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―噛み締める記憶―
今回から0章です。
今回はプロローグ的なポエムなので短いです。
私は……物心が付いた頃のことを、よく憶えている。
その頃の私は幸せだった。
それは他人から見ればささやかすぎて、不幸とすら映ったかもしれないけれど、私にとってかけがえの無い幸せな時間だった。
私はこの幸せが、遠い未来まで続くと無邪気に信じていた。
だけど……その幸せは唐突に終わりを告げ、全てが理不尽に奪い去られた。
……そのあとにはただ──私だけが取り残されている。
抜け殻のようになった、私独りだけが取り残されている。
私に残されていたのは、辛うじて繋いだ生命と、幸福だった頃の記憶と、
そして──。
……私は幸せだった頃の記憶を振り返る。
私がどれだけ大きな物を失ったのかを、確認する為に。
すると私の心は満たされた。
溢れんばかりの想いで満たされた。
怒りと、悲しみと、憎しみと、絶望で私は満たされた。
私は……これを糧にまた戦う。
私は……これだけを糧に戦い続ける。
未来も果ても無い、この復讐の戦い──。
それこそが、私に残された唯一の道なのだから。




