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―総攻撃―

 蒼天の空を、幾筋もの光の線が貫いた。

 いや、埋め尽くしたと言った方が、より事実を正しく言い表しているかもしれない。

 数百、あるいは1000をも超えるかもしれない膨大な数の光が、流星のように尾を引きながら(はし)る。

 

 竜族の一斉攻撃が、ティアマットに集中していた。

 しかしそれも彼女の強力な結界に阻まれ、なんの効果も現さない。

 だがそれでも構わない。

 要は攻撃の準備が整うまでの、時間稼ぎにさえなればいいのだ。

 

 そう、これは攻撃ではあるが、その実態は防御であった。

 ティアマットが攻勢に転じる猶予を与えてしまえば、竜族の群れは一瞬にして壊滅状態に追い込まれかねない。

 だからティアマットが防御に徹せざるを得ないように、間断無き攻撃を竜族は繰り返していた。

 

 そして竜族にとっての本当の攻撃は、今1人の少女の手に託されている。

 空を飛翔する三首(みつくび)闇竜(ダークネスドラゴン)──アジ・ダハーカの背の上で、フラウヒルデは膨大な量の闘気を練り上げていた。

 その闘気に呼応して、彼女が右手に(たずさ)える光烈武剣は(まばゆ)い光を放ち、左手に携える焔天(えんてん)は激しい炎を吹き上げている。

 

「参る! 殴輝刃(おうきじん)っ!」

 

 フラウヒルデの光烈武剣から、砲弾の如き勢いで撃ち放たれた光の塊は、ティアマットの結界を殴りつけるかのように炸裂した。

 凄まじい閃光と共に、衝撃波が大気を揺るがす。

 しかしそれでもティアマットが張った結界は、(わず)かに歪んだだけだ。

 

 だが、フラウヒルデの攻撃とて、これで終わった訳ではない。

 彼女は左手の焔天の切っ先を天に向けて掲げた。

 するとその刃にまとわりつくかのように、燃え盛っていた炎が切っ先の一点に集まり、徐々に巨大な火球を形成してゆく。

 それはまるで、太陽が間近に降りてきたかのような熱と輝きを放っている。

 

火具槌(かぐつち)っ!」

 

 フラウヒルデが勢い良く焔天を振り下ろすと、火球もまたティアマット目掛けて突き進み、彼女を覆う結界にめり込んだ。

 完全ではないにしろ、明らかに結界の一部を破壊している。

 そして次の瞬間には、(わず)かに開いた結界の裂け目から炎が流れ込み、彼女を包み込む。

 しかし──、

 

「……!!」

 

 ティアマットを包み込んでいたはずの炎が、瞬く間に消え失せてゆく。

 いや、それは消えているのではなく──、

 

「飲み込んでいる……!!」

 

 フラウヒルデは呻いた。

 こともあろうにティアマットは、フラウヒルデが放った炎の攻撃を水をすするが如く飲み込んでいたのだ。

 それを行っているのが、5つあるティアマットの頭部の内の1つである。

 

「あれは200年前に見た竜と、似ているわね……。

 きっとリザンちゃんが倒したという、四天王ヴリトラ……。

 そのヴリトラの炎を操る能力を、あの首も持っているんだわ……。

 他にもリヴァイアサンに似た首もあるから、四天王それぞれの能力を持っていることは間違いない。

 となると、彼らが持つ地水火風の属性の攻撃は殆どが効かないってことになるわ……」

 

 フラウヒルデの背後に控えていたシグルーンは、息を呑んだ。

 この世に存在するあらゆる物質と現象の殆どは、四大元素「地・水・火・風」という4つの属性のいずれか、あるいはその複合によって構築されている。

 つまり、地水火風の4つの属性を自在に操れるであろうティアマットに対しては、4属性の働きによって威力を発揮する武器や魔法はことごとく無効化されてしまうかもしれないということだ。

 

