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―ゲームオーバー―

 ギガースとヘカトンケイルが振り下ろした(こぶし)が、ルーフを押し潰した――いや、その瞬間は何者にも確認することができなかった。

 巨人達が繰り出したあまりにも激しい攻撃によって、地面をも含む周囲のあらゆる物体が吹き飛んでいるのだ。

 最早、小さな人間の身体がどこに吹き飛ばされてしまったのか、それを確認することは困難であった。

 

 1つ確実なことは、もしもその破壊の(うず)にルーフが巻き込まれていたとしたら、たとえとっさに結界での防御に切り換えていたとしても、彼は無事ではいられなかったということだ。

 それほどまでに巨人達の膂力(りょりょく)は絶大であった。

 それは竜すらも、上回っていたかもしれない。

 

短距離瞬間移動(ショートテレポート)……か」

 

 だが、ラーソエルは巨人達の上空を見上げて微笑む。

 ルーフは空に逃れていた。

 転移魔法は瞬時に長距離を移動できるという便利な術ではあるが、一歩間違えば障害物に突っ込むなど、即命取りとなる危険な術でもある。

 

 だから本来ならば、咄嗟の判断で使用するのはできるだけ避けた方がいい。

 しかしどうしても使わなければならない場合、もっとも安全な転移場所は、障害物が何もない上空である。

 勿論、墜落死を防ぐ手段も同時に用意しておかなければ、自殺行為ではあるが。

 

 ともかくルーフは、数十mほど上空へと転移した。

 彼は自身の攻撃が間に合わないことを予測し、実のところ攻撃魔法よりも転移魔法の方に重点を置いて術式を同時に展開していたのである。

 

(やった、なんとか成功した!)

 

 ルーフは内心でホッと胸を撫で下ろす。

 彼が短距離瞬間移動を使ったのは、今が初めてである。

 術の使い方の知識はあったが、彼の魔法の師とも言えるシグルーンやファーブからは、「危険だから、もっと完璧に魔法が操れるようになるまでは使うな」と言われていた。

 無論、他の攻撃魔法と同時進行で、術を形成したことなどある訳がない。

 

 それでもたとえ1度も使ったことが無いような術だったとしても、それがいかに危険な物であると分かっていても、自身に残された可能性を全て試さなければ――そして全てを出し尽くさなければ、この場は生き残れない。

 ルーフは本能でそれを悟り、そして実行したのだ。

 

 巨人達はまだ、ルーフが生きていることに気付いていない。

 そのおかげで彼には、中断していた攻撃魔法を完成させる時間は十分にある。

 彼が術を再開し、その巨大な魔力の気配を感じて巨人達が上空を見上げた頃には、既に勝負は決していたと言ってもいい。

 

光腕槍(ルーボルド)――――っ!!」

 

 ルーフの手から放たれた光が一本の槍と化して、ギガースとヘカトンケイルの間の地面に突き刺さった。

 そのあまりの貫通力に、光の槍はそのまま地面へと完全に没し、地中十数mまで潜ってからそこで、ようやく大爆発を引き起こす。

 

 巨人達は足下から吹き上がる衝撃に為す術無く吹き飛ばされ、地に叩きつけられた。

 そして、そのまま動かなくなる。

 それを眺めていたラーソエルは、最初は笑っていたが、徐々に不機嫌そうな顔になった。

 

「なるほど、凄いね。

 ……でも、よくもボクの友達をやったなぁ……!」

 

「……意味分かって言ってるの?」

 

 ルーフは魔法で落下の勢いをコントロールして、ゆっくりと地に降りつつ、非難めいた口調でラーソエルに問うた。

 彼のあどけない顔には、言葉ほど怒りの色が無かったからだ。

 

「本当に友達なら、敵にけしかけたりなんかしないよ。

 友達なら、なんでちゃんと守ってあげないの?」

 

 ルーフの言葉を受けて、ラーソエルは不満げに 頬を膨らませる。

 

「うるさいなぁ。

 ボク達は200年も一緒に、旅をしてきたんだぞ。

 キミに何が分かるって言うんだい。

 もう、このゲーム面白くないやっ! 

 すぐに終わらせてやる」

 

 と、ラーソエルが、ルーフに向けて右掌を突き出した。

 

「君は攻撃しない、ってハンデはもう終わりなんだ?」

 

 ルーフはそうぼやきつつ、ラーソエルの攻撃を予想して身構えた。

 しかし――、

 

「ハンデまだ生きてるよ。

 キミが倒れるまでは、ゲームは終わらないからね」

 

「え?」

 

 ラーソエルの不可解な言葉に、ルーフは一瞬呆気に取られた。

 そしてそれは、すぐさま驚愕に変わる。

 

「!?」

 

 ルーフの右(てのひら)が、自身の首に食い込んだ。

 それはそのまま、ギリギリと締め上げる。

 

「かはっ!? 

 な……何!?」

 

「キミ、半分混じっているよね……? 

 攻撃するのはボクじゃない。キミ自身だ……」

 

 ラーソエルはさも楽しげに笑った。

 彼の精霊を操る能力は、半分は人間であるはずのルーフにさえも、通用するらしい。

 

「くう……っ!」

 

 更にルーフの左の掌が、自らの喉に食い込んだ。

 最早その両手は、全く彼の意志に従わない。

 完全にラーソエルによって、支配されているのだ。

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