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―融 合―

「な、なに言ってるんですか!? 

 いますぐ治しますからね!」

 

 と、ルーフは強引に、ファーブの治療を続けようとするが──、

 

「いや……いい。

 今の俺が負っているダメージは、数年は休眠が必要なレベルだ……。

 どのみちお前の治癒魔法でも、戦えるまで回復させることはできないはずだ。

 ならば俺の回復に使うよりは、お前が戦う為の力として魔力を温存しておいた方がいい」

 

 ファーブは(かたく)なに治療を拒んだ。

 

「で、でも……」

 

「俺のことはいい。

 それに今は、俺よりザンの方が深刻だ……」

 

「ど……どういうことですか?」

 

 ファーブのその言葉を聞いて、ルーフの顔が強張(こわば)った。

 自身がこれまでに感じてきた喪失感の正体に、今まさに直面しようとしていることを直感的に悟ったのかもしれない。

 

「ザンは……邪竜王によって、異空間に封印されてしまった。

 正直を言うと、今生きているかどうかさえも分からない。

 だが少なくとも、自力で異空間から脱出することは不可能だろう……」

 

「そんな……!」

 

「……そこでお前には、ザンのことを頼みたい。

 だが今のお前では、どうこうできる問題ではないのかもしれない……。

 だからお前には、少しでも強い力が必要だ。

 そしてその力を得る為に、覚悟を決めてもらいたい……」

 

「か……覚悟……?」

 

 ルーフの瞳が困惑に揺れた。

 一体ファーブが自身に何を要求しようとしているのか、それが全く想像できなかった。

 

「自分が人間であること……それを捨てる覚悟をしてほしい……」

 

「……!!」

 

 ファーブの言葉を受けて、ルーフの身体が震えた。

 彼はそのまま何も答えることができず、ただただ絶句する。

 

「シグルーンが俺の血を、体内に宿していることは知っているな? 

 それと同様のことをすれば、お前の能力を更に強化することができるはずだ……」

 

「ファーブさんの血を僕に……?」

 

 ルーフの顔が戸惑いに彩られる。

 いかにルーフが半分精霊の血を引いているとは言え──いや、だからこそ、更に竜の血をその身体に宿せば、彼はいよいよ人間ではなくなってしまう。

 それは簡単に決断できるようなものではなかった。

 だがファーブは、更に追い打ちをかける。

 

「それに……お前には、シグルーンと同じことはしない……」

 

「え……?」

 

 ファーブの言葉の意味するところが分からず、ルーフは一瞬キョトンとした表情を浮かべたが、それはすぐさま驚愕へと転じた。

 彼の目の前でファーブの胸が――正確には肋骨が、まるで扉の如く開いていく。

 

 そこからは凄まじい力の波動と、眩いばかりの光を発する球体が現れた。

 球体とはいっても、何本もの(くだ)によってファーブの体と繋がり、そして脈動している。

 それは脈動しつつもどことなく無機質、かつ硬質な宝石のようでもあった。

 しかし、それは間違いなく──。

 

「心臓……!」

 

 ルーフは心底から震え上がったような声音で(うめ)く。

 

「……そう、俺の心臓と融合してもらいたい。

 これならば血よりも強い影響力を持つし、更に俺の身体で最も膨大なエネルギーと身体能力を制御する機能が集中している器官だ。

 上手くすれば、お前は今すぐにでも俺のあらゆる能力を得て、ザンやシグルーンをも上回る強さを得ることができるかもしれない……」

 

 そんなファーブの言葉に、ルーフは慌てた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」

 

「……嫌か?」

 

「そういう問題じゃなくて……ファーブさん、そんな身体で心臓を無くしちゃっても大丈夫なんですか!? 

 いえ、それよりも、この心臓からは凄い力を感じます。

 これだけの力があれば、その傷を癒やすことだってできるんじゃないですか!?」

 

 そんなルーフの言葉に、ファーブは一瞬返答に(きゅう)したように見えた。

 しかし彼は、落ち着き払った態度で答える。

 

「いや……詳しく理屈を説明している暇が無いから説明はしないが、そうも都合良くいかないんだ。

 だが、身体のことについては心配無い。

 俺は目玉だけになっても、生きていたくらいだぜ? 

 心臓の有無はさほど重要じゃないさ」

 

「…………本当に大丈夫なんですね?」

 

「ああ……」

 

 確認するようなルーフの問いに、ファーブは即答した。

 しかしそれは、どことなく歯切れが悪い。

 だが、ルーフはそんなファーブの様子には気付かずに、安堵の表情を浮かべる。

 

「分かりました……。

 ザンさんを救う為なら、この際心臓でも何でも受け入れます。

 でも一体、僕に何をさせようと言うんですか? 

 僕には空間を操れる能力はありません……」

 

「俺だってそうだ。

 だが、邪竜王が何らかの魔法的な力によって、空間を操っていることは確かなんだ。

 魔法的なことならば、俺よりはお前の方に()がある。

 それにお前ならば、精霊の力を借りることもできるしな」

 

「は、はい。

 高位の精霊ならば、何かいい手段を知っているかもしれませんものね」

 

「……ともかくだ。

 具体的な手段は後で考えるとして、まずは力だ。

 空間に干渉する為には、おそらくかなり膨大な魔力が必要になるだろう。

 それにお前が空間を操ることが仮にできなかったとしても、力さえあれば力ずくで邪竜王に再び同じ術を使うようにし向けることも不可能ではないはずだ。

 そしてザンのいる空間と、この世界が繋がりさえすれば……まだチャンスはある……」

 

「はい!」

 

 ルーフは力強く頷いた。

 だが、彼の顔からは戸惑いの色は消えない。

 

「でも……この心臓と、どうやって融合するって言うんですか?」

 

「なに簡単だ」

 

「あ……」

 

 ルーフの目の前で、ファーブの心臓が見る見るうちに縮んでいく。

 そしてついにはアメ玉程度のサイズになった。

 勿論、身体と繋がっていた血管も切り離されている。

 

「それを飲み込むだけだ」

 

「の、飲むんですか、これを!?」

 

 ルーフはすっとんきょうな声をあげた。

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