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―最後の賭け―

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(今、ティアマット()の結界は完全ではないはず……)

 

 おそらくそんなカンヘルの推測は、間違いではないだろう。

 自らを強力な結界で封じてしまえば、ゾンビ達を操る魔力までもが結界で遮断されてしまうからだ。

 少なくともゾンビ達を操る為の魔力を送り出す穴が、結界の何処かに作られているはずだ。

 あるいは結界そのものを、張ってはいないかもしれない。

 カンヘル達が狙うべきはそこである。

 

 しかし結界の有無は、ティアマットへ接近して慎重に調べなければ判断できない。

 結界は強力なほど実体化が顕著で、肉眼でも見えるようにはなるが、幻術を使いさえすればそれを隠すことは容易であった。

 

 だから無闇にティアマットへ攻撃することは、得策ではない。

 ここはある程度彼女に近付き、その防御の隙間を正確に探らなければならないのだ。

 

 だが、そんなカンヘル達の意図に気付いたのか、それとも気付いていないのか、どちらにしろ自らへ接近する敵の存在をティアマットが見過ごすはずはなかった。

 無数のドラゴンゾンビが、カンヘル達の行く手を(さえぎ)る。

 それを突破するのは、容易ならざることだろう。

 

 しかしドラゴンゾンビの群れは、突如炎に呑み込まれることになった。

 

「!?」

 

 カンヘル達の背後から、クロに乗ったシグルーンが現れた。

 今し方の炎は、クロが放った火炎息であるようだ。

 

「雑魚は引き受けるから、行って!」

 

「お前達……」

 

「死体と戦っていても(らち)があかないからね。

 あなた達が何かを狙っているのならば、協力してあげるわ」

 

「済まぬ!」

 

 カンヘル達は再びティアマット目掛けて飛んだ。

 だが彼らには、更に無数のドラゴンゾンビが群れがってくる。

 シグルーンとクロはそれを自らに引き付けようとしているが、如何(いかん)せん数が多く対応しきれなかった。

 

 結果、カンヘル達がなかなか先に進めずもたついている間に、ティアマットの攻撃が来る。

 

「何をしようとしているのかは知らぬが、無駄なあがきじゃな」

 

 ティアマットが再び数百もの光の矢を撃ち放ったのだ。

 しかもカンヘル達の行く手を遮る、ドラゴンゾンビ達の背に向けて──である。

 勿論、既に死体であるドラゴンゾンビには致命的なダメージとはならなかったが、彼女ならばたとえ彼らが生者であったとしても、躊躇(ちゅうちょ)なく攻撃していただろう。

 

 いずれにせよ、このティアマットの攻撃は絶大な効果を発揮した。

 カンヘル達はドラゴンゾンビの身体を突き抜け、突然目の前に現れた光の矢に対して、とっさに対処することができなかった。

 ティアマットがカンヘル達の視界を塞ぐように、ドラゴンゾンビ達を配置していたのだから無理もない。

 

 竜人の1人は頭部に光の矢の直撃を受けて即死し、また、更にもう1人も腹を矢に貫かれて致命傷を負った。

 カンヘルとて、左腕に矢を受けて切断されている。

 残る1人は奇跡的に無傷であったが、今し方即死したはずの仲間に突然襲いかかられて身動きが取れない。

 

「も……最早ここまで……!」

 

 次の瞬間、腹に致命傷を受けた竜人の姿がその場からかき消えた。

 

「アグル殿!?」

 

 カンヘルが消えた仲間の名を叫んだその時、ティアマットの目前で大きな爆発が生じる。しかし爆発は結界に妨げられ、彼女に届くことはなかった。

 

「やはり通じぬか……」

 

 カンヘルが悲痛な声が、ティアマットに対する最後の抵抗も失敗に終わったことを告げた。

 彼らの狙いは自らの魔力を暴走させて自爆し、その爆発の瞬間、転移魔法によってティアマットの体内へ突入して彼女を道連れにするというものだった。

 

 自らが最早助からぬと悟ったアグルという竜人はそれを実行したものの、結界に阻まれて結局は失敗に終わった。

 

(正確な結界の隙間を確認してから実行していれば……)

 

 そうしていれば、結果は違ったものになっていたかもしれない。

 だが、わずかな可能性に賭けたアグルの捨て身の行為を責めることは、カンヘルにはできなかった。

 同じ立場ならば、彼もそうしていただろうから……。

 

(……しかし、これでもう万策が尽きたな……)

 

 おそらく同じ自爆技を再び試みても、ティアマットには通用しまい。

 こちらの狙いを知ったティアマットには、いくらでも対策が立てられる。

 そもそもカンヘルと残るもう1人の竜人が自爆したとしても、それでティアマットが倒せるほどの威力になるのかは、少々疑問であった。

 あるいは4人の竜人が同時に自爆していれば、話は別だったかもしれないが……。

 

 だからと言って、残る竜族を集めて自爆を試みたところで、集団で動けばティアマットにこちらの狙いが読まれてしまう可能性が更に高くなってしまう。

 やはりこの手段はもう使えないだろう。

 しかし他に手があるかと言えば、無いとしか言いようのない状況だった。

 

 ここに至ってカンヘルは、ようやく心底から絶望した。

 先程までは命を捨てればまだ状況を(くつがえ)す為の希望が残されていたが、今はもう、命を捨てたからといってどうにかなるものでもなくなってしまったのだ。

 

「…………撤退して策を練り直した方が良いのかもしれんな……」

 

 数分後、カンヘルの指示を受けて、竜の群れは敗走を始めた。

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