―最後の手段―
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何故ルーフは、これほどまでに自信に満ちた態度なのか?
普通に考えれば、得意とする魔法攻撃を封じられている彼に勝機などあるはずもなく、既に絶望してもいいはずの状況だ。
それにも関わらず勝負を諦めようとしないルーフのことが、ラーソエルはには全く理解できなかった。
その得体の知れなさに耐えかねたのか、彼は思わず声を張り上げてルーフを問い詰める。
「何を馬鹿なことを……。
お兄ちゃんの魔法はボクに対して、全く通用しないのに!
腕だってそんな状態で、一体どうするつもりなのさ!?」
「……こうやって!」
次の瞬間、「飛翔」とルーフは短く唱えて、空中に浮かびあがった。
そしてそのまま、ラーソエル目掛けて猛スピードで飛ぶ。
「体当たり!?
あはは、そんなのでボクをどうにかしようって言うの!?
こう見えても、ボクは結構頑丈なんだよ」
拍子抜けして、ラーソエルは笑った。
彼の言葉通り、普通の人間程度の物体ならば、たとえ時速100kmを超えるスピードで突っ込んで来たとしても、大きなダメージにはならないだろう。
ルーフの体重がもう5~6倍あれば話は別かもしれないが、それだって致命傷には至るまい。
むしろ、軟弱な身体をしたルーフの方が、被るダメージが大きいのではないか。
勿論、結界で防御をするくらいの、対策は講じているだろうけども──。
(結界!?)
ラーソエルはそれに気が付いて、顔色を変えた。
魔力を凝縮して形作った結界の硬度は、時として鋼鉄さえもはるかに上回る。
硬い物体と柔らかい物体が衝突したとしたらどうなるのか、その答えは簡単だ。
衝突の衝撃で破壊されるのは、常に軟らかい物質である。
そしてこの状況では、硬い物質とはルーフの結界であり、軟らかい物質とは当然ラーソエルのことだ。
「マズイ!!」
ラーソエルは慌てて防御結界を形成しようとしたが、その時には既に結界越しにルーフの顔が目前に迫っていた。
当然その結界は、ルーフが形成したものだ。
「――うぎっ!?」
ゴツン──と、鼻っ柱に結界の直撃を受けて、ラーソエルは短い悲鳴を上げながら地面に倒れ込む。
そんな彼にルーフは歩み寄りつつ──、
「大地の息吹よ!」
呪文の詠唱を始める。
(魔法の効かないボクを追いつめたこの状況で何故――!?)
ラーソエルは混乱する。
だが、それが致命的な隙となって、ルーフの次の行動に対する対応が遅れた。
ただ、立ち上がるだけで精一杯だ。
「緑を育みしその大いなる命の力をもって、我が傷を癒やせ!」
「治癒魔法!?」
次の瞬間、筋組織が断裂してまともに動かすことすらできなかったはずのルーフの両手が、ラーソエルへ向けて突き出され、その掌は彼の胸に添えられる。
「いくよっ!」
火花の如き閃光──。
「か……っ!」
凄まじい衝撃がラーソエルの身体に叩き込まれた。
これが岩なら粉々に砕けていただろう──というほどの衝撃だ。
素手の人間がこれほどまでの衝撃を発生させることは、何か特殊な武術を身に付けていたとしても困難なことだろう。
武術どころか、スポーツすらも人並み以下のルーフでは、なおのことだ。
勿論、魔法としてならば、ルーフにもこれくらいの衝撃を生み出すことはできるが、魔法はラーソエルには効かないはずだ。
では、この攻撃の正体は一体何なのか?
少なくとも、先程の体当たりの時のような結界によるものではない。
結界は確かにラーソエルに対して少なからず有効であるが、こんな密着した状態からどのようにすれば、結界であのような衝撃が発生させられるのだろうか。
おそらく不可能だ。
「ま……まさか」
ラーソエルは意識が一瞬途切れそうになるほどの衝撃を受けながらも理解した。
ルーフの攻撃の正体は、1つしか有り得ない。
「魔力を直接!?」
それは、ルーフに残された最後の手段だった。
明日は更新を休む予定です。




