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―各々の使命―

 ブックマーク、ありがとうございました。

「竜達が……」


 ティアマットに挑み──いや、戦意を失って無抵抗の者でさえも、次々と彼女によって葬り去られていった。

 それを遠くより見ていたルーフは、言葉を失う。

 

(あれじゃあすぐに全滅する……)

 

 だが、今すぐルーフが参戦すれば、状況は多少好転するかもしれない。

 実際ルーフはそうしようとしていた。

 しかし──、

 

「まずは従姉殿を、救出する方が先ですな……」

 

 ルーフの心の内を察したのか、フラウヒルデが言い聞かせるように提案する。

 彼女はルーフの治癒魔法によって回復し、さきほど目覚めたばかりである。

 他の傷ついた者達も治療を受けてはいたが、魔力を完全に消費してしまったらしいメリジューヌだけは当分目覚めそうになかった。

 

「でも……!」

 

 ルーフは戸惑う。

 今目の前で次々と命を落としている竜族の姿を、見て見ぬフリはできなかった。

 それにあの激しい戦場の中で、今も戦い続けているかもしれないシグルーンの存在も気掛かりだ。

 

「今はルーフ殿にしかできないことに、全力で取り組むべきかと思います。

 なに、竜達への加勢は、私が引き受けましょう」

 

「フラウ!?」

 

 アイゼルンデは(とが)めるように、声を上げる。

 先程までのフラウヒルデは、動くことすらままならぬほどの重傷を負っていたのだ。

 いかにルーフに傷を癒やされたとはいえ、消耗した体力までもが回復した訳ではないはずだ。

 本来ならば、戦うべきではない身体の状態だと言えるだろう。

 しかし――、

 

「……この場で最も邪竜王に対して有効な武器を持っているのは、今やこの私であろうからな……。

 先程の戦いで多少は焔天(えんてん)の扱い方のコツも掴めてきたし、この刀の能力を更に引き出すことができれば、大きな戦力になるだろう」

 

 フラウヒルデはややおぼつかない足取りで、座していた地面から腰を上げた。

 やはり彼女はまだ立ち上がることさえ困難なほど、疲弊しているのだ。

 だがそれでも、彼女は精神力を頼りに力強く両足で大地を踏みしめ、そしてその身体は二度と揺らぐことはなかった。

 

「フラウ……!」

 

 アイゼルンデが──いや彼女のみならず、ルーフやシンもフラウヒルデへと心配げな視線を送っている。

 しかし彼女は笑顔で、

 

「ルーフ殿、従姉殿を頼む。

 アイゼ、シン殿、万が一の時はルーフ殿の力になってやってくれ」

 

 そう言い残し、焔天と光烈武剣を携えて戦場へと駆けていく。

 一同は静かにその背中を見送った。

 もしかしたらあの背中が、フラウヒルデの見納めとなるかもしれない。

 いや、そうならないようにする為にも──、

 

「じゃあ、僕達も僕達にできることをやりましょう……!!」

 

 ルーフが強い意志が宿った視線で、アイゼルンデとシンの顔を見渡す。

 その視線を受けて、彼女らも力強く(うなづ)いた。

 

「しかし具体的には、どうするつもりなのですか?」

 

 シンがルーフに問う。

 彼らは先程、ルーフに簡単な状況の説明を受けただけで、今後どのように行動すればいいのか、全く分からなかった。

 

「……召喚魔法って知っていますか?」

 

 ルーフのその問いにシンは(うなず)く。

 アイゼルンデは、少しぎこちなく頷く。

 

「まあ、簡単に言えば、遠く離れた地にいる精霊・魔物・生物などを呼び出す魔法です」

 

「それが何か?」

 

 アイゼルンデの言葉に、ルーフは小さく頷く。

 これからが本題だというように。

 

「実はこの魔法、呼び出したい対象が何処にいるのか分からない場合が殆どです。

 勿論、それらを正確に把握している方が術の成功率は高くなりますが、必ずしも必須の要素ではありません。

 要はその呼び出したい対象を強くイメージし、呼びかけることが重要なのです。

 精神とか魂には距離という概念が無いと言いますから、たとえどんなに離れていても相手と感応することは不可能ではないのだそうです。

 

 そしてそれに成功すれば、精神的なものとはいえ1本の紐でお互いが繋がっているようなものなので、その紐を手繰(たぐ)り寄せるように相手を召喚することが可能となる訳です。

 まあ、精霊達の受け売りですが」

 

「よく分からないけど……なるほど」

 

 ルーフの説明を明らかに半分以上理解していないような顔で、アイゼルンデが頷いた。

 ただ、要旨だけは分かったようである。

 

「要するに召喚魔法で、リザン様を召喚しようというのですね」

 

「ええ」

 

 ルーフが頷く。

 

「ですから、僕が召喚術に集中する為にも、アイゼルンデさんとシンさんには周囲を警戒していてもらいたいのです」

 

「分かりましたわ!」

 

「承知しました!」

 

 アイゼルンデとシンは力強く応じた。

 

「ただ相手は異空間です。

 僕の呼びかけが、ザンさんに届くかどうか分かりません……。

 たとえ届いても空間をこちらの世界と繋げることが可能かどうかも分かりませんし、時間もかなりかかると思います。

 もし状況が悪化したら、僕を置いて避難して下さい」

 

「そ、そんな訳にはいきません!」

 

 アイゼルンデとシンが(いきどお)る。

 

「……いえ、言ってみただけですけどね」

 

 そんな2人の反応を見てルーフは笑う。

 彼女らも命を懸けてこの場にいるのだろう。

 危険だからといって、そう簡単には逃げはしまい。

 ただ──、

 

「でも、メリジューヌさんのこともありますし、もしもの時は強制転移をかけますから、そのつもりでいてください」

 

 アイゼルンデとシンは、その言葉を受けてうつむいた。

 未だ目覚めぬメリジューヌの安全を考えれば、ルーフにばかりに構ってもいられないのが現状だった。

 

「…………どうにも戦力が不足していますな……」

 

 シンが口惜(くや)しそうに呻く。

 だが──、

 

「そうでもないよ」

 

 その声は上空から聞こえてきた。

 幼い子供のような声が──。

 

「君は……!」

 

 ルーフが空を仰ぎ見ると、そこには背に黒い翼を生やした少年の姿があった。

 

「事情は聞かせてもらったよ。

 相手の位置さえつかめれば、空間の壁はボクが開ける」

 

 と、ラーソエルは軽く右掌を突き出して、その先の空間を歪めてみせた。

 彼は異空間からのザンの救出に、手を貸してくれるらしい。

 

「……ありがとう!」

 

 ルーフは満面の笑顔で、礼を述べる。

 先程まで敵対していた相手に対して、猜疑心(さいぎしん)の欠片も無い笑みだった。

 そんな彼の信頼が、ラーソエルには心地よい。

 

「友達を助けるのは当たり前でしょ?」

 

 その言葉にルーフは大きく頷く。

 彼はこの戦いに、(かす)かな希望が見えてきたのを感じていた。

 

 だがそんな彼らの前には、複数の巨大な影が迫りつつある。

 戦いは、これからがまさに正念場だった。

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