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―嫉妬する姉―

 ブックマークをありがとうございました。

 フラウヒルデとサデュムは親密度を少しずつ深めていたが、そんな2人のコミュニケーションを、(こころよ)く思わぬ者がいた。


 それは(ひと)り蚊帳の外のエデンである。

 彼女にとって、母親の胎内で常に一緒にいた弟は一心同体のようなものであり、その弟が自身を無視して他の者に意識を向けていることが気に入らないようだった。

 そこで――、

 

「うにゃ?」

 

 エデンは側で眠っていた子竜のファーブの尻尾を鷲掴みにし、それを片手で振り上げて連接棍棒(フレイル)の如くサデュムの背へと叩きつけた。

 その筋力・凶暴さともに、生後半年にも満たない乳幼児の物とはとても思えないほどである。

 

 それはともかく、当然サデュムは「ふにゃあぁぁぁぁぁぁ~」と大声で泣きを始める訳だが、フラウヒルデはオロオロとするばかりであった。

 乳幼児の扱い方が全く分からないのだ。

 こんなことがこの3日間、幾度と無く繰り返されていた。

 よく飽きもせずに──と、呆れるほどに。


 ちなみにファーブは頭でも打ったのか、完全に気を失っていた。

 もしかしたら先程も、眠っていたのではなく、気絶していたのかもしれない。

 

「ああ、ほらほら、泣く泣くな」

 

 リザンはフラウヒルデを押し退()けてサデュムを抱き上げ、そして優しくあやす。

 するとサデュムは、徐々に大人しくなっていった。

 

「なかなか堂に入ったものですなぁ」

 

 フラウヒルデは感心したように唸った。

 が、リザンは半眼で彼女を睨む。

 

「誰の所為だと思っているんだよ。

 なんかフラウヒルデがいると、エデンの機嫌が悪いんだよなぁ。

 おかげですぐサデュムを泣かすし、必然的にあやす回数も増えるから、ここ3日であやし技術(スキル)のレベルがあがったぞ?」

 

「私の所為ですか!? 

 どう考えても、悪いのはエデンでしょう」

 

 そんなフラウヒルデの言葉に反応したかのように、エデンは彼女へジロリと鋭い視線を送っていた。

 その視線を睨み返しつつ、フラウヒルデは、

 

「むむぅ……なんだかこの娘とは、将来好敵手になるような気がしますぞ……」

 

 と、真剣な面持(おもも)ちで唸った。

 

「何を赤ん坊と張り合ってるんだよ、あんたは……」

 

 リザンは呆れたように溜め息を吐いたが、将来サデュムと恋仲になったフラウヒルデと、小姑と化したエデンが対立することになろうとは、この時の彼女は夢にも思わなかった。

 

「とにかく今日はもう帰れよ。

 ほら、これをあげるからさ」

 

 と、リザンは出産祝いに貰った菓子折りを、フラウヒルデに手渡した。

 しかもそれは、よく見てみると元々フラウヒルデが贈った煎餅(せんべい)の詰め合わせであった。

 

「ええっ! 

 そ、そんなに迷惑ですか!?」

 

「いや……迷惑だけど。

 って、何でそんなに驚いてるの?」

 

 驚愕──まさにそのような表情を浮かべているフラウヒルデの様子に、リザンは(いぶか)しむ。

 

「いえ、だって、食い意地のはった従姉殿が食物を手放すなんて、よっぽどのことではないですか! 

 それこそ天変地異の前触れでは!?」

 

「……ルーフに作ってもらった方が美味しいから、惜しくないだけなんだが……。

 そろそろ本気で怒るよ?」

 

「わ、分かりましたよ……。

 帰りますよ……」

 

 リザンのこめかみに青筋が浮いたのを見て、フラウヒルデは慌てて帰り支度を始めた。


「ああ、ついでにコレ(・・)も持って帰ってくれな」

 

 と、リザンは近くに転がっていたラーソエルを猫のようにつまみ上げて、フラウヒルデへと投げ渡した

 彼はフラウヒルデと同様に遊びに来て、ここ数日はこの家に入り(びた)っていた。

 現在遊び疲れて眠っている……ように見えるが、実はうるさいのでリザンに手刀を喰らわされて強制的に眠らされていたのだ。

 

「ああ、はい。

 ではサデュム。また明日な」

 

 と、フラウヒルデは、笑顔でサデュムに別れを告げた。

 それに応えるようにサデュムが笑い返し、それを見たエデンが再びファーブの尻尾を──、

 

「ああヤメヤメっ! 

 これ以上やったら、ファーブが死んじゃうっ!!」

 

 リザンは慌ててエデンを抱き上げて止める。

 

「まったく、誰に似たんだ、この子は……?」

 

 リザンは嘆息するが、おそらく彼女を知る10人中10人が「あんたにだ」と答えるだろう。

 事実、フラウヒルデの顔は、言外にそう語っている。

 

「では、従姉殿、明日もまた来ますので」

 

「日付が変わった直後とかに来たら、殴るからね?」

 

 リザンのそんな言葉と鋭い視線を受けて、フラウヒルデは引き()った笑みを浮かべながら去っていった。

 さすがに日付が変わった直後は無いにしても、日の出と同時に──ということくらいは考えていたのかもしれない。

 取りあえず釘を刺しておいたから、早朝は避けてくれるであろうことを期待したい。

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