―まだ側にある想い―
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「純粋な魔力だけで、ボクに攻撃を……!?」
「そう、膨大な魔力を一気に放出して、君に叩き込んだ。
君が倒れるまでいくよ!」
更にもう一撃。
「ぎゃっ!!」
いや、まだたまだ続く。
ルーフは全力でラーソエルに対して、魔力を叩き込み続けた。
しかしそれでも、ラーソエルはなかなか倒れない。
彼も体内の魔力を高めて放出し、ルーフの攻撃を相殺しようと必死だ。
今は先手を打たれてダメージを受けた為に、その反撃の力は弱いが、すぐにルーフの攻撃の方が弱まっていくはずだ。
そう、こんな魔力の消費が激しい攻撃など、いつまでも続けていられるものではない。
だからこそ本来魔法使いは、精霊の力を借りて魔力を魔法へと変換して使用しているのだ。
ラーソエルがこのままこの攻撃に耐え続けていれば、ルーフの方が先に魔力を使い切って倒れるだろう。
無論、彼とてこの攻撃に長時間耐えらることはできないだろうが、おそらくは先程から魔力を使い続けているルーフの限界の方が先にくる。
「馬鹿だよキミは。
こんな無茶な方法で、本当にボクに勝てるとでも思っているの?」
ラーソエルは激しい衝撃に曝されながらも笑った。
さっきまでは引き分けしか望めなかったが、どうやら相手が勝手に自滅してくれるようだ。
勝利はもう目前だった。
だが、ルーフの目はまだ諦めていない。
「無茶でもなんでも、これしか手段が無いのだから……それに賭けるしかない!」
そしてその無謀なはずの攻撃は、継続される。
何度も、何度もラーソエルに叩き込まれる衝撃──しかし、これだけ攻撃を繰り返しているのに、その攻撃の威力はまだまだ衰える気配が無かった。
(な……おかしい……?
なんでまだ魔力が残っているんだ!?)
最早、常軌を逸していた。
既にルーフは竜族が持つ魔力容量すらも、大きく超える量の魔力を消費しているはずだ。
しかも精霊を支配できるラーソエルの間近では、精霊から魔力の供給を受ける手段も使えない。
それにも関わらず、ルーフの攻撃は衰えるどころか、更に威力を増している。
「おかしい、おかしいよ!?
なんでそんなに魔力があるんだよっ!?
これじゃあ……まるで、ボクの魔力量すらも超えて……!?」
ラーソエル大いに焦りだした。
このままでは間違いなく負ける。
彼は必死になって、ルーフの攻撃を相殺しようと魔力を高めていたが、それすらもさほど役に立ってはいない。
彼の口からは、わずかに血液が溢れ始めた。
「グウウ……!
な……何なんだよ……キミは……!?」
畏れるような表情で、ラーソエルはルーフに問う。
するとルーフわずかに笑って答える。
「僕なんて別に大したことないよ。
ただ、力を貸してくれる人がいただけだ!」
ルーフは更に放出する魔力を増幅した。
魔力はまだ沢山ある。
それどころか、無限に力が湧いてくる感覚だった。
(本物だったんだ……!)
ルーフの胸で守護符が輝いている。
ザンがシグルーンの生誕祭の日に、露店で金貨10枚という大枚をはたいて買ってきた守護符である。
『あらゆる災厄から身を守ってくれるし、魔術を使う際には魔力を増幅してくれる効果もあるんだそうだ』
――そうザンは言っていた。
しかし祭りの露店で買ってきた守護符だ。
ザンが世間の一般常識を知らないのをいいことに、騙されて偽物を売りつけられたのではないかと疑われた品である。
それでもザンが自分の為に一生懸命選んで買ってきた品だという、その事実がルーフには嬉しかった。
だからその守護符は、彼にとってかけがえのない宝物である。
しかもそれは、正真正銘の本物でもあったのだ。
それが今、ルーフに限りない力を与えている。
勝算の薄い最後の賭けを、絶対的な勝利に導こうとしている。
(僕は1人で戦っているんじゃないんだ!)
ルーフはすぐ隣にザンがいるような、心強さを感じていた。
先程まで感じていたあの喪失感が、胸の内で嘘のように薄らいでいく。
彼女は今ここにはいないけれど、彼の命を確実に救う力を既に彼に与えていたのだ。
その事実が、更に彼を力付ける。
「力を貸してくれた人の為にも、僕は絶対に負けない!」
「く……っあ!」
これまでで最大の衝撃がラーソエルに叩き込まれ、彼の小さな身体が跳ねるように吹き飛ばされた。
そのあまりの衝撃に、彼の抵抗は全く無意味だったのだ。
そしてそのまま、地面に倒れ伏したラーソエルは起き上がる気配を見せなかった。
「や……やった……」
ルーフはハアハアと荒く息を吐きつつ呟いた。
守護符のおかげでまだ魔力には余裕はあるが、さすがに疲れた。
それでもへたり込みそうになるのをグッと我慢して、まずは守護符を手に取り、
「ありがとうございます……」
心から礼を述べ、それから静かに地面に腰を下ろす。
疲労の所為でもう当分動けそうになかったが、そうも言っていられない。
再び戦う為に、ルーフは少しだけ休もうと決めた。
その間彼は、静かに守護符を眺め続ける。
「……大丈夫ですよね、ザンさん……?」
ただ一言、少し不安げにルーフは問う。
あの喪失感は、やはりまだ消えてはいないのだ。
ルーフは軽くを頭を左右に振って、また守護符を静かに眺め続けていた。




