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―復 興―

 ティアマットが引き起こした第二次邪竜大戦から、数年が過ぎた。

 

 アースガルの住民達は焦土と化した故郷を離れ、まだ無事だったタイタロス皇国領内の土地へと移住し、徐々にかつての故郷に勝るとも劣らない町並みを築きつつある。

 いやそれは、アースガルの住民達の力だけではなく、同じように故郷を失ったタイタロスの人々とも手を取り合い、支え合ってきた成果であった。

 

 勿論まだ全てが元通りになった訳ではないが──むしろ、もう二度と元に戻らぬものも少なくはないが、それでもかつて世界を覆った大災厄の影は、人々の間から薄れつつあった。

 

 そんな小さいながらも平和な町並みの中に、他の家々より一際大きな屋敷がある。

 その屋敷の敷地内に、本邸からやや離れて平屋建ての家が建てられいた。

 その家の玄関先には、遠い東方の国の服に身を包んだ1人の少女の姿がある。

 

 いや、背が低い所為でそう見えるだけで、彼女は少女と呼べるような年齢ではない。

 しかしその身長のみならず、少し広めに露出したおでこと、気の強さと言うよりは大らかさが表れた太めの眉、そして大きな青い瞳──これらは嫌がおうにも、彼女の幼さを強調しているように見えた。

 

 だが、それでも彼女が醸し出している雰囲気は、落ち着きのある大人びたものである。

 かつての彼女に見え隠れしていた、自身の居場所を見つけられずにオドオドとしているような印象はなりを潜め、堂々とした風格のようなものが備わりつつあった。

 

 まあ、それも当然のことで、荒廃した国を復興させる為の偉大な事業に従事している者が、いつまでも頼りないままではいられないのだから──。

 

「それでは慌ただしくて申し訳ありませんが、本日はこの辺でお(いとま)させていただきます。

 また時間を見つけて、ゆっくりと遊びに来ますね」

 

 彼女メリジューヌ・タイタロスは、ぺこりと礼儀正しく頭を下げる。

 

「うん、ホント名残惜しいけど、仕方が無いよね。

 メリジューヌも今や、皇王様代理なんだものなぁ」

 

 と、メリジューヌを見送りに玄関先まで出てきたのは、20歳(ハタチ)ほどの外見をした女性であった。

 腰まで伸ばした長い銀髪と、ルビーのような紅い瞳が人目を引く。

 だが、それ以外はどこにでもいる、普通の女性だった。

 

 かつて、「斬竜剣士ザン」の名で、竜との戦いに明け暮れていた戦士の面影は、もう彼女――リザンには(ほとん)ど見られなかった。

 

「いえ、皇王代理とは言っても、名前だけのようなものですし……」

 

「ああ……実質的には、叔母様が裏で暗躍しているんだっけ」

 

 と、リザンは何処となく、口元が引き()ったような笑みを浮かべた。

 確かに新生アースガルの町やタイタロスの国土の復興は、シグルーンの尽力があってこそだ。

 その力抜きでは、今現在の落ち着きのある人々の(いとな)みが実現できるようになるまでには、まだ数年の時を要していたかもしれない。

 

 しかしシグルーンは少々強引というか、通常では不可能なことを無理矢理通してしまうことがあるので、おそらく沢山の人間に迷惑をかけていることも間違いない。

 特に義兄にあたるクラサハード王国・国王のアルベルトには、かなりの量の救援物資を要求したらしい。

 クラサハードとて数年前の戦いで全く被害を受けていなかった訳ではなく、決して財政状況に余裕など無かったはずだが、それでもシグルーンは救援物資を供出させたのである。

 

 これらが後々になって、なんらかの問題に繋がらないと言う保証は何処にもなかった。

 しかしだからこそ、それらの諸問題をフォローする為に、メリジューヌは忙殺されている。

 これからの更なる国の復興、近隣諸国との関係など、問題は山積していた。

 

「ええ……まるで止まることを知らないかのように、働いています。

 私だけこうして休んでいるのは、少々気が引けるほどに」

 

「でも、たまに休んだ方がいいって。

 あんたは叔母様みたいに、遊び半分でやっているんじゃないんだからさぁ。

 根をつめて身体を壊したら、元も子もないし」

 

「ええ」

 

 リザンの言葉にメリジューヌは微笑んだ。

 今日はほんの少しの時間を見つけて、新しい家族(・・・・・)の顔を見に来たメリジューヌであるが、これからまた、多忙な日々が続くだろう。

 だが、そんな彼女以上にシグルーンは、(せわ)しなく動き回っている。

 

 たとえそれがシグルーンにとって、趣味の一環であったとしても、その貢献の度合いを考えればメリジューヌも贅沢は言っていられない。

 それに、シグルーンは今やメリジューヌにとっての母にも等しい。

 その母の手助けができるのならば──いや、むしろ手助けしてもらっているのは彼女の方なのだ。

 だから、多少の苦労があろうとも、それは望むところである。

 

「取りあえず今日は、子供達の元気な顔を見ることができただけで充分ですわ。

 沢山の元気を分けていただきましたから、当分休む必要はありません」

 

「そうか? 

 私は逆に、元気を吸い取られているような気がするけどなぁ。

 やっぱり毎日相手にしているのは、大変だよ。

 まあ、だからこそ前よりも、母様達の偉大さは実感できるけどね」

 

「はい、そうですわね」

 

 早くに母親を亡くしている2人は、微笑みを交わし合った。

 

「ああ……ついつい長話をしてしまいましたね。

 馬車にシンを待たせておりますし、そろそろお暇しますね」

 

「ああ、元気でな。

 それと叔母様に会ったら、よろしく言っておいてくれ」

 

「はい、リザン様もお元気で」

 

 そしてメリジューヌは、再び深々と頭をさげて帰路に就いた。

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