 無論、四大属性以外にも、これらと性質が異なる属性は存在する。

 たとえば、フラウヒルデが手にする光烈武剣が有する「光」、あるいはその対極に位置する「闇」などがそうだ。

 それらはティアマットに対して、少なからず有効な攻撃手段となるだろうが、いずれにせよ有効な攻撃手段が酷く限定されることになるのは間違いなかった。

 

「ならば純粋な力で、叩き斬れば良いだけのことっ!」

 

 だがフラウヒルデは(ひる)むことなく、すぐさま膨大な闘気を込めた斬撃をティアマット目掛けて撃ち放った。

 それは単純な衝撃波による攻撃であったが、魔法によって風の精霊に力を借りて生み出したものではなく、フラウヒルデの常軌を逸した斬撃の剣速によって生み出されたものなので、四大元素の属性は殆ど関係ない。

 間違いなくティアマットに対して有効であろう。

 

 もっともそんな力任せの攻撃では、ティアマットが結界を張り直せばあっさりと防がれてしまう可能性が高かった。

 しかしそれも、フラウヒルデは承知の上だ。

 何もやらないよりはマシという訳である。

 

「!?」

 

 そして実際に、フラウヒルデヒルデの攻撃はティアマットに対して、なんの効果も発揮しなかった。

 それはフラウヒルデにも、そしてシグルーンを始めとしたこの戦いに参加している多くの者達にも予想済みのことだ。

 

 だが結果は同じでも、その過程は明らかに皆が予想していたものとは大きく異なる。

 フラウヒルデが放った斬撃が、ティアマットの張った結界に炸裂した気配が無いのだ。

 

「はずれた……?」

 

 何処か茫然としたような呟きを、フラウヒルデはもらした。

 彼女ほどの剣の腕をもってして、しかもティアマットという全長100mを確実に超えている巨大な(まと)への狙いが外れることは考えにくい。

 だが実際に、彼女の攻撃ははずれた。

 いや──、

 

「違う、はずされたんだわっ!!」

 

 唐突に吹き付けられた突風を受けて、シグルーンは理解した。

 

「母上が先程言っておられた空間歪曲ですかっ!?」

 

 空間を歪曲させることによる攻撃の反射──それはティアマットと相対する者にとっては、結界以上に厄介な防御手段だ。

 だが、今度のはそれとも違う。

 もし空間湾曲による攻撃の反射であれば、フラウヒルデは今頃命を落としていたかもしれない。

 

 そして何が起こったのかは、皆がすぐに理解することとなる。

 ティアマットを中心にして、大気が(うず)巻くように激しく流れ始めたのだ。

 この風の流れによって、フラウヒルデの攻撃は逸らされたに違いない。

 

「あははははははははははっ! 

 人間の分際で楽しませてくれる。

 だが、今度は何処まで楽しませてくれるのかのう? 

 精々もって3分、それ以上の時を(もだ)え苦しむことができたのならば、私は大いに感嘆し、そのしぶとさを称賛するじゃろう。

 どのみち、これが最後であろうがな……」

 

 ティアマットを中心とした大気の渦の流れは、いよいよ激しくなっていった。

 それは最早竜巻(たつまき)にも等しい。

 次々と竜族が風の激流に飲み込まれてゆく。

 だが強靱な竜の肉体にとって、それは致命的と言える程のダメージにはならないはずだ。

 

 もっとも、今現在は飛行能力を有さないシグルーンとフラウヒルデにとって、この風はこの上ない脅威だ。

 2人は必死でクロの背中にしがみついているが、万が一空中に投げ出されて地上まで落下すれば、まず助からない。

 だが、それ以上の脅威が2人を、いや竜族全体を襲おうとしていた。

 それにいち早く気がついたのは、フラウヒルデだ。

 

「は、母上っ、何か風の臭いが変ですっ!」

 

「……なんですって!?」

 

 娘の言葉を受けて、シグルーンは青ざめた。

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