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―忍び寄る絶望―

 ブックマーク、ありがとうございました。

 ザンが持っている情報は、ハンナにとって悪いものであるようだった。


 確かにハンナの父と、ブランカの町の住人が消えたことに関連性があるのだとしたら、ブランカの住人達の末路は、そのまま彼女の父の末路を示している可能性が高い。

 そしておそらくザンは、ブランカの住人達の末路を知っている。

 それを聞くことは、ある意味父の死に様を聞くことにも等しいのかもしれないのだ。

 

 だが――、

 

「……いいわ。

 このままじゃ何も決着しないし……。

 詳しく聞かせてくれるかしら?」

 

 ハンナは父が死んだとは思いたくなかった。

 しかし何の根拠も無いのに、その生存をいつまでも信じ続けることは苦しいことだ。

 このままでは信じることも諦めることもできず、いつまでも中途半端なままなのだから。

 それにザンの言葉を信じたくないのならば、信じないという選択も彼女には残されている。

 ならば話を聞くだけ聞くのも、悪くはない。

 

「…………」

 

 ハンナの言葉を受けてザンは、暫し何かを考えているかのような素振りを見せたが、やがて彼女は小さく頷いた。

 そんな彼女の様子は、まるで覚悟を決めようとしているようにも見える。

 そう、ハンナに父の死を告げる覚悟を──。

 

「……たぶん、町の人間はもう生きてはいない。

 町の中には、大量の血痕があったから……」

 

「!!」

 

 ザンの言葉は簡潔だったが、だからこそ確かな真実の響きが含まれているように、カミユとハンナには感じられた。

 だが、それだけでは納得はできない。

 いや、納得したくはない。

 そんな恐ろしい事実など──。

 

「け、血痕って、町のみんなが何者かに襲われたってことなの? 

 何らかの理由で住人が、町を放棄したとかいうことじゃなくて?」

 

「そうだ。

 襲われた」

 

「で、でも、住人が怪我をして、町の外に避難しているだけなんて可能性もあるんじゃないのか!? 

 遺体を見た訳じゃないんだろう!? 

 生きていないなんて断定するのは、早すぎるんじゃ……」

 

「……あの血液の量は、確実に100人単位で死んでいる。

 しかし何処かに遺体が葬られたような跡も無いし、それだけの数の遺体を担いで別の土地に移動するなんてことも不可能だ」

 

「でも、遺体が無いのなら、やっぱり生きているんじゃないのかしら……」

 

 小さな希望にすがるようなハンナの言葉に、ザンはまた一瞬沈黙したが、やがて思い切ったように口を開いた。

 

「遺体は……たぶん喰われたから、残らなかった……」

 

「!?」

 

 ザンの言葉は、あまりにも衝撃的だった。

 カミユとハンナは、思わず椅子から腰を浮かしかける。

 

「く、喰われた!? 

 1000人以上の人間が!? 

 一体何百匹の猛獣が、町を襲ったって言うんだ!?」

 

「何百匹もいる訳じゃない。

 間違いなく1匹だけだろう」

 

「何を言っているんだ君はっ!? 

 たった1匹の(けもの)が、1000人以上の人間を!? 

 性質(たち)の悪い冗談は、やめてくれっ!」

 

 カミユは激昂しかけた。

 冗談が許されるのは、時と場合による。

 それに言って良いことと、悪いこともある。

 ザンの発言は、明らかに悪い方の部類に入る物だ。

 それが、本当に冗談ならば──。

 

「冗談ではない……。

 それに確かに獣では無理だし、魔物でさえも普通は不可能だろう。

 だけど可能な奴がいる」

 

「な……!」

 

 ザンの言葉に、カミユもハンナも凍りついた。

 彼女の言葉通り、普通の獣なら1度に襲える人間の数などたかが知れている。

 精々1人か2人が限界だろう。

 

 しかし、魔物なら話は少し違ってくる。

 魔物とは通常の生態系に属していない生物であり、その大元は異世界からこの世界に移り住んで来た生物であったり、魔法によって人工的に生み出されたものが自然繁殖した物であったりと様々だ。

 

 それだけに魔物の中には、自然界における生物の常識をはるかに超越している者も珍しくはなかった。

 たとえば、常識外れの巨体を持っている者。

 頭が2つあるなど、身体のパーツが重複して生えている者。

 あるいは全く種の違う生物のパーツが、いくつも組み合わさっている者。

 口腔から炎などを吐ける者。

 人間以上の知性を誇っている者。

 身体が金属や液体、あまつさえ気体でできている者……等々と、一言で言ってしまえばまさしく生物的に「デタラメ」である。

 

 そして、そのデタラメさ加減は、敵対した相手にとってこの上ない脅威となり得る。

 おそらく大抵の魔物が、人間にはまず対抗できないほど巨大な戦闘能力を有しているはずだ。

 少なくとも1対1で戦って勝てる一般人は、まずいないだろう。

 

 もしも魔物に勝てる人間がいるのだとすれば、それは歴史に名を残すような豪傑やら英雄やらがそうなのではなかろうか。

 しかしそんな人間は1つの国において、数十年に数人生まれるかどうか──というレベルで希少だ。

 だから普通の町では魔物に対する対抗策など持ち合わせておらず、たった1匹の魔物の襲撃によって、数十人単位で犠牲が生じることも有り得ない話ではない。

 

 だがそんな魔物でも、短期間で1つの町を食い尽くすような真似は殆どできない。

 ……そう、全く不可能という訳でもないのだ。

 ただ、人々はそのようなことができる存在を、魔物とは呼ばない。

 人はそれを――、

 

「な……なあ、ちょっと待ってくれよ……。

 まさかそういうことなのか? 

 い、いや……そんなこと無いよな……?」

 

 カミユは動揺と緊張のあまり、かすれた声でザンに問う。

 ハンナはただ震えながら、ザンの次なる言葉を待っていた。

 「そんなこと無いよな……?」そんな彼の言葉を肯定する言葉を。

 

 しかし、無情にもザンが肯定したのは――、

 

「その……まさかだな」

 

「──(ドラゴン)が!?」

 

 人はそれを竜と呼び、竜はこの世界において「神」を意味するにも等しかった。

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