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―ハンナ―

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「何、カミユ? 

 村には行かないって、さっき言ったでしょ」

 

 カミユが目的の家の玄関をノックして呼び掛けたところ、返ってきたのはそんな不機嫌そうな声だった。

 それはまだ若く、おそらくはカミユが言う幼馴染みハンナのものなのだろう。

 

「あ~、それは考え直して欲しいのだけどなぁ。

 若い娘がこんな村はずれの一軒家に、(ひと)りでいるのは危ないよ。

 それにどうやら事件は、君のお父さん達が消えただけでは済まない事態になってきたみたいだ。

 せめて状況が落ち着くまでは、村のみんなと一緒にいた方がいい」

 

 カミユがそう答えると、少し間を置いて玄関の扉が開いた。

 

「私はここを離れるつもりは無いわよ。

 もしもお父さんが帰ってきたら、ここで出迎えてあげたいから……。

 そう何度も言っているじゃない。

 

 それよりも……今のあなたの口ぶりだと、何か新しい情報が入ったみたいね?」

 

 扉の奥から出てきたのは、ハンナという地味目な名前のイメージを裏切った容貌をした女性であった。

 身長こそザンよりも10cm近く低いようだが、そのプロポーションはザンに負けてはいない。

 いや、ある部分においては、完全に圧勝していると言ってもいい。

 特に胸部が。


 ザンは胸当てをしているので、その正確なサイズはよく分からないが、それでもハンナのそれとは文字通り大人と子供くらいの差がありそうだった。

 また、肩の辺りまで伸びた(つや)やかな漆黒の黒髪は、ザンには無い女性らしい優雅さを(ただよ)わせている。

 まあ、若干勝ち気そうな顔立ちをしてはいるが、全体的に見れば母性的な雰囲気をハンナは持っていた。

 

(…………)

 

 ザンの表情が、ちょっとだけしかめられた。

 おそらく本人さえも自覚のないほどの微細な変化ではあるが、どちらかといえば少年のような体型をしている彼女が、ハンナに対して若干の嫉妬心や劣等感を抱いたとしても何ら不思議ではないだろう。

 

「あら……そちらは?」

 

 ザンの存在に気付いたハンナは、(いぶか)しげな視線を彼女へと向けた。

 初対面の人間に対して少々無礼な態度かもしれないが、このような辺境の村に余所者が訪れることは滅多に無い。

 警戒してしまうのはむしろ当然のことだし、ザンの(あや)しげとも言える風貌がそれに拍車をかけている。

 

「ああ……このザンさんが、新しい情報を持っているみたいだ。

 それと、いなくなったお父さんについて、君に聞きたいことがあるらしい」

 

「え……何? 

 ザンって、芸名か何か?」

 

「……なるほど。

 幼馴染みは感性も似るとみえる……。

 言うことが同じだ」

 

 カミユと同じような疑問を口にするハンナに、ザンは少し不満げな表情を浮かべた。

 

(いやぁ……幼馴染み云々を抜きにしても、普通はそう思うだろう……)

 

 カミユは内心でそう突っ込みながらも、今はそれを論じている場合ではないので、ハンナに話を進めるように促した。


「そんなことより中に入っていいかな? 

 色々と話し合わなきゃいけないようだから」

 

「え、ええ、そうね。

 家にあがってちょうだい。

 今、お茶をいれるから」

 

 それから家の中に通されたザンとカミユは、居間のテーブルの席に着き、その後は暫しの静寂で室内が満たされた。

 ザンは出された紅茶を、しきりに飲み続けている。

 しかし猫舌なのか、舐めるようにちびちびと飲んでいるので、なかなかカップは(から)にならなかった。

 

 どうやら自分から話題を切り出すタイミングが掴めず、間が保たないのでそうしているようである。

 やはり会話をすることが苦手らしい。

 

 しかし、お茶をいれ終えたハンナも席に着き、話し合いをする準備は整った。

 このまま話の主導権をザンに任せていても埒が明きそうにないので、カミユが話を切り出した。

 

「え~と、君はブランカの町の住人が、全員消えたのを確認したと言っていたよね……?

 それは一体どういう状況だったのかな?」

 

「ブランカの住人が!?」

 

 カミユの言葉に、ハンナが驚きの声を上げた。

 確かについ先程も、


「ブランカの町から人が来ない。

 何かで異変があったかもしれない」


 という情報をカミユから聞いてはいた。

 そして念の為に、村へと避難するように説得されてもいた。

 

 しかしハンナは、それをさほど深刻なものとは捉えてはいなかった。

 もしかしたら山賊が現れて、街道を通る人達を襲っているのかもしれない──それくらいのことまでなら考えてはいたが、彼女にとってそれは、父親が行方不明になったことよりも深刻なものとして扱うような問題ではなかった。

 

 ところがだ、1000人以上もの町の住人が全て消えたのが事実なのだとしたら、それはこの村にとって──いや、近隣諸国にとってさえも未曾有の大事件となるだろう。

 ハンナは事態がそれほど切迫しているとは、思いもよらなかった。

 しかも――、

 

「……!」

 

 ハンナは自身を見つめているザンの視線に気が付いて、顔を強張らせた。

 そしてザンは、

 

「……お父さんが行方不明になったことと、関係があるかもしれないけれど、正直、希望の持てるような情報じゃない」

 

 と、躊躇(ためら)いがちに言った。

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