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―残された手段―

 一旦は壊滅状態に(おちい)った竜族の群れであったが、今は再び数千の群れに編成されつつあった。

 それはティアマットの隕石召喚(メテオ)に対抗する為に、竜宮(りゅうぐう)へと残してきた2500にものぼる戦士達だけではなく、その後に世界の危機を感じ取り、竜宮に集った(ドラゴン)達も含まれる。

 その総数は6000とも7000とも知れない。


 しかも、まだまだ増えつつある。

 だが、所詮は数だけであった。

 その群れに含まれる上位竜族の割合は決して多いとはいえず、その半数以上が中位や下位の竜達である。

 それらの竜ではいくら束になってかかろうが、ティアマットの脅威とはなるまい。

 

 結局、竜族の主戦力は、既にもう壊滅しているのである。

 それでも彼らは、この戦いを(あきら)める訳にはいかなかった。

 ティアマットは竜族を根絶やしにするつもりだ。

 ここで勝利しなければ、竜族の未来には一条の光明も有り得ない。

 だから彼らは、最後の1匹になるまで戦い続けるだろう。

 

 数百匹の竜が一斉に、ティアマット目掛けて高速で突入していった。

 しかしその(ことごと)くが、ティアマットの展開した防御結界に進路を(さえぎ)られる。

 だがそれでも、竜達は止まろうとはしなかった。

 彼らも高密度の結界を(まと)ってティアマットの結界を突き抜けようと、更に勢いよく突き進む。

 だが――、

 

 ティアマットの結界を突き抜けようとしていた竜達ではあったが、そこに生じた反発力は尋常ではない。

 力負けした竜から次々と結界に叩き付けていた力が一気に逆流し、それに飲み込まれて肉体を爆散させていった。

 その衝撃でティアマットの結界がわずかにでも弱まると、すかさずそこへ次の竜が突っ込む。

 その繰り返しによって、いずれはティアマットの結界を打ち砕くことができるだろう。

 しかし、それは──、

 

「……捨て身だわ!」

 

 シグルーンは(うめ)いた。

 正直、こんな戦い方を彼女は認めたくはない。

 戦いとは生きる為のものであり、死ぬ為のものでは決してない。

 だが、先程のあまりにも強大なティアマットの能力を見せ付けられた後では、竜達の戦い方を否定することはできなかった。

 

 むしろシグルーンも、命を捨てる覚悟で戦わなければならないようだ。

 そうしなければ、今も生きていると信じている娘達にまで死の危険が及ぶ。

 一刻も早く、ティアマットの脅威を排除しなければならないのだ。

 

「……とはいえ、もう私には大きな魔法を使っていられるほど魔力は残ってはいないのよね……。

 打つ手は用意してあるのかしら?」

 

 シグルーンは横に視線を向けた。

 そこにはカンヘルをはじめとする、4人の竜人の姿がある。

 

「あるにはある……。

 我等4人がかりで攻撃魔法を発動し、奴に叩き込むつもりだが……」

 

「只でさえ強大な魔力を持つ竜族が、4人がかりで発動させるような魔法ね……。

 まあ、全く効かないってことはないでしょうけど……。

 だけどそれも、あの結界を破壊できたのならば……の話よね? 

 それにたとえ結界を破壊しても、あの空間歪曲を使われたら意味が無いわ」

 

 その辺は考えているのか――と、シグルーンは含むような視線を、カンヘル達へと送る。

 

「空間歪曲に関しては対策を講じてはいる。

 差し当たっては、まず結界を破壊するのが先だな」

 

 カンヘルのその言葉を聞いて、シグルーンは微笑んだ。

 

「そう、ならば結界は私がなんとかするわ」

 

「できるのか?」

 

 (いぶか)しげにカンヘルは問う。

 他の竜人も似たような反応をしていた。

 

「できる、できないの問題じゃない! 

 やるか、やらないかっ! 

 ……というか、魔力が尽きかけている私には、それしかやれることは残っていないみたいだし……。

 今、チャンスを作るから、活かしなさいよ」

 

 シグルーンが口の中で何かを呟くと、彼女の手に(あか)い刀身を持つ剣が現れた。

 

「斬竜剣……なるほどな。

 しかし……危険は承知なのだな……?」

 

「何者も巻き込まないような、小規模の攻撃では意味無いでしょう? 

 それにこの場で命を惜しむような余裕があるのは、もう邪竜王くらいでしょうし」

 

 シグルーンは屈託無く笑う。

 既に彼女の覚悟は決まっているようだ。

 カンヘルは彼女に対して、軽く頭を下げた。

 

「済まぬ……」

 

「礼を言われる筋合いなんてないわね。

 私は私の都合で戦っているのだから。

 さて……クロ、あなたはここに残る。

 いいわね?」

 

『ハッ! フォローに徹しろという訳ですね』

 

 主の指示を一切の疑念無く読み取ったクロの返事を受けて、シグルーンは「分かっているじゃないの」と、無言で笑う。

 そして彼女は刺突攻撃を放つ体勢で、斬竜剣を構えた。

 

 そんなシグルーンの背を見つめながら、クロはなんらかの呪文の詠唱を開始する。

 しかし、3つ首のそれぞれが全く異なった呪文を唱えている為に、具体的にはどのような術を行使しようとしているのかは判別できなかった。

 

「よし、我々も術の準備を……」

 

 クロに(なら)うかのように、カンヘル達4人の竜人達声を揃え、乱れること無く呪文の詠唱を開始した。

 

「大地築き、海満たし、炎燃やし、風運ぶ──()(つかさど)りし大いなる(ことわり)(すなわ)ち今は蒼天の彼方に去りし神々よ。

 世に訪れし黄昏(たそがれ)(はら)わんが為に、其の失われし大いなる威光を、今此処(ここ)(よみがえ)らせ賜え! 

 アルパ・ケルパ・オメガ・トルパ──」 

 

 4人の竜人のそれぞれは、東西南北に背を向けて四角形を形作るように向き合い、いつ終わるとも知れない長い呪文の詠唱をひたすらに続けた。

 やがて彼らの中心に、眩い光が(うず)を巻くように生じた。

 最初は平面的だったその渦は、螺旋を描くように膨らみ、やがて完全な球形と化す。

 

 その光球が発する力の波動を感じて、クロは引き()った笑みを浮かべた。

 

(なるほど……。

 以前俺が邪竜王に喰らった術を、上回る威力がありそうだ。

 これならば確かにいけるかもしれないな……)

 

 そんなクロと同じ想いなのだろう、シグルーンは勢いを得たかのように力強く声を張り上げる。

 

「準備はいいっ!? 

 いくわよ!」

 

『いつでもどうぞ、御館様!!』

 

 これまた力強いクロの返事を聞くやいなや、シグルーンはいきなり弾丸の如き勢いでティアマット目掛けて突進を開始した。

 明日はお休みの予定です。

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