はすぐに頭から消えた。
彼女がより注意して周囲を見回してみると、土埃の向こうに見覚えのある山を見付けた。
しかしよくよく見てみると、山肌を覆っていたはずの木々が悉く倒れており惨憺たる状態だ。
そしてその隣には山頂部分が跡形もなく消失し、その上空が巨大なキノコ雲に覆われている山を見つける。
おそらく爆心地だ。
それを見てこの村がいかに巨大な破壊の渦に呑み込まれたのかを、ハンナは思い知る。
そこには彼女が慣れ親しんだ故郷の風景が、何1つ残ってはおらず、全てが巨大な力によって理不尽に薙ぎ払われていることを知った。
唯一ザン独りだけが、何事もなかったように佇んでいた。
何故あれだけの破壊を、平然と乗り越えられたのだろうか。
いや、それ以前に彼女は、この大破壊を引き起こした原因であるエネルギーの塊を弾き飛ばしている。
それはある意味、彼女の力がこの破壊を引き起こした物を、上回ることを意味していた。
(化け物……!)
ハンナの背筋に冷たい震えが奔る。
ザンは竜と戦えると言っていた。
倒せるとも──。
それは何か特別な手段があるからなのだと、ハンナは思っていた。
たとえば「竜の弱点を知っている」という具合に、知識さえあれば誰にでも真似ができるような、そんな手段が──。
しかしそれは思い違いだった。
ザンが竜と戦い、そして倒せるのは、彼女もまた竜と同等の化け物だからに他ならない。
目の前にいるのは人間ではない。
彼女も竜と同じ「意志持つ天災」だったのだ。
それを悟った瞬間、ハンナはザンのことを人間扱いできなくなった。
「この……っ!」
ザンの頭部が軽い衝撃に揺れる。
ハンナが石を投げつけたのだ。
しかし、彼女は微動だにしない。
「なんでよっ!?
お父さんを殺さないでって、お願いしたのにっ!
なんで平然と殺せるのよ、この人殺しっ!!
それにこの村の惨状を、どうしてくれるのよ。
建物なんか、何も残っていないじゃない!
一体どれだけ生き残っている人がいるのかも、分からない……。
なんでお父さんだけじゃなく、故郷まで奪われなくちゃならないのよっ!!
あんた達が村に来た所為で、私は全部失っちゃったじゃないのよっ、この化け物っ!!」
ハンナは半ば自暴自棄になっていた。
ザンに対しての暴言――いや、それは殆ど事実であるが、どちらにしろこれらが彼女の逆鱗に触れる可能性は十分にあった。
そしてその力をもってすれば、ハンナの命を奪うことは赤子の手を捻るのと同じくらい容易い作業だろう。
だが、別にそうなるならそれでも構わないと、ハンナは思っていた。
全てを失った自分には、もう生きる意味なんか無いのだと──。
しかしザンは、ただ表情の無い顔のまま静かに佇んでいるだけだ。
そんなザンを、怒りに満ちた視線でハンナは睨み付ける。
それでもザンは、それをまるで痛痒に感じていないかの如く、ただ静かに受け止めていた。
それがハンナの怒りに更なる油を注ぐ。
「なんで平然とした顔で、黙っているのよっ!
私たちがどうなろうが、所詮あなたみたいな化け物には大したことじゃないって言うの!?
それなら全部放っておいてくれれば、良かったのよ!
一体私だけ生き残ってどうしろって言うのよ……。
いっそ私もみんなと一緒に、殺されてた方がマシだったわよ……!」
ハンナはついに嗚咽を漏らし始めた。
そんな彼女の姿をザンは、やはり表情の無い顔で静かに眺めている。
しかしやがて──、
「……ゴ……メンナサイ」
と、小さく呟くように言った。
その言葉は微かに震えていて、今にも泣きそうだった。
それを聞いてハンナはハッとする。




