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―ファーブニル特攻―

 ファーブは地表目掛けて、落下をし始めた。

 いや、ただ落下するだけではない。

 自らも加速する。


 その落下速度は、おそらくこの世の落下物で──いや、落下物に限らず、物体としては最も速いであろう隕石を更に数倍上回る速度である。

 しかしそれは、音速の数十倍、いや数百倍という恐るべき速度だ。

 

 その速度で大気へ突入したことにより、ファーブの正面の大気が内包する熱エネルギーは、外へ逃げ出す間も無く圧縮されて高温を発する。

 それが容赦なく彼の身体を焼いていった。

 あらかじめ張っていたはずの結界すら、全く役には立っていない。

 

 これは焼けていく肉体を瞬時に再生させることができるファーブでなければ、(またた)く間に燃え尽きていたことだろう。

 もっともその再生力とて、そう長くはもたない。

 あと数分もすれば限界が来る──それほどまでに凄まじい熱量であった。

 

 しかしこの速度ならば、地表まではほんの一瞬で到達できる。

 問題なのは、目標と接触した時に生ずる衝撃であった。

 ファーブが行おうとしているのは、衛生軌道上からの体当たり攻撃である。


 しかしその威力はおそらく隕石召喚(メテオ)に匹敵する。

 あるいは、大陸1つを焦土と化すことが可能なほどの、威力があるのかもしれない。

 まともに炸裂すればアースガルはおろか、ユーフラティス大陸全土が──いや、あるいはそれ以上の範囲にわたって、壊滅的な被害が生じるだろう。 

 勿論、そうならないようにする為の対策も、ファーブは考えているが。

 

 だが、ファーブが心配するのは大陸の安全までで、自身の心配は何1つしていなかった。

 最早捨て身である。

 ザンの(かたき)を討てるのであれば、自身の命とて惜しくはなかった。

 

(捉えた!)

 

 ファーブは大結界の入り口をくぐり抜け、既にティアマットの姿を――その表情すらもハッキリと肉眼で捉えることができる距離にまで到達していた。

 ティアマットの顔は恐怖に引き()っている。

 

「ファー──!!」

 

 ティアマットはこれまでに無い焦りを感じていた。

 今現在の彼女には、ファーブの攻撃を回避する為の脱出路が無い。

 唯一この結界からの抜け出すことができる上部から、ファーブの攻撃が来るのだ。

 そこから逃げることは叶わない。

 

 また、大結界内に魔術を中和する力場が形成されている為に、転移魔法を使うことはおろか、結界を展開して防御することすらままならなかった。

 そして魔術に頼れない状態では、周囲を取り囲む大結界を破壊して脱出することも今すぐには不可能だった。

 

 ティアマットがどんなに足掻こうが、竜族は何が何でも大結界の破壊を許しはしないであろう。

 それは自らの命と引き換えにしてでも──である。

 何故ならばこの大結界は、ティアマットを封じ込める為だけに形成されているのではない。

 むしろ、これからファーブの攻撃によって生ずる、凄まじい破壊の(うず)から大陸全土を守る為に形成されているからだ。

 

 もしもこの大結界が衝撃の威力を押さえ込む前に破られたとしたら、それはそのまま、このユーフラティス大陸の滅亡を意味するに等しいと言えた。

 だからこそ竜族は大結界の形成に、全力を(そそ)ぎ込んでいる。

 だが、それほどまでに絶大な威力のある攻撃だからこそ、最早ティアマットには為す術が無かった。

 

(おのれぇぇ……!!)

 

 ティアマットは内心で毒づいた。

 しかし、最早それを声に上げる(いとま)すらない。

 視界の殆どが既に、ファーブの身体のみで覆い尽くされている。

 

「じゃりゅうおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――っ!!!!」

 

 次の瞬間、ファーブがティアマットに突っ込み──、

 

「………………!!!!」

 

 周囲が閃光に染め上げられた。

 

 そして衝突によって発生した凄まじい衝撃は、まるで間欠泉の如く円筒状の大結界を(さかのぼ)り、先端の穴から宇宙空間目掛けて放出されていく。

 これにより、かなりの破壊エネルギーを逃がすことができた。

 だが、それでも――、


「いかん! 結界が破られる!!」

 

 カンヘルが悲鳴じみた声を上げた。

 破壊のエネルギーは時の経過とともに宇宙に逃がされて弱まってはいくが、それでも最初の十数秒を耐えるだけで精一杯だった。

 竜族が魔力をどんなに結界に注ぎ込もうとも、もう結界の崩壊は避けられそうにない。

 円筒形だった結界が、まるで風船のように膨張していく。

 

「くっ、クロ、結界を展開させて! 

 できるだけ多くっ!!」

 

 ことの成り行きを見守っていたシグルーンが叫ぶ。

 最早、大結界の崩壊が避けられないのならば、崩壊した大結界から洩れ出すエネルギーから自らを守ることを第一に考えなければならない。

 

『はっ!』

 

 クロは竜族の前面に、幾つもの結界を展開させた。

 勿論、クロ1人では数千を数える竜族の全てを護れるほどの結界を構築することは不可能だ。

 そもそも急ごしらえの結界が、竜族の総力を結集して展開させた大結界でさえも抑え込めない破壊力に耐えられる訳がない。

 だが、何も無いよりはマシだろう。

 

 そしてシグルーンもアースガル城を庇うように背負い、結界を展開させる。

 その刹那――、

 

「―― 来るっ!」

 

 ついに膨大なエネルギーが結界の壁を突き破って、一斉に吹き出し、あらゆる方向へと広がっていく。

 それはもう、結界の穴から衝撃が洩れ出したとかいうレベルの勢いではない。

 実質的には「極大烈破」クラスの最上級攻撃魔法すら上回る大爆発だ。

 

「…………!!」

 

 竜族は次々と爆発に飲み込まれ、吹き飛ばされていく。

 そして更に、周囲数十km四方の空間の全てが激しい爆流に飲み込まれるまでには、そう時間はかからなかった。

 吹き荒れる破壊の嵐の中、最早何者の安否も知る(すべ)は無かった。

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