―生き方―
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私は復讐を誓った。
私は全てを失っていたから、それしか選択肢が見えなかった。
だけどその時の私は、無力な子供でしかなかったし、そんな子供に復讐の為の力を与えようと考える酔狂な大人も周囲にはいなかった。
だから私にできたのは、まず文字の読み書きを覚えることだけだった。
復讐に必要な力を得る為に、まずは知識が必要だったのだ。
「本が読みたい」と、私の面倒を見てくれていた竜人達を騙して読み書きを学び、それから本で戦う為の知識を学んだ。
そのことに5年も時間を費やした。
そして一通りの知識を得た後、私は本格的な力を得る為に山へ入ることにした。
そこで修行をして、復讐する為の力を手に入れるつもりだった。
しかしいざ山での生活を始めてみると、生きる為の食料を得るだけでも困難を極めた。
本から色々な知識を得てはいたけれど、それでも私は何も実践したことのない子供に過ぎなかったからだ。
知識があっても、それを実行して使いこなせるかどうかは、全く別の話だ。
取りあえず私は、木の実などを食べて過ごしていたけれど、それではなかなか空腹は満たされなかった。
だけど動物を狩ったりするのも、なんとなく嫌だった。
私が欲しいのは仇の命であって、憎くもない動物の命ではないのだ。
だから私は、徐々に飢えていった。
そんなある日、私は仔ウサギを拾った。
親を肉食獣にやられたのか、それとも単にはぐれただけなのかはよく分からないけれど、その子1匹だけが森の中をヒョコヒョコとうろついていた。
まだ敵を警戒することもよく分かっていないようで、このままでは遠からず肉食獣に捕らえられて命を落としてしまうだろう小さな命だった。
私はそのウサギを育てることにした。
それは親のいないその子と自分の姿を重ねて見て、同情してしまったからなのかもしれない。
それにかつての私の友達は、このウサギのように森の動物達ばかりであったことを思いだしていた。
私にはかつて暮らしていた里で、人の友達と遊んだという記憶が無い。
どちらかといえば、いつも苛められてばかりいた。
そしてそれは子供に限ったことではなく、大人達も私のことを疎んじていた。
里では私と母様は、違う種族の血を引く異分子としてしか見られていなかったからだ。
その所為で私にとって友達といえば、家で飼っていた家畜や、森の中で出会う動物達だけだった。
里の中で迫害を受けていた私にとっては、両親とこれらの動物達だけが心の支えだったのだ。
そのことを思い出して、私はウサギとの触れ合いの中に安らぎを感じていた。
しかしそれと同時に、激しい苛立ちを感じることもあった。
私は復讐を望んでいるのに、ウサギと触れ合っている時には、それを忘れてしまうことがあったのだ。
全てを失った私の悲しみと怒りと憎しみは、そんなに軽い物だったのかと愕然とする。
いや、そんなはずは無い。
今の私には復讐こそが全てなのだ――私は自分にそう言い聞かせた。
それでも私はウサギとの生活の中で、復讐を忘れることがあった。
そして決まってその後で、決意を鈍らせた自分を激しく責めたてるのだ。
ウサギを拾ってから半月ほどが経って、私はこのままウサギと一緒にいるのは、良くないと感じ始めていた。
しかし幼いウサギにはまだ、自身の力で生きていけるだけの能力は無い。
私の庇護がなければ、すぐに死んでしまうだろう。
そう思うと、ウサギを手放すことはできなかった。
そして更に苛立ちは募っていった。
ある時、ウサギが私に擦り寄って来た。
私のことを親のように、思っているのだろうか。
そう思うと可愛くもあるが、同時に私にはこのウサギのように甘えられる相手はもういない。
そのことを思い出し、私を憂鬱とさせる。
そんな人の気も知らずに擦り寄ってくるウサギを見ていると、苛立ちを感じて仕方が無かった。
それに思うように食料を得ることができなくて飢えつつあった私は、少し心の余裕を失っていた。
私はウサギを遠ざけようとしたが、ウサギはいくら言っても言うことを聞いてくれず、押しのけたりしても私から離れようとしなかった。
だからついカッとなった私は、乱暴にウサギを振り払ってしまった。
……そして、ウサギは動かなくなってしまったのだ。
私は最初、何が起こったのか理解できなかった。
慌ててウサギを抱き上げてみたが、ウサギは口から血を流しており、ピクリとも動かなかった。
私はウサギを殺してしまったのだということを、かなり時間をかけて理解した。
殺すつもりなんか全く無かった。
ただ、軽く振り払っただけのつもりだった。
でも、ウサギは死んでしまった。
私は自分が普通ではないことを、この時初めて知った。
自分の身体の中に、これほど簡単に命が奪えるだけの力があるなんて、今まで全く知らずにいたのだ。
でもこれこそが、復讐の為に欲していた力だった。
この身の内に眠っているはずの力をより多く引き出す為に、私は修行を始めたのだ。
しかしこんなにも制御がままならないような力だとは、思いもよらなかった。
私はなんだか怖くなった。
意図してなかったとはいえ、ほぼ初めて他者の命を奪ってしまったのだ。
しかも自分を頼ってくれていた、か弱いウサギを──。
これではただの殺戮者ではないか。
私がなりたいのは復讐者であって、そんなものではない。
私は言い訳を求めた。
自分が犯してしまった罪への罪悪感を和らげる為の、言い訳を求めた。
そしてその結果、私はウサギの遺体を焚き火の中に放り込み、焼いて食べることにした。
食べる為に命を奪うことは、自然界の中では当たり前のことだ。
これは生きる為なのだ。
何の罪の意識も感じる必要もない。
丁度腹だって空いている。
それに私は、これから復讐をなそうしているのだ。
何百という敵の命を、絶たなければならないのだ。
それなのに、たかがウサギ1匹の命を奪ったことに後悔してどうする。
そう自分に言い聞かせた。
私は程良く焼けた兎の肉を、私は必死の思いで食べた。
久し振り食べた肉なのに、味なんか全く感じなかった。
なんだか無性に悲しかったけれど、私は泣けなかった。
それどころか、表情1つ変えられなかった。
両親が死んで以来、私の顔はずっとこうだ。
悲しくても嬉しくても表情を変えることができず、涙を流したりすることもできない。
ああ、やっぱり私は何処か壊れているんだな……と、前々から分かり切っていたことを、私は再確認した。
だが、それでもいいと思った。
私は復讐する為だけの兵器になる。
竜を斬り裂く為だけの、剣になるのだ。
余計な物なんていらない。
弱さなんかいらない。
その為に過去の無力な自分を捨てる決意をし、本当の名前すらも捨てたのだから──。
私はそう吹っ切ることにした。
以後私は、獣を狩って食料を得ることができるようになった。
それまでは命を奪うことに、何処か躊躇いがあったけれど、その躊躇いを捨てて冷徹に獲物を狩れるようになったのだ。
そんな自分が、以前よりもずっと強くなれたように感じた。
この調子で復讐を遂行していけば、いいのだと思っていた。
ただ……ウサギだけは、何故か二度と殺すことができなくなっていた。




