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―墜ちてくる災い―

 今回もまだプロローグっぽいです。

 先の大戦から既に、130年余りの月日が過ぎ去ろうとしていた。

 

 130年──言葉にすれば一言ではあるが、人の身ではまず辿り着くことの叶わない時間(とき)の果てである。

 決して辿り着けないのであれば、それは無限にも等しい(へだ)たりだと言えた。

 

 だが、人々の中にはその無限にも等しい期間を、「短かった」と嘆く者も少なくない。

 膨大な時間をもってしてなお、世界は先の大戦の爪痕から完全なる復興を遂げていないからだ。

 だからこそ人々は、かつての繁栄をその手に取り戻す為に足掻き、しかしそれが叶わずに「まだ時間が足りぬ」と(なげ)くのである。

 そう、かつて人々が築き上げた文明は、根底から崩壊したが(ゆえ)に。


 


 暗い夜の空──月明かりを(さえぎ)る雲間から、何かが()ちてくる。

 それは全体が影のよう暗く、夜の闇に溶け込んでいた。

 だからその様子を見ていた者がいたとしても、遠目にはそれが何なのか判別することはできなかっただろう。

 

 ただ、それが桁外れに巨大な物体だということだけは、誰の目にも一目瞭然だった。

 その全長にしておよそ30m弱。

 それほどまでに巨大な物体が、高度数千mの高みから落下して来る。

 本来ならば、決して有り得ないような現象であった。

 しかし驚愕すべきことは、それだけにとどまらない。

 

 オオ……ンと、落下してくる物体は、迫り来る大地に脅えるかのように吠えたのだ。

 そう、それは信じがたいことに、生物であった。

 無論生物ならば、その落下の勢いで地面に激突すれば、生命はおろかその肉体の原形すらも維持できないだろう。

 ……しかし──、

 

 次の瞬間、落雷を思わせる凄まじい轟音とともに、多量の土砂が空に舞い上がった。

 言うまでもなく、空から降ってきた存在が地面に激突したことによるものであったが──、

 

 モソリ……と、土煙の向こうで何かが(うごめ)いた。

 普通の生物ならば確実に落命しているはずの衝撃を受けてなお、その存在は未だ生き続けていた。

 そして暫くの間、その存在は悶え苦しむように蠢いていたが、やがて何者の動きも確認することはできなくなった。

 

 墜落のダメージによって力尽きたのだろうか? 

 (いや)、不思議なことに土煙が晴れたそこには、何者の(しかばね)も見あたらない。

 ただ、何かが衝突して、大きく陥没した地面だけがそこにある。


     


「空間転移した……。

 逃げられたな……。

 気負い過ぎるからこうなるんだよ、お前は。

 まあ、気持ちは分からんでもないがな」

 

「……うるさい」

 

 呆れ果てたような若い男の声が、陥没した地面の底から聞こえる。

 それに対して、冷淡な響きの声──おそらくは十代半ばの少女の声が、上の方から返ってくる。

 

(くみ)しやすい相手ではないことは確かだが……。

 それでも冷静に対処すれば、こんな結果にはならなかっただろうに……」

 

「……うるさい」

 

 溜め息混じりの男の声に答える少女の声は、再び同じように冷淡な言葉を繰り返す。

 

「だが、仕留めきれなかった所為で、また人が沢山死ぬぞ。

 おそらくは数日中に、数百人単位でな……。

 それどころか、このまま逃げ切られたら万単位に達するかもな……」

 

「…………」

 

 男の言葉に、今度は少女も無言となった。

 少女はそのまま暫し沈黙してから、

 

「……その前に片付ければいい。

 もう()がしはしない」

 

 そう答える少女の声は、少しだけ震えていた。

 しかしそれは強い決意によるものか、はたまた(おび)えによるものか、それは定かではない。

 ただ、心中の焦りを表すかのように、陥没した地面の側から足音が足早に遠ざかっていく。

 

「あ、おいっ、勝手に(ひと)りで行くなって!」

 

 慌てたような男の声が少女の足音を追いかけていく。

 しかし不思議なことに、あって然るべき男の足音は、ついぞ聞こえてくることはなかった。

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