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―巨人との戦い―

 危ういところでギガースの胃に収まることのを回避したルーフだったが、起き上がろうとした彼の目の前では、ヘカトンケイルの無数の口から光が漏れ始めている。

 

(ブレス)攻撃!?)

 

 ルーフの予想通り、次の瞬間にはルーフの周囲が炎に包まれる。

 勿論、いち早く結界を形成していた彼にダメージは無い。

 2体の巨人が行う攻撃自体は、ラーソエルが直接行うそれよりも脅威ではないようだ。

 

 しかしそれは単体によるものであれば──という話であり、やはり2体同時に攻められるとルーフもその対処で精一杯になってしまう。

 その上でラーソエルの攻撃が、絶対に無いとは言い切れない。

 

 ルーフにとって、この状況は更に悪化していると言える。

 それでも巨人達を先に排除しなければ、彼に勝ち目は無かった。

 だが防御に掛かり切りの今の彼には、巨人達に有効であろう攻撃魔法を使っている余裕は殆どなかった。

 

(いや……防御と同時に攻撃ができれば……)

 

 ルーフには、武術や剣術といったものはよく分からない。

 だが、ここ数ヶ月で知り合ったザンを初めとする戦闘の達人達が、彼に戦いの基本的なことを教えてくれたことがある。

 彼女達はどうにも貧弱な彼を心配して、「少しくらいは護身術でも身に付けさせた方がいいのではないか」と考えたらしい。

 

 なんとなく余計なお世話ではあるが、ともかくそんな彼女達が皆口を揃えて言うのは、「防御と攻撃の動作を分けて考えるな」ということだ。

 確かに防御の動作をそのまま攻撃に繋げることができれば、無駄な動作が減り、かつ隙が少なくなる。

 また、運動量が減るので、体力の消耗も抑えられるだろう。

 

 何よりも本来2つに分けていた動作を、まとめて行うのだ。

 格段に行動の速さ(スピード)が上がる。

 つまり敵よりも、先制して動けるようになるのだ。

 これが戦闘において、非常に有利なのは言うまでもない。

 より強さの高みを目指すのであれば、是非とも修得しておきたい技術である。

 

 しかしそのような高等技術を、素人のルーフに教えようとしたところで、頭で理屈を理解できても、身体で覚えることは困難だ。

 ザン達は当たり前のように使っている技術だから、彼にも教えればできるようになると思っていたのだろうが、彼にとってそれは、ある意味手品のようにも感じられる高度なものだった。

 

 少なくともルーフが、その技術を実戦で使用できるようになるまでには、日に何十回、何百回もの反復練習を根気よく何ヶ月も継続的に行う必要があるだろう。

 しかしルーフには、そができるほどの体力が無い。

 彼にとってまず必要なのは、体力作りだろう。

 

 そもそもこの技術だけを身に付けたとしても、それ以外の技がなければとても実戦では勝てない。

 あらゆる事柄は、何か1つの要素が飛び抜けているいるだけでは実践しがたい。

 いくつかの要素をバランス良く複合して使いこなすことで、初めてそれは有用な技術となるのだ。

 

 だがそれを身に付けるには、大抵年単位の修練が必要だ。

 結局、ルーフには護身術云々以前に、クリアしなければならない問題が多すぎるということで、ザン達は彼に技を教えることを断念せざるを得なかった。

 それよりも、「護身術が必要になるような危険な場所には近づくな」と、言い聞かせた方がよっぽど有意義だ。

 

 ともかくである、今ルーフに必要なのはこの「攻撃と防御をひとまとめにする」という技術である。

 勿論、武術としては彼には全く使えない。

 しかし魔法としてならば、どうだろう。

 

(そうだ……。

 今、僕が防御に使っている結界を、上手く利用することができれば……)

 

 できるはずである。

 少なくともルーフにとっては、身体を動かすことよりも、魔法を操ることの方が簡単だ。

 いや、できなくてもやらなければ勝機は無い。

 

「来い!」

 

 ルーフは巨人達を挑発するように叫んだ。

 それに応えるかのようにヘカトンケイルが、何本もの巨大な腕をルーフ目掛けて振り下ろす。

 それを真正面から受け止めようと、彼は素早く結界を形成した。

 それは肉眼でもハッキリ確認できるほど、魔力が凝縮された強固なものだった。

 そして――、

 

『グアアアアアアアアァァァァァァァ!?』

 

 ヘカトンケイルの悲鳴が上がる。

 ルーフの結界を殴りつけた彼の(こぶし)が、(ことごと)く砕けていた。

 いかに鍛え上げられた拳でも、その耐久力には当然限界がある。

 たとえ岩を砕くほどの拳でも、鉄ならば逆に拳が砕けるという具合に。

 

 だがそれくらいのことは、ヘカトンケイルも理解していただろう。

 事実、ルーフの結界を確認した彼は、その攻撃の勢いを(ゆる)めようとした。

 

 しかしルーフはその瞬間を狙って、結界をヘカトンケイルへ向けて拡大した。

 しかもその表面に、ごつごつとした無数の突起を形作って――だ。

 その結果、攻撃の勢いを殺すことができず、それどころかルーフが急激に結界を拡大した勢いも加わって、ヘカトンケイルの拳に叩き込まれた衝撃は相当なものになったであろう。

 しかも、結界の表面の突起、皮膚に突き刺さり、斬り裂きもしている。

 

 更に物体が衝突した瞬間には、必ず反動がある。

 殴るという行為にも同様であるが、人間は拳が相手に命中した瞬間に生ずる反動によって関節や筋を痛めないよう、関節の角度を最も負担の少ないものへと固定したり、力の入れ具合を調節したりと、ある程度は無意識の内に身体を対応させている。

 

 ところが、想定外のタイミングで結界を殴りつけてしまったヘカトンケイルには、その準備が整っていなかった。

 それ(ゆえ)にその腕の関節や筋組織には、少なからぬダメージが生じているはずだ。

 暫くは使い物にならないかもしれない。

 

(いける……!)

 

 ルーフは会心の笑みを浮かべた。

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