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―邪神大戦―

「なんだこれ……? 

 この風景は……一体?」

 

 ザンと竜王は、広大に広がる雲海の上を(ただよ)っていた。

 

『これは我が記憶である。

 正確には私を創り出した神々から与えられた記憶であり、私の実体験に基づくものではないがな……』

 

「神々の……それじゃあこれは、神々の黄昏(ラグナロク)の時代の風景なのか……?」

 

『いかにも……。

 そしてあれこそが、この世界を最初に壊した者の姿である』

 

「え?」

 

 ザンは竜王の首が指し示した方角に視線を向け、雲海の果てに黒い影を見た。

 

『神々の黄昏の邪神だ……』

 

「あれが……」

 

 それは黒い布が風によって漂っているだけのようにも見えたが、よくよく目を懲らしてみれば、黒いローブで身を覆った人物であるらしいことが分かる。

 もっとも、顔にあたる位置がのっぺりとした仮面で覆われているので、ローブの中身が本当に人の姿なのかどうかは、定かではなかったが。

 

 ただ、仮面の暗い双眸の奧からは、鮮やかな金色の瞳が覗いている。

 そしてその瞳が放つ強烈な情念は、ザンにも心当たりがあった。

 かつての彼女も同じような目をしていたのだから──。

 

「怒り狂っている……」

 

『あの邪神が何故(なにゆえ)に神々へ反旗を翻したのか、その詳細は私に伝えられてはおらぬ。

 伝えぬからには、おそらくは神々にもなんらかの非が有ったであろうことは想像がつくがな……。

 ともかく戦いは起こってしまった。

 取り返しのつかないほどの破壊を伴ってな……』


 そのとき──、

 

「……雲?」

 

 周囲にざわめきが広がり、ザンはその音の発生源であろう方角に目を向けた。

 そこには遠い東の方角から、黒い雲が押し寄せてくるのが見て取れた。

 いや、雲ではない。

 背に翼を持つ武装した戦士の軍団であった。

 その数は5万とも10万ともしれない。

 

『神々だ』

 

「あれが全部神なのか!?」

 

 ザンは驚愕する。

 確かに世界中には無数の宗教が存在するし、その宗教の数だけ神が存在してもおかしくはないのかもしれない。

 

 だが、神は世界を創り出したとされる、この世で最も神聖な存在である。

 その神があんなにも沢山存在するというのは、有り(がた)みが薄れるというか、彼女が抱いていた神々のイメージとは何かが違うように思えた。

 

『私が思うに……。

 神々とは言っても、おそらく彼らはこの世界で最も進化し、そして繁栄した一種族に過ぎなかったのではなかろうか。

 人が現在、竜種を神の如き存在として扱うのとさほど差はあるまい。

 世界を生み出したのは、もっと別の何かなのだろう……』

 

 竜王の言葉にザンはなんとなく(うなづ)いた。

 そうしている間にも、神々は凄まじい勢いで邪神へ向かって突き進んでいく。

 しかし邪神は動ずること無く、軽く天を見上げて何事かを短く呟いた。

 

 突然、神々の頭上に無数の流星が降り注いだ。

 神々と衝突した隕石が凄まじい爆発を連鎖的に引き起こし、更に次の瞬間には、地表にまで到達した隕石が引き起こした巨大な爆発が、下方から吹き上がって神々を飲み込む。

 

 一瞬にして世界は、地獄のような様相へと姿を変えた。

 見渡す限りの全ての空が、灼熱の大気と灰と黒煙と砂塵で満たされていた。

 最早視界も殆ど無いに等しい。

 

 しかしそれでも数多く生き残った神々は、邪神へと殺到していく。

 だが、邪神もただ黙して待っているだけではなかった。

 彼の周囲には、背に黒い翼を持つ無数の人影が現れる。

 邪神が召喚──いや、今この瞬間に生み出した忠実なる兵士であった。

 

 黒き天使達は、神々に一斉に襲いかかった。

 その能力は神々には到底及んではいなかったが、その数は無尽が如く未だに邪神が生み出し続けていた。

 神々の軍団はなかなか天使達を殲滅することができず、いつ果てるとも知れない凄絶な戦いが延々と続く。

 

 だが、それでも長い戦いの果てに――、

 疲弊し、弱り切った邪神は、神々の構築した魔界への入り口に吸い込まれようとしていた。

 一度(ひとたび)魔界に()とされれば、もう簡単には抜け出せない。

 魔界の大地はより巨大な闇の存在を引き寄せ、そして縛り付けるように(つく)られている。

 邪神が強大な邪悪であればあるほど、魔界からの脱出は困難となるだろう。

 

 いかに邪神が絶大な能力を誇っていたとはいえ、彼(ひと)りと数万にも及ぶ神々の軍団とでは、やはり多勢に無勢であった。

 とはいえ、数多(あまた)の神々の力をもってしても、トドメを刺すことができず、魔界への封印に留めざるを得なかった邪神の能力は、あまりにも凄まじいと言うしかない。

 

「……凄い戦いだったな……。

 邪竜大戦が可愛く見えるよ……」

 

 これまでの戦いを静かに見守っていた──否、あまりの凄惨な戦いの迫力に呑まれて呼吸をすることすら忘れそうになっていたザンは、戦局が一段落したここでようやく言葉を発した。

 

「でも結局は神々の勝利か……。

 しかし神々は、この戦いで殆ど滅びたんじゃなかったっけ?」

 

 ザンの疑問に、竜王が重い口調で応える。

 

『……そなたら斬竜剣士と、同じようなことが起きたのだよ……』

 

「まさか……!?」

 

 ザンは魔界に呑み込まれようとしていた邪神へと、視線を移す。

 その時、邪神が絶叫が如き怨嗟(えんさ)の言葉を吐き出した。

 この邪神、別の作品のラスボスなんだけど、その作品はまだ描く予定が無いですね……。

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