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―助太刀―

 一方、シグルーン達も無事ではなかった。

 先程のティアマットの攻撃によって、クロは幾つもの光の矢をその巨体に受けたのだ。

 幸い致命傷ではなかったが、決して浅い傷でもない。

 

 そしてシグルーンは、クロが攻撃を受けた時の衝撃によって、彼の頭の上から空中に放り出されていた。

 彼女は慌てて飛翔の呪文を唱えるが、魔力が尽きかけている所為なのか、なかなか術が発動しない。

 しかもこのままでは墜落死してしまうと焦り、その為に隙だらけになった彼女に数匹のドラゴンゾンビが襲いかかってくる。

 

「あ……」

 

 自らの死を悟ったシグルーンの顔に、茫然とした表情が浮かぶ。

 落下中の彼女には、最早ドラゴンゾンビの、しかも複数匹の攻撃を(かわ)(すべ)は残されていない。

 1匹くらいならば斬竜剣で斬り倒すこともできるだろうが、1匹斬っている間に、他のドラゴンゾンビが彼女に致命傷を与えることだろう。

 

 あまりに突然に訪れた死の瞬間に、シグルーンは覚悟を決める暇すらなく、ただ茫然としていた。

 そんな彼女へ、巨大な竜の(あぎと)が迫る。

 だがそれは、永遠に彼女へ届くことはなかった。

 

「なっ!?」

 

 シグルーンの目の前で、ドラゴンゾンビ達が強い閃光に飲み込まれた。

 その瞬間、その身体は崩れるようにして消え去る。

 そして間一髪のところでシグルーンはクロの頭に受け止められ、墜落死の危機から脱することができた。

 

『御無事ですかっ、御館様っ!?』

 

「ええ、なんとか……今の光もあなたが?」

 

『いえ、俺ではないです。

 どうやら地上からの光のようでしたが……』

 

 クロの言葉を受けて、シグルーンは地上へと目を向けた。

 するとそこには、愛娘(まなむすめ)の姿がある。

 

「フラウ!?」

 

 シグルーンの指示を受けるまでもなく、クロは(あるじ)をフラウヒルデのいる場所まで送り届ける為に下降していく。

 そしてシグルーンを下ろすと彼は、すぐにドラゴンゾンビ達の動向を警戒してなのか、再び空へと舞い上がる。

 

 一方シグルーンは地上に降りるやいなや、フラウヒルデに勢い良く抱き付いた。

 

「さっきの光はあなたね……? 

 ありがとう! 

 娘に命を救われるとは、私も年を取ったものね……」

 

 そうぼやきつつも、シグルーンは娘との再会に満面の笑みを浮かべた。

 たった数日会っていなかっただけだが、もう何ヶ月も会っていないような気がする。

 いや、下手をすれば、もう二度と会えなくなるところだった。

 

「でも、帰ってきて早々で悪いけど、もうここも引き払った方がいいわね。

 どうやら私達の負けのようだわ……」

 

「そうでもないでしょう」

 

 フラウヒルデは母の言葉を力強く否定した。

 

「今、ルーフ殿が従姉(いとこ)殿を救出しようとしています」

 

「リザンちゃんが生きているの!?」

 

 その朗報に、シグルーンの表情が輝く。

 

「ええ……どうやら異空間に閉じこめられただけらしいので、まだ可能性はあります。

 従姉殿の帰り場所を確保する為にも、我々はまだ負ける訳にはいきません。

 母上だってそうでしょう? 

 城に避難した人々の安全が確約できるまでは、あなたはまだ戦い続けるつもりのはずだ」

 

 フラウヒルデの言葉を受けて、シグルーンは困ったような顔をしながら頭を掻く。

 

「でも……だからといって、あなたまで勝ち目のない戦いに付き合う必要は無いわ。

 私がどうにかして、あの化け物(ティマット)をこの地から移動させるから、あなたはそれまで安全なところで──」

 

 そこでシグルーンは言葉を止めた。

 フラウヒルデの射通(いとお)すが如き鋭い眼光を受け、思わず(ひる)んでしまったのだ。

 

「この危機的状況に命を懸けるのは当然! 

 しかし命を捨てるのは、まだ早過ぎます!」

 

「でも、今の私達には、邪竜王を倒すだけの手立てはもう残されていないわ……」

 

 シグルーンの弱気な言葉に、フラウヒルデは左右に首を振る。

 

「だからそうでもないと、さっきから言っているでしょう……。

 今、私の手の内には、おそらくこの世で最強の武器があります。

 まだ完全に使いこなすには至っておりませんが、従姉殿が帰還するまでの(とき)を稼ぐことくらいならばどうにかなるでしょう……!」

 

 フラウヒルデは右手に「光烈武剣」を、左手に「焔天(えんてん)」を構える。

 そんな彼女の視線の数百m先には、敗走を始めた竜族を追撃するドラゴンゾンビの群れがあった。

 

「まずは雑魚を一掃しましょう」

 

「フ、フラウ……?」

 

 フラウヒルデの言葉にシグルーンは戸惑った。

 ドラゴンゾンビの群れは決して雑魚ではない。

 数では数倍も上回る竜族ですら、殲滅する(すべ)がなかったドラゴンゾンビ達を、フラウヒルデ1人が参戦したからといって、どうにかなるものでもあるまい。

 シグルーンがそう思ったのも当然のことだろう。

 

 だが()しくもフラウヒルデは、ドラゴンゾンビに対して最も有効な武器を手にしていた。

 

(そういえば……さっきの光……。

 フラウはバルカンとか言う人のところで、一体どんな力を得たというの……?)

 

 シグルーンはそんな疑問を抱いたが、フラウヒルデが何やら精神を集中させているようなので、問い(ただ)す訳にもいかない。

 それ以前に徐々に高まっていくフラウヒルデでのあまりにも凄まじい闘気に気圧(けお)されて、彼女は些細な疑問を忘れた。

 

(この子……明らかに殻を1つ破ったわ……!)


 シグルーンはそれを確信した。

 明日は定休日ですが、明後日も休むかもしれません。

